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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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3-10 君の心は届くから

********


 レオンは庭に落ちていた石で格子窓のガラスの一部を割り、窓の鍵を外す。

 静かに窓が開けられて、レオンが最初に窓から屋敷の中へ入っていった。


「エンツォ、入って」


 中高の窓から右手を伸ばして、レオンが言う。エンツォはアーリアが思っていたより身軽に中へ入っていった。

 つづいて、アーリアが鈍くなってきた動作で中へ入ると、屋敷の中は料理の良い香り満ちていた。

 そこは大きなソファーが置かれたリビングだった。

 レオンがランタンの明かりを動かすと、テーブルには散らかった料理が残っていて、おかれたスープの皿から湯気が立っている。

 さっきまで、ここに人がいたらしい。


「――人が残っているかもしれないから二階を見てくる」


 レオンはランタンをテーブルにおいて、するりと闇の奥へ消えていった。

 アーリアもエンツォも一階の隅々を見ていった。

カサカサと絨毯を踏んで歩き回っても、誰かが起きてきて、駆けつけてくるような気配はない。

 まだ煙の匂いが残るキッチンからアーリアが戻ると、レオンがリビングに戻ってきた。


「人はいないな」


 彼の言葉にアーリアは小さな細い息を足下に落とした。


「レオン、カオスがどこにあるか分かるかい?」


 密やかな声でエンツォが話しかける。


「普通なら宝石箱だと思うが……なんだろう、この感じ」


 レオンは家中を見渡してから、己の鼻を親指ではじいた。


「家のあちこちから、神殿の気配がする」


 漠然とした言い方をして、レオンが歩き出した。


「おかしいな、神殿の気は……普通の家ならカオスにしか宿っていないはずなのに」


 カサ、カサ、とレオンが歩く度に音が鳴る。今まで人の気配ばかり探っていて気にもとめなかったが、さっきから足の下に何かがある――?

 アーリアは足元を見た。小さく切られた紙が至る所に散らばっている。


「紙吹雪ね」


 アーリアは紙を一枚つまんで、裏側を見た。

なにも書かれていない、ただの白い紙である。


「それ……」


 レオンがアーリアの手から紙吹雪を奪った。


「紙から、神殿の気が漂っている……」


 レオンはじっと紙を見てから、顔をしかめた。


「どういうことだ? 神殿で清められた紙か」


 彼が呟くと、エンツォが小さく笑う。


「一年前からカオスの粉末が入った紙を作っているよ」

「はっ?」


 思わずレオンは大きな声を出し、慌てて口をきつく閉ざしてエンツォを睨んだ。


「いやいや、そんな顔しないでよぉ。我が家だって、神殿から依頼された紙を作っているだけなんだから」

「カオスを紙に混ぜるなんて初めて聞いたぞ」

「神殿で儀式を行ったカオスの粉末を、紙にちょっとだけ混ぜてって話がきてさ。たしか、今年の祭りの紙吹雪のためだって話だったはず」

「この紙は、神殿で使われているのか? なぜ、この家にある?」

「分かっている中だけで、うちの慈善団体で寄付してくれた人に配ったよ。神殿から、善の行いを行った人を祝福するってことでね。で、紙をもらった人たちは祝祭である今日、聖なる紙吹雪を作っているってわけさ」

「……」


 レオンが珍しく舌打ちした。


「ほら神官のアントニオさん、知っているだろ? 彼から依頼が来たんだ」

「アントニオの上司、カリファードの仕業だ」


 大神官の名を出してから、レオンは「やられた」と呟いた。


「あいつ、天姫の星を探す者が、どこをどう捜索するか分かっていたんだ。感覚が鋭い者ならカオスに宿る神殿の気を頼りに探すだろうって思って、カオスを紙にしてばらまいたんだ」

「どうして大神官が神王の星を探す邪魔をするの?」

「神王の額に星が戻ったら神王が目覚めるかもしれない」

「となると、大神官の権力が神王の手に戻るからね」


 エンツォがレオンの言葉を補足する。神殿が敵に回ったら、自分達では対処できないとアーリアは表情を硬くする。


「カオスが入っているなら、何か役に立つかもしれないな」


 レオンは紙吹雪を集めて、そこにふぅーと息を吹きかけた。


「俺の気も送り込んだ。これをポケットに入れておけ」


 エンツォがひとつまみ、アーリアもひとつまみ紙吹雪をもらう。胸ポケットに紙吹雪を入れると、さっきまでの身体の重さが少しだけ弱まった感じがした。

 レオンは手の平に残った紙をズボンのポケットに詰めてから、こちらへ顔を向ける。


「手分けして、色んな場所を探そう。他に手段がない」

「そうね」

「見つけたら、俺を呼んで」

「うん」と返事をしてから、アーリアは疑問を感じてレオンを見た。

「大きな声で呼んだら、人に見つかるんじゃない?」

「エンツォなら囁き声で届くし、アーリアなら……」


 レオンは途中で言葉を途絶えさせ、口を隠してばつが悪そうな顔をする。


「わたしなら、なに?」

「アーリアなら心の中で呼ぶだけでレオンに届いちゃうよ」


 もごもごしているレオンに代わってエンツォが面白そうに告げた。


「なにそれッ」

「シーッ」


 エンツォが人差し指を口の前に立てて、声を高く上げたアーリアを諫める。


「隠れん坊している時に気がつかなかった? アーリアがどんなに巧みに姿を消しても、鬼になったレオンは直ぐに見つけちゃうでしょ」

「そう……だったけど」

「で、私も不思議に思ってレオンに聞いたらさ、アーリアの心」


 パンッ。

 レオンはエンツォの頭を平手打ちした。


「わたしの心って何?」


 すこし秘密めいた匂いを感じて、アーリアはエンツォから聞き出そうとした。


「私語は慎め。星を探すぞ」

「……っ、もう。恥ずかしがり屋さんなんだから」


 問答無用でレオンはエンツォを右に押しやり、アーリアを左に押しやった。


「早く、探し出せ」


 エンツォは吹き出して、アーリアをちらりと見やる。彼の瞳に悪戯っ子的な企みの色がある。


「レオンにはアーリアの心の声が届いちゃうんだって」


 さっと言って、エンツォはレオンから飛び離れた。


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