3-1 彼の存在は日の光のようで
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慈善団体に寄付をしていなくても、なにかしらの善の行いをしている人も含めて、神王の星をもっている可能性がある善人は、全部で二十一人だった。
全員にカオスを見せてもらわなくてはならない。
カオスは球体だが、神王の星は四角形だ。
だから見せてもらうだけで、星かどうかは分かる、とレオンが言っていた。
「まずは、花聖院の院長先生宅か」
孤児院の名を言って、レオンは馬を駆けさせる。
アーリアはレオンの後ろに乗り、彼の身体に捕まってこれからのことを考えた。
花聖院の院長は、元々都の第一小学校の校長であり、エンツォの家の慈善団体を通じて孤児救済の活動をしていた人だ。
彼は五十歳の時に自費で孤児院を開き、親がいない、または親に見捨てられた子供のために生きているという。
(――院長が家にいなかったら、どうしよう)
考えるだけで不安になる。
良い人だから話をすればカオスを見せてくれるかもしれないが、本人が在宅していなかったら諦めるしかない。
揺れる馬の上、不安に駆られてアーリアはレオンに頭を寄せた。
優しい言葉なんてかけてくれないのに、彼が側にいると心強い。
辛いときに励ましてくれるのはエンツォで、愚痴を聞いてくれるのはダニエレ。
でも、この二人に成長してから泣き顔を見せたことはない。
なのになぜかレオンには、涙を見られても平気だった。
彼はアーリアが泣いているときに、側にいてくれる。
心から辛そうな顔で、泣いているアーリアを見ていてくれる。
見ていてくれる……と思ったときに、アーリアはレオンを掴む腕に力を込めた。
(ひとりぼっちで泣いていたら、わたしは立ち直れなかったかもしれない。イルマやレオンが見守ってくれていたから、歩き出せたんだ)
今まで、どうしてこんな大事なことに気がつかなかったのだろう。
(……ああ、そうか。わたしは誰かに支えられていることすら忘れて、家のことばっかりしていたんだわ)
アウラート酒造とイルマのことしか頭になかった己を、アーリアは悔いた。
そうだ、四年前のあの時も、アーリアを悲しみの暗黒から救ってくれたのはレオンだった。
葬式が終わった後、両親が亡くなった焼けただれた工場で、泣いて泣いて泣いて、声が嗄れてしまったアーリアの側に彼がいた。
真夜中に、ひっそりと家を抜け出して来たはずなのに、なぜかレオンは隣にいてくれた。
『アーリアがどれだけ辛いか、俺が見ていて、聞いているから、泣くといい』
あの時は、彼の言葉の意味が分からず、ただ泣きくれたけれど……。
彼の行動は正しかったと思う。
未来が見えぬ状況で励ましの言葉をかけられたとしても、この耳には入ってこなかっただろう。
体中の水分を出し尽くすほど涙をこぼし終えると、レオンはシャツの袖でアーリアの顔をぬぐった。
窓枠が燃え尽きてしまって、ただの壁の穴となった窓から霧が入り込んでいる。
霧を切るように金銀色の陽光が斜めに走り、その一筋がレオンを神秘的に照らし出していた。
『これからアーリアはどうしたい?』
『……なにを、どうするって……いうの』
戸惑いながら訊ねると、光の中で彼はこちらに厳しい眼差しを向ける。
『このまま親戚達の思い通りに土地も畑も売るのか、それとも酒造りに情熱を注いだアーリアのご両親の気持ちを汲み取るのか。前者なら俺はアーリアの心が潰れないように守る。後者ならアーリアが頑張れるように守る』
(――どっちにしろ守ってくれるんだ)
そう感じた時に、ひどく心が楽になった。
だから、なにをするべきなのか頭を巡らせることができたのだ。
「ずっと……ありがと」
アーリアは手綱を操るレオンに小さく言った。




