3-2 『友達』に縛る呪文
囁くような声だったので、彼には聞こえていないはずだ。
馬の蹄の音が大きくて、祭りのベルの音も高らかで、こんな小さな声など届くわけがない。
「――気にするな」
レオンがアーリアを顧みて声をかけた。
「……」
どうして、気持ちが届いてしまうのだろう。
(なんで、レオンには分かってしまうんだろう)
段差がある坂で馬が左右に大きく揺れて、アーリアは慌てて彼の上着を掴んだ。
とんっと胸がレオンの身体に密着して、彼の肉体の引き締まり方に思わずびくりと手を離してしまう。
するとレオンがアーリアの手を掴んで引っ張り、自分の身体に身を寄せさせた。
指も手の平も硬い。
そしてアーリアの手より一回りも大きい。
(この前まで、少年だったのに……)
背丈が伸びただけと思っていたが、身体まで大人になっている。
昔は、どちらかというと繊細な女の子のような姿をしていた。
レオンよりアーリアの方が大きくて、「二人の性別が逆だったら良かったのにね」とまで皆に言われていたのに……。
(……駄目だ)
アーリアは身をレオンに寄せながら、心を彼から引きはがした。
(頼りすぎては、駄目だ)
大きくなっているからといって、彼の逞しさに心の全てをゆだねてはいけない。
仲間とは、そういうものだ。
対等な立場で、対等に助け合いをするのが仲間だ。
強い者に弱い者が頼り切るのは、仲間とはいえない。
そう思い、彼女は左手の親指を立てて、レオンの胸にくっつけた。
(――友情に誓って)
心の中で友達の呪文を唱える。
(友情に誓って、わたしは貴方の負担にはならない。わたしは強くあるべきだから)
思ったとき、右手をぎゅっと握りしめられた。
「バカ、ちゃんと掴まってろ」
左手で作ったのは友情の印。
だが、レオンの服を掴むことしかできない右手は、彼の手に包まれて強ばっている。
強ばってしまうのは、手を握られて心が微細に震えてしまったからだ。
それがやたらと女っぽいものに感じて、アーリアは己が嫌になった。
レオンを意識している心の一部が、すごくいやらしく感じる。
その一部は、ひどく弱々しくて愚かで……これでは仲間として胸を張れない。
……こんなくだらない事をぐだぐだと考えてしまうのは、窮地に陥っているからだろう。
生死を前にして、彼女の頭はこんがらがっていた。
やるべきことを見失い、レオンなら助けてくれるんじゃないかと、すがってしまいたくなる。
だから、彼を普段よりも意識してしまうのだ。
「おい、ブスッ子」
かちんと来る呼び方で、レオンが話しかけてきた。
「こんな時までブスブス言わないでよ!」
今まで潤んだような感情に流されていたのに、一気にそれが消え去った。




