3-7 宝石泥棒の暗躍
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二軒目、三軒目、四件目、五軒目と、花聖院の院長と同じ方法でカオスを確認していった。
なぜだが、カオスを確認する度にアーリアの身体のあちこちが痛む。
だけれど持続する痛みではなくて、痛む場所を押さえた時には消えてしまうのだった。
不思議に思いながらも、疲れて重くなっていく身を支えてアーリアは馬に乗っていた。
六軒目の家は畑の真ん中にあるという。
教育の普及に情熱を注いでいて、石板やチョークなどの文房具を学校に寄贈している男性の住まいだ。
馬がやっと通れるぐらいの細い路地を抜けて、柵で覆われた畑へ出ると、ガシャンとガラスが砕ける音がして、土を巻き上げた風が馬に襲いかかった。
「……なんだ?」
嘶く馬をレオンが声で制しながら、背にしがみつくアーリアの手を掴んだ。
「宝石泥棒だ!」
葡萄棚の向こうから怒声が重なり、飛んでくる。
「宝石泥棒が、ぼくに話しかけてきたッ」
近くまで迫った塀の向こうから、家人達の声が響いてくる。
「割れた窓に金貨があるっ」
「おい、宝石は無事か!」
「宝石泥棒は、カオスを奪っていったよっ」
飛び交う言葉にアーリアは耳を澄まし、自分たちより先に宝石泥棒が来たことを知る。
「アーリア、ここで待っていて」
レオンに続いて馬から下りると、アーリアは頷いて硬い手綱を受け取る。
レオンは煉瓦の形が浮き上がる白塀の横を駆け、薔薇のアーチを潜っていった。
暫くすると、彼は酷く落ち着いた顔をして戻ってきた。
「宝石泥棒がなりふり構わずに行動しているようだ。子供に話しかけてカオスを奪ったらしい」
「ここの家のカオスが神王の星だったの?」
聞くと、レオンは金髪をふり、「違う」と教えてくれる。
「門を入って直ぐに、これが落ちていた」
レオンが見せたのは小さな白い袋だ。カオスが入っているものだった。
「中にカオスが入っている。この家には神王の星はなかったんだ」
そう言って、レオンは袋の紐を塀から飛び出る鏃型の泥棒避けに目立つようにかけた。
「手間が省けたね、次の家へ行こうか」
エンツォが言うと、ダニエレが善人と思う人をまとめたリストをがさごそと開いた。
「次は、……アルゴ・ベットーニさんのお家だよ」
ダニエレの言葉にレオンが「はっ」と息を吐いた。
「郵便局長の家か」
レオンの上司の家と分かり、アーリアは緊張を強くする。
「郵便局長さんは、慈善団体全体の募金の協力者なんだよ。彼の口利きで沢山の方が募金してくださる」
エンツォが朗らかに説明すると、レオンはあまり良い表情はしなかった。
「本当に善の心でやっているのか疑問だよな……」
「うちへの募金活動なんて、善以外の何者でもないよ」
「たしかにポストに募金の広告を載せていたりするけれど……ポストを普及するためだって言ってたぞ」
「照れ隠しでしょ。まぁ確かにポストに募金の広告が載っていると、良い印象を与えるけれど、レオンは考えすぎだよ」
やんわりとした口調でエンツォがレオンを制した。
「――この隣の通り、すぐに着く」
言って、レオンはアーリアから手綱を受け取って、斜め前へ歩き、柵で囲まれた角を曲がっていった。
アーリア達は声を殺してレオンの後に続いていく。
隣の路地へ入ると、また白い家に挟まれた道になった。
家々の門の前に掲げられたアリキート国の国旗が、夜風を受けてひらひらとはためいている。
国旗の下にはランタンやランプが置かれ、通りの闇を薄黄色の光でぼかしていた。
「郵便長の家は……」
真新しいポストの横でレオンは立ち止まり、エンツォを見る。
「ここだよ」
四人は木の門扉を開けて、郵便局長の家の玄関に向かった。
静まりかえっているので、もしかしたら人がいないのかもしれない。
エンツォがドアノックを掴んで、強めに叩いた。
広い屋敷だから、家族かお手伝いが残っているような気もするが、何度ノックしても人が出てくる気配はない。




