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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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3-1 彼の存在は日の光のようで

********


 慈善団体じぜんだんたい寄付きふをしていなくても、なにかしらの善の行いをしている人も含めて、神王しんおうの星をもっている可能性がある善人は、全部で二十一人だった。


 全員にカオスを見せてもらわなくてはならない。


 カオスは球体だが、神王しんおうの星は四角形だ。

 だから見せてもらうだけで、星かどうかは分かる、とレオンが言っていた。


「まずは、花聖院かせいいんの院長先生宅か」


 孤児院こじいんの名を言って、レオンは馬を駆けさせる。

 アーリアはレオンの後ろに乗り、彼の身体に捕まってこれからのことを考えた。


 花聖院かせいいんの院長は、元々都の第一小学校の校長であり、エンツォの家の慈善団体じぜんだんたいを通じて孤児こじ救済きゅうざいの活動をしていた人だ。

 彼は五十歳の時に自費で孤児院を開き、親がいない、または親に見捨てられた子供のために生きているという。


(――院長が家にいなかったら、どうしよう)


 考えるだけで不安になる。

 良い人だから話をすればカオスを見せてくれるかもしれないが、本人が在宅していなかったら諦めるしかない。


 揺れる馬の上、不安に駆られてアーリアはレオンに頭をせた。

 優しい言葉なんてかけてくれないのに、彼が側にいると心強い。


 辛いときにはげましてくれるのはエンツォで、愚痴ぐちを聞いてくれるのはダニエレ。

 でも、この二人に成長してから泣き顔を見せたことはない。

 なのになぜかレオンには、涙を見られても平気だった。


 彼はアーリアが泣いているときに、側にいてくれる。

 心から辛そうな顔で、泣いているアーリアを見ていてくれる。

 見ていてくれる……と思ったときに、アーリアはレオンをつかむ腕に力を込めた。


(ひとりぼっちで泣いていたら、わたしは立ち直れなかったかもしれない。イルマやレオンが見守ってくれていたから、歩き出せたんだ)


 今まで、どうしてこんな大事なことに気がつかなかったのだろう。


(……ああ、そうか。わたしは誰かに支えられていることすら忘れて、家のことばっかりしていたんだわ)


 アウラート酒造とイルマのことしか頭になかった己を、アーリアは悔いた。


 そうだ、四年前のあの時も、アーリアを悲しみの暗黒から救ってくれたのはレオンだった。


 葬式が終わった後、両親が亡くなった焼けただれた工場で、泣いて泣いて泣いて、声が嗄れてしまったアーリアの側に彼がいた。

 真夜中に、ひっそりと家を抜け出して来たはずなのに、なぜかレオンは隣にいてくれた。


『アーリアがどれだけ辛いか、俺が見ていて、聞いているから、泣くといい』


 あの時は、彼の言葉の意味が分からず、ただ泣きくれたけれど……。

 彼の行動は正しかったと思う。

 未来が見えぬ状況ではげましの言葉をかけられたとしても、この耳には入ってこなかっただろう。


 体中の水分を出し尽くすほど涙をこぼし終えると、レオンはシャツのそででアーリアの顔をぬぐった。

 窓枠が燃え尽きてしまって、ただの壁の穴となった窓から霧が入り込んでいる。

 霧を切るように金銀色きんぎんいろの陽光がななめに走り、その一筋がレオンを神秘的に照らし出していた。


『これからアーリアはどうしたい?』

『……なにを、どうするって……いうの』


 戸惑とまどいながらたずねると、光の中で彼はこちらにきびしい眼差まなざしを向ける。


『このまま親戚達の思い通りに土地も畑も売るのか、それとも酒造りに情熱を注いだアーリアのご両親の気持ちを汲み取るのか。前者なら俺はアーリアの心が潰れないように守る。後者ならアーリアが頑張れるように守る』


(――どっちにしろ守ってくれるんだ)


 そう感じた時に、ひどく心が楽になった。

 だから、なにをするべきなのか頭を巡らせることができたのだ。


「ずっと……ありがと」


 アーリアは手綱たづなを操るレオンに小さく言った。

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