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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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4-6 聞こえてくる真実

********


 レオンは道ばたに並べられたランプの明かりを踏みしめて、都の第一層へ入った。


 神官達が住む此処ここは、他の層と雰囲気ふんいきが違う。

 整然とした街並み、歴史ある並木道、道の脇には清水が流れ、そこには小魚が住んでいる。

 神殿に勤める人々の手で整備せいびされた場所だった。


 エンツォの家の慈善団体じぜんだんたいに寄付している神官、アントニオの家の前には、多数の馬やロバが繋がれていた。

 馬には白い革縄かわなわがかけられていて、神殿から来た馬だと分かる。

 アントニオは高位の神官だから祭りに出ているだろうと思ったが、どうやら家にいるらしい。

 顔は知られているし、沢山の人がいるとしたら直接会ってカオスを見せてもらうことはできない。

 ……忍び込むしかなかった。

 軽々と塀を乗り越えてから、レオンは後ろを振り返った。


(――今、アーリアの声がした……気がする)


 強く思ってくれれば心の声が聞こえるとはいえ、あまり遠くに離れていると聞こえてこない。

 距離と音の近さが比例ひれいしているし、思いの深さも関係してくる。

 アーリアの心の声が強く届くのは、彼が誰よりも彼女のことを考えているからだろう。


(無事なのか? ……俺を呼んでくれたらはっきりと分かるのに……)


 アーリアの気配を探ろうとした時、庭の向こうから踊るようなリュートの音が聞こえた。

 誰かが歌を歌い始め、手拍子が始まる。

 祭りを祝ううたげもよおされているらしい。


 宴が行われている室を覗こうと、レオンは点々と紅葉の茂みが膨らむ庭を縦断じゅうだんした。

 薄く開いたカーテンの隙間から神官達の楽しげな様子が見える。

 さざ波のように凸凹でこぼこになっている建物の壁に背を付けて、テラス前の開けっ放しの窓に耳をそばだてると、音楽に混ざりながら人の話し声が聞こえてきた。

 一人はりがある若い声の男、もう一人は耳障りなしゃがれ声。

しゃがれ声の主は、この家の主、アントニオだ。


「生贄のイルマは、夜明けと共に山頂で殺す予定です」


 若い声が密やかに告げた。


「それで新しい代わりの星が手に入る……しかし、代わりの星を五百年も使い続けて何も起きないのだろうか……」


 アントニオが溜息交じりに言うと、また別の声が聞こえてきた。


真面目まじめに精霊との遊戯ゆうぎを行うのは危険だ。百番目の天姫が精霊より早く神王の星を見つけられなかったら、国に災いが起きる。こんなしきたりは廃止した方が良いだろう」


 中年らしき男の声が、アントニオを納得させようとする。


「大神官の言葉を鵜呑うのみにして大丈夫なのか――占いによって秋生まれの少女から天姫となる者を探しだすのが代々のならわしだぞ。これによって神王の星をも手に入れられるのに」


 しゃがれ声が続いた後に、誰かがゴホンッと咳払いをした。


「しかし、最後の百番目の天姫の時は……天姫だけではなく神官達の命も取られたし、海の魚達は極彩色ごくさいしきしおに飲まれて白い腹を見せて浮かんだ」

「年老いた高位の神官が、祭りの日に亡くなっただけではありませんか。魚が死んだのは少しだけ多かった赤潮あおしおかなにかの所為でしょう」


 しかし、そう言ったアントニオを馬鹿にする失笑が続いた。


「その前の天姫の時には、凶作きょうさくとなり、餓死がし者が続出した。これではいかん」


 アントニオが「それは」と口ごもってから、また嗄れ声を出した。


「だけれど、十月二日の夜明けまでに、天姫が神王の星を探しだして神王の額に付けるのは、何千年も行われていたことで……。我々は、もう五百年も前から行っていない。だから神王は星無しのままだ」

「いや、神王が星を無くしたのは、彼が天姫以外の者とちぎりを結んだからだ。だからあのように起きられなくなった」


ちぎりを結んだ?)


 言葉が示す男女の意味合いにレオンは愕然がくぜんとした。


(父が起きられなくなったのは、亡くなった母と子をなしたからか!)


 レオンの母は天姫ではない。

 隣国から贈られた奴隷だった。

 だから、レオンは卑しい腹から出た子として扱われてきたのだ。


「かといって百番目の天姫の遊戯ゆうぎが上手くいかなければ、精霊によって厄災やくさいが起きます」


 若者の声がすると、それに同意する男の声が聞こえてくる。


「一人の見目麗しい生贄いけにえさえ捧げれば、精霊が代わりの星をくれるのだ。神王は眠りについたままだから星などいらぬだろう。アントニオ、お前は大神官様に刃向はむかうつもりか?」


 大神官が、神王の星などいらないと思っているのだろう。

 神官達は彼に従うしかない。


 神王の星は、精霊の許しと恵みをもらう星だ。

 聖なる神王の星によって全ての罪悪が消え失せ、人は精霊の恵みを得るのだった。


(……イルマの命まで危ないか)


 レオンは心の中で呟いて、アーリアの顔を思い出す。

 彼女には話せない。きっと取り乱してしまうだろう。

 レオンは、ぐっと右手の親指を立てた。

 あの仲間に出会えたのは、愛というものを知ったのは、アーリアがいたからだ。

 心臓の位置に親指の腹を押し当て、彼は静かに目を閉じる。


(恋と友情に誓って、俺は彼女を、彼女たちを守らなければならない)


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