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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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4-3 大切な従妹

 ********


 身体が重くて動けないだけではなく、意識さえ遠くにさらわれる。

 第二層の派出所に運ばれた頃には、アーリアは夢の中にいた。


 ……四年前、両親の葬式が済んで二ヶ月経った時のことが、ありありとよみがえる。


 その頃、アーリアの心は浮き沈みを激しく繰り返していた。


 朝から夕方は社長なんだからと頑張り、夜になると気持ちが暗きふちへと落ちていった。

 店の奥の独りぼっちの家で、亡くなった両親を思い出しては涙ぐみ、遺品いひんに触れては唇を噛みしめ、最後には上手くやれていない社長業に辛さを感じて嗚咽おえつしていた。

 神殿から出られる時はレオンが来てくれていたが、それ以外の時は隣の家に住むイルマが気づいてけつけていた。

 彼女だって母を亡くして辛いはずなのに、耐えきれずに泣き出したアーリアをなぐさめてくれた。


『わたし、もう駄目だわ』


 銀行も、取引先だった商店も、若すぎるアーリアを相手にしてくれない。

 イルマの父がついてきてくれるから、どうにか交渉が進むのだった。


『わたし、お父さんとお母さんがいなきゃ、何にもできないんだわ』

『アーリア、直ぐに社長業をできる人なんて少ないですよ』


 イルマは決まってこう諭した。

 言われなくてもイルマの話は分かっている。

 だが、一人ぐらいはアーリアの話を親身になって聞いてくれて、取引してくれても良いと思うのだった。


『私は仕事のことは、まだよく分からないけれど……。良い方向に努力していれば、誰かがきっと見てくれるはず。その人が協力してくれるはず』

『みんな、わたしが子供だから、女だから無理だって言うの』


 イルマの細い身体に抱きついて泣きじゃくると、彼女は母のように背を撫でた。


『最初は反発もあると思いますよ。だけれど、そこでへこたれないで』

『今日は親無し子って言われたわ。家族がいない子は信用できないって言われたわ』


 それが一番悔しかったのだ。

 心の傷をさらに擦られたような気がして、アーリアは切なくていられなかった。


『家族がいないなんて……』

『でも、当たっているの。わたし、独りぼっちだもの。誰もわたしの責任を取ってくれないわ』


 するとイルマが背から手を離して、アーリアの顔をのぞき込んできた。

 いつもなら彼女の綺麗きれいな姿を見ると少しは心が晴れるのに、涙で視界がぼやけて分からない。


『アーリアには、私がいます』


 イルマが強い口調で言い切った。


『家族が欲しいなら、私がアーリアの家族になります。血は繋がっているんですもの。そうね、今日中にこの家へ引っ越します』

『引っ越す?』


 聞き返すとイルマは迷うことなく頷いてみせた。


『うちの父も、此処ここへ引っ越させます。私達は、家族になるんです』


 あまりのことにアーリアの涙は引っ込んでしまった。

 どういう態度を取って良いか迷っていると、イルマはすっと立ち上がって出て行こうとした。


『イルマ、でも……そんなこと叔父さんが許さないと思うわっ』


 慌てて声を出すと、イルマは頭を振ってアーリアの考えを否定する。


『お父さんもアーリアのことを心配しているから大丈夫です。あなたが元気になれるように、私達は毎日祈っています』


 叔父さんの顔が頭をよぎっていく。

 彼は心の底からアーリアのことを心配していた……そんな大切なことすら今まで頭に浮かばず、自分勝手に泣いていた。


『アーリアは独りぼっちじゃないし、これからは家族になるんだから、もっと独りぼっちじゃありません。私がそうさせません!』


 彼女の熱っぽい声が、固く閉ざされていたアーリアの胸に響く。


(わたしは、独りぼっちじゃないんだ)


 そうだ、イルマと叔父さんは今までだってずっと家族だった。


(泣いてなんかいられない。立ち上がらなきゃいけないんだ)


 アーリアが両手で涙をこすってから頬を叩くと、イルマは「直ぐに戻ります」と言って家を出て行った。

 そして一時間もしない内に枕とかばんを持って戻ってきた。


『お父さんも明日引っ越してきます。今日は、私だけですが我慢して』


 イルマの生活まで変えるなんて、そんな我が儘なことできない。

 そう言おうとしたが、先にイルマが口を開いた。


『私も寂しいんです。一緒にいましょう』


 イルマは鞄と枕をソファーにおいて、アーリアの前に座り込んだ。


『欠けたものを補えば、少しは楽になれます。このことを教えてくれたのは、アーリア、あなたですよ』


 そしてイルマはアーリアの頬に軽く口づけした。

 心が緩んで、アーリアはまたわっと泣いた。

 イルマの存在がありがたくて、側にいてくれることが嬉しくて、泣いて泣いて、もう独りぼっちだなんて言わないと心に誓ったのだった。


 じんわりと胸に暖かさが広がり、アーリアは胸を押さえた。

 いつもより左胸だけふくらんでいる……。


(――あ、胸のポケットに紙吹雪を入れたんだっけ)


 ポケットから清浄で暖かな感じがしてくる。


(そうだ、わたしは神王の星を探さなくちゃいけないんだわ)


 記憶が今と繋がり、夢が遠くなっていく。

 紙吹雪が、過去から現実へアーリアを連れ戻す……。


「起きろ!」


 バシッと頭を叩かれて、アーリアは身じろぎした。


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