3-11 恋と友情の好き
「バカなこと言うな!」
レオンが叫び、ランタンを落としかけ、火を取り囲むガラス部分を掴んで「熱っ」と声を放つ。
「ぷぷっ、すごい動揺の仕方だなぁ」
エンツォは笑ってから、レオンの肩を叩く。
「そんなことより私たちのランタンは一つだから、この家にある灯火器に火を灯して探そう」
さっきまでの悪戯っ子の態度を翻して、エンツォは至極真面目な顔になる。
「お前な……」
ランタンの取っ手を握りしめて、レオンがエンツォを見る。
「私はテーブルの上の燭台を、アーリアは暖炉の上のランプを使って」
レオンが黙りこくり、アーリアへ瞳を向ける。しかし、それは一瞬だけだった。彼は直ぐに視線をおろして、ランタンをアーリアに差し出した。
「俺がランプに火を付けてくるから、お前はランタンで探してろ」
「あの……」
ランタンを受け取りながら彼女は声を出す。
「じゃあな」
「心の声が聞こえるって、どういうこと?」
そんな話、今まで聞いたことがなかった。
確かに、言われてみれば、アーリアが寂しい時や辛い時は、必ず彼が側にいてくれる。
何も言わなくても、どこかに隠れていても、見つけ出してくれる。
「いつも、聞こえるわけじゃない。たまに……アーリアが強く思った時とか分かるんだ。アーリアより頻繁じゃなくても他の人の心の声もたまに聞こえるし……」
(どうして聞こえて来ちゃうの?)
詳しく聞いてみたかった。
だけれど、問えば、レオンの秘密を暴いてしまいそうな気がして、彼女は口を噤んだ。
エンツォは、レオンは普通の人ではないという。
ダニエレやアーリアは、踏み込んではいけないこともあると思って、レオンの詳細を聞かないが、エンツォは違う。
興味をもったことは、どこまでもどこまでも、追求する性質がある。
「臆病になって知らないままだとレオンを守れないかも」とエンツォが話していたことがあった。
あれはいつの事だったか……とアーリアが考えを巡らせた時、レオンがギュッと目閉じて項垂れた。
「……ごめん、気味悪いよな」
「なにが?」
直ぐに話しかけると、レオンはそっと顔を上げ、一瞬だけ琥珀色の瞳でアーリアを捕らえた。
「心の声が聞こえるとか、気持ち悪いだろ」
「ううん、別に困ることないからいいけど」
素直に言うと、レオンは驚いたのか大きく目を開いた。
「そ、なのか」
「うん。どちらかというと助かっていることの方が多いし、気にしないわよ」
アーリアの言葉を聞いたエンツォが含み笑いをして肩を震わせている。
「……だから、私は言っていたのに、ひぃっひぃっひっ」
奇怪な笑い声を発し、エンツォがポケットからマッチ箱を取り出す。
「お互い、気にしすぎ、気にしすぎ、だって、ひぃっ」
彼が燭台の蝋燭に火を灯すと、室内は一気にオレンジ色の明かりで照らされる。
淡色のカーテンや、緑黄色野菜の料理や、テーブルの上の花瓶に生けられた赤っぽい小さな菊花や、テラコッタの床に敷かれた白毛の絨毯が、視界にくっきりと入り込む。
「……はぁ、面白い。二人とも、早くカオスを探してね」
そう言って、エンツォはリビングから出て行った。
室内がやや薄暗くなり、暫くすると、たんたんたんと階段を上っていくエンツォの足音が聞こえてきた。
「エンツォは、レオンの何から何まで知っているのね」
率直な感想を言うと、レオンはむすっと頬を歪ませる。
「あいつは、すごくいいヤツだ」
表情とは裏腹な言葉をレオンが口にした。
「俺が神殿に閉じこめられている時も、父親と神殿に来ては父親の目を盗んで、牢の鍵を開けて遊びに来てくれた」
「神殿に遊びに行くってよく言っていたけど、あれってそんな事していたの」
「そうだよ。あいつは、本当に良いヤツなんだ」
レオンはアーリアに背を向けて、エンツォが置いていったマッチでランプに火を灯す。
また室内がふわっと光に満たされて、レオンの細かな動きも目に止まる。
彼の広い背は、幽かに緊迫して、僅かに丸まっていた。
「だから……エンツォのこと、アーリアが好きになる気持ちも分かるよ」
レオンの言葉の何かが、ずれている。
そう気がついたけれど、何がずれているのかまで、彼女は気がつけなかった。




