2-13 従姉妹との友情と約束
アーリアはひょいと身軽に部屋の中へ入り込んで、両膝に手をついて床に向かって強く息を吐いた。
「ここって、三階ですよね……」
イルマは窓から顔を出して、真っ暗な外を確認した。
やっぱり場所は三階で、隣の建物も飛んでわたれる距離ではない。
「うーんとね、三軒前にある木に登って、建物の屋根に飛び移ってから、こちらの建物に移動してきたの。小指の先ほどの段があれば、壁に捕まって移動できるし」
くすっと笑ってアーリアが背筋を伸ばす。
「……まったく、アーリアったら」
決め事は守らなければいけないと怒ろうと思ったのに、声に出した途端苦笑してしまう。
「私のことなら心配しないでいいですよ。総代もよくしてくれているし、食べ物ならたくさんあるし、行列も順調に進んでいるのだから」
「でも、会いたかったの」
そう言って、アーリアはいきなりイルマを抱きしめてきた。
腕が力強く背に回され、短く切った爪がイルマのドレスを握りしめる。
アーリアはイルマの肩に額を乗せ、息を漏らした。
まるで最後の別れのような、そんな抱擁だった。
「イルマ。なにかあっても、仲間が助けてくれるわ。ちゃんと今後のことは頼んできたから」
「……どうしたのですか?」
「でも、なんにも起きないように、頑張るから……怖いけど」
イルマの問いを無視し、アーリアはバッと強く身をはがした。
離れていく身体、そして視界に入り込む――決意した顔。
彼女の顔を見た瞬間、イルマは四年前のことを思い出す。
金に目がくらんだ親戚達を一喝したときの表情と同じだった。
(どうして、そんな表情をしているのですか。私は天姫になれて、アウラート酒造も軌道に乗って、こんなに素晴らしい日はないはずなのに……)
言いたいけれど、なぜか怖くて言い出せない。
知りたくもない事実を聞かされそうな気がする……。
だが聞かなければ、後悔してしまいそうな、そんな気配がする。
まるで葬式のように部屋の空気は重く、部屋の四隅に蹲る闇が目立って見えた。
このまま口を開かないでいると、闇に捕まってしまいそうだった。
「あ……アーリア」
呼びかけるが、すでにアーリアはこちらに背を向けて窓の枠を掴んでいた。
「大好きよ、イルマ。夜明けになったら、絶対、会いに行くわ」
冷たい秋風がカーテンを揺らし、アーリアの身体を包んで、灰色のスカートを広がらせる。
このままアーリアが風の中に消えていきそうで、イルマは彼女を掴もうと手を伸ばした。
「また、ね」
アーリアが窓からべったりと暗い夜の闇へ身を踊らせた。
イルマは小走りして窓から身を乗り出す。
「絶対、会いに来て。絶対ですよ!」
大声を張り上げて、アーリアに話しかける。だが、返事はない。
「……アーリアは、約束を絶対に破らない……ですよね」
呟きながら外に目を凝らしてみたが、もうどこにも……木々の影が重なる地にも、星空を抱く朱い屋根の裏にも、白く広がる壁にも、アーリアの姿は見つからなかった……。
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