3-12 罠と身体の異変
(それは、たしかにエンツォのことは好きだけども……?)
レオンの言葉に疑問を感じて、アーリアは首を傾げた。
そんな彼女に気がつかず、レオンはリビングの隣にある部屋へと入っていく。
「ほら、さっさと動け、ブスッ子」
(……そうね、今は星を探さなきゃ)
気がつけない何かに惑いながらも、アーリアはランタンを持ってレオンと反対の部屋へ入っていった。
人の家を捜索することに心を痛めながら、のろのろと足を動かす。
左右の壁に作り付けの黒い棚があり、正面の壁にでんっと大きな金庫が置いてある。
金庫の下に棚が設置されて、酒や果物などが供えられていた。
(ここかも……?)
彼女は罪を犯す恐怖に怯えながらランタンを置き、静かに金庫の扉を引っ張った。
錠前はかけられていなく、簡単に扉が開く。
戸の中に大きな黒革の箱が入っていて、中にカオスが入っているだろうと予想して取り出した。
箱を足下に置き、震えてしまう指で蓋を開ける……。
中に、黒く蠢いている何かが入っている。
(――動いている? ……生き物? まさか、気のせいよ)
悩みながら箱に手を伸ばすと、ひんやりと冷えた何か感じた。
それは身体をひねらし始めた。
「きゃっ」
小さく悲鳴を上げて蓋を落とす。
と、同時に箱から金色の目をした何かがシュッと空気を裂いてアーリアに襲いかかる。
悲鳴を飲み込んで目を閉じた時、誰かが横倒れになりそうだった身体を抱いて支えてくれた。
「……罠を仕掛けていったのか」
耳の上からレオンの声が聞こえて、恐る恐る目を上げると、目の前に牙を剥き出しにしている金目の細長い蛇がいる。蛇の頭をレオンががっつりと片手で掴んでいた。
「毒蛇だな」
「……っ」
逃げようとレオンに抱かれたまま身をねじるが、どこに逃げたらいいのかも分からない。
「寝ろ」
「何言ってんのよっ」
頭を動かしてレオンの方を見ると、彼は蛇を見つめていた。
視線を蛇へ戻すと、レオンに掴まれたまま蛇の身体は死んだようにだらんとしている。
レオンはアーリアの身体を解放し、蛇を箱へ戻して蓋を閉じた。
「蛇、寝ちゃったの……?」
安心した途端、落ちる息と共に足を崩させ、ぺたりと座り込む。
「ああいう動物は、寝かせるのが簡単だから――…。アーリア、エンツォが呼んでいるぞ」
レオンが部屋の戸の方を見てから、アーリアの肩を叩いた。
「ほら、立って」
「う……うん」
思わず腰が抜けました――なんて言ってられない。
ぐぐっと足を踏ん張って立ち上がろうとすると、レオンがアーリアの両脇に手を差し込んできちんと立たせてくれた。
「お前さ」
「なに?」
「身体、重くなってないか?」
「!」
言い返そうとしたが、確かに身体がずっとおかしい。
身体の中心に鉛の重りがつるされているような、そんな感覚がする。
「朝早かったから、疲れているのよ」
(それに、今朝、ちょっと走り回ってしまったし)
神殿でのことを思い出して、アーリアは何ともなさそうな顔をした。
「いや、そういう重さじゃなくて、物理的に重い。太った?」
「太ってないもんっ」
気にしているのにっ、とレオンを叩こうとしたが彼は「そうか」と呟いて彼女を置いて部屋を出て行った。
(ほんっと、ちょこちょこ苛めてくるんだからッ)
アーリアがレオンの背を睨み付けて悪態をつくと、彼がぷっと吹き出した。
(あ、考えが届いちゃった)
「ほら、こっちこい。デブ子」
「デブ子じゃない!」
背中に二発、軽く手を握った猫式パンチをしてやるとレオンが振り返ってアーリアの頭を掴んだ。
「言い返せるってことは、まだ元気だな」
彼が心配していたような気がして、アーリアは尖らせていた唇の力を緩める。
「……そうね、元気かも?」
そう言うと、レオンは軽く頭を押してから手を離した。
頭に彼の手の平の堅さとぬくもりが残っている。
本当はそんなに元気じゃないのだけれど、気力がわいてくる。
カオスを探してから随分と重くなった身体を動かして、アーリアはレオンと共に金庫の部屋を出て行った。




