3-6 心に広がる微熱
「アーリアは成長したよ。だから、時々、俺も苦しくなる」
「……どうして」
訊ねる声が微熱を持っていた。
レオンにしっかりと抱きかかえられた途端、悲しみや辛さが和らいで、ふつふつと胸の内から真綿のように柔らかな熱が生まれてくる。
熱はアーリアの関節を振るわせて、骨で身体を支えきれなくなる。
「どうしてって、へんてこな気持ちになるから」
レオンの答えはアーリアが求めていたものとちょっと違っていた。
なぜか、彼女はレオンが……友達じゃない好きを言ってくれるような気がしたのだった。
(わたしって本当にバカ。レオンがそんなこと言うはずないわ)
身の程知らずにもほどがある、とアーリアはちょっと恥ずかしくなる。
「今も、へんてこで……だから、アーリアを支えないと、と思っていて」
「大丈夫よ、わたしは。少し色んなことを考えちゃっただけなの。……こんな風にうだうだしている場合じゃないわよね」
一生懸命、心の弱さを隠してアーリアは言った。
「アーリア……俺が大人になって見えるなら、俺のこと頼ってくれ」
「た、……頼っていたと思うわ。ずっと頼っていたわよ」
「だから、今までのようなのじゃなくて」
レオンの指がアーリアの背筋を滑り、腰に触れる。
すると仲間を抱きしめているのではなく、異性を抱きしめているような感じになってしまう。
顔全体に熱が広がり、アーリアはぱくぱくと口を動かした。でも、言葉が出てこなかった。
「エンツォにするみたいに、頼ってくれ」
(……)
「店番したいの?」
「いや、……でも、そうなるのか」
彼自身も吐いた言葉の意味に混乱しているのか、歯切れが悪い。
「とにかく、頼れ!」
レオンは問答無用という風に言い切ってからアーリアの身体を解放した。
「頼りすぎたら、仲間じゃなくなるわ」
「仲間だよ。俺はずっとアーリアに支えられていたんだから、今度は俺が支えるんだっ」
きっぱりと言われて、アーリアは両手で自分の胸を押さえた。
レオンに頼っていい。
支えてもらってもいい。
いいんだ。
ぐるぐると悩んでいた頭が、すっと晴れていく。
悩みという雨雲が消えて、今やるべきことが見えてくる。
すると、最初にイルマの顔が脳裏に浮かんだ。
(生きなくちゃ。夜明けになったら会いに行くってイルマに言ったんだから)
生きるためには、この試練を乗り越えなくてはならない。
「レオン、助かるわ。ありがとう」
アーリアは背伸びをしてレオンの頬にキスをした。
この頃はやっていなかったが、幼い頃に良くしたほっぺのちゅーだった。
「さっ、がんばるぞぉー」
むんっと力こぶをつくってから、彼女はアーチの門へ歩き出す。
「……バカ」
なぜかレオンが悪態をついたが、声に嫌みのかけらも感じられない。
祭りの賑わいを背負いながら夜は更け、雲に隠れていた月が姿を現す。
まとわりつくような闇が薄まり、月と星の光で物の輪郭が浮き上がり、夜道も見通しやすくなっている。
(焦らないで、心配しないで、自分)
アーリアは心に言い聞かせて、馬上の人になるレオンを見た。
(わたしにはレオンがついているんだから。エンツォもダニエレも手助けしてくれているんだから)
たんっと地を蹴って、彼女はふわりと小鳥が降り立つように馬にまたがった……つもりだったが、馬に落ちた時にいつもより体重がかかった気がした。
でも、気にせずに馬のしっぽを撫でる。
「次に、行くぞ」
「おうっ!」
アーリアが拳を振り上げると、エンツォとダニエレが吹き出した。
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