3-4 作戦と、恋の嫉妬
エンツォは少しだけ悲しそうな顔をして、院長に話し出す。
「最近、うちで保護した子供が悪戯をしてしまったと反省しておりまして」
「どのような?」
「他人の家へ侵入してカオスを取り替えてしまったそうです」
「へ、本当ですかね」
「子供は、お宅の家に侵入してカオスを四角い石に変えたと言っています。確認させていただけるでしょうか?」
すらすらと嘘を組み立てるエンツォに驚きながら、アーリアは様子を見守った。
「待ってください。もし、カオスがすり替えられていなかったら……」
「院長先生の家ですり替えたと言っております」
「精霊を入れた後のカオスを直接見たら、お守りとしての効力が失われるという話がありますからね……ちょっと確認するのは……」
「神殿から持ち帰ったまま見ていないのなら、カオスは布袋に入っていますよね?」
ダニエレが言って、ニコッと可愛らしく笑いかけた。
「布越しに手で触ってみて、丸くなかったら、すり替えられていると思うのですが、そういう確認方法では駄目ですか?」
それを聞いて院長は安堵した顔になって「カオスをもって参ります」と答え、一度ドアを閉じた。
「……あんた達って、いつも本番には強いわね」
「巧みな連係プレーを褒め称えなさい」
エンツォがほくそ笑む。
子供の悪戯だとかなんて……どこから思いつくのだろう、と改めてエンツォの賢さに舌を巻いた。
幼い時分から、エンツォの妄想力が生み出した言葉でみんな助かっている。
彼の話のフォローをするのがダニエレの役割で、段々と磨きがかかっているように思える。
パタパタと足音が聞こえて、再びドアが開いた。
「すみません、布袋を触っているのですが……丸っぽく感じます。すり替えられていないのでは?」
院長が差し出した布袋をレオンが受け取って、カオスの形を確認する。
アーリアも気になって、指先で軽く触れてみる。
つるんとした感触が布越しからも感じられた。
(……あ、なにこの感じ)
身体の中心に、尖った小さな重りがぽたりと落ちたような痛みを感じた。
痛いと思った時には、もう痛みは消えていて、アーリアは深く考えないことにする。
「石は丸いようだな……」
「ええ、カオスだと思うんですが」
「エンツォ、子供がすり替えたのは四角い石だったという話だったな?」
レオンがエンツォに話を振る。
「そう言っていましたね。あれぇ、あの子、家を間違えちゃったのかな」
エンツォはとぼけてみせてから、またいい人そうに微笑んだ。
「院長先生、すみません。こちらの勘違いでした」
「ああ、では、このカオスは本物のカオスなのですね」
「もちろんです」
エンツォが頷き、ダニエレがレオンからカオスを奪って院長に返す。
「夜分、お騒がせして申し訳ございません。このことはご内密にお願いいたします」
アーリアもダニエレに習って深く頭を下げた。
ダニエレは人を納得させたり信用させたりする力をもっていて、彼のおかげで仲間達は何度も救われている。
「はい、わかりました。その子供も反省しているそうですからね」
ドアがパタリと閉じられて、四人は盛大に息を吐いた。
「この方法で、あと二十件か」
「エンツォ、今、何時?」
ダニエレに言われてエンツォが懐中時計を取り出す。
「暗くて、針が見えないねぇ」
「……九時半だ」
レオンが時計を一瞥して時刻を言った。
「あいからず人間離れしていること」
エンツォがくすくすと笑って、懐中時計をポケットにしまった。
「そういう、異質なところに想像力が掻き立てられるのだけどねぇ」
「あんたの想像力は、いちいち怖いから想像するな」
「でも、私のこと好きでしょ?」
普段なら「好きだ」と即答するレオンが一瞬黙った。
仲間に対しての好きの大安売りが彼の特徴だったので、沈黙はすっと場を冷えさせた。




