2-10 カオスという名の宝石
「これでは、話が違う」
アーリアの星を見て、レオンが呟く。
「……差し支えなければ聞きたいけど、誰の話だい?」
エンツォがカウンターから立ち上がってレオンに視線を投げた。
「前に、大神官が言っていた話だ」
そう前置きしてから、レオンは重い口を開く。
「約五百年前、神王の意識と引き替えに、百番目の天姫の制度はなくなったと聞いている」
「ね、レオン。その制度って百番目の天姫が生贄になるってやつ?」
ダニエレが答えを求めるとレオンは軽く頷いた。
「そうだ。百番目の天姫は精霊と遊ばなくてはならない」
遊ぶなんて、とアーリアが口を挟む前にレオンが言葉を続けた。
「遊びとは、精霊よりも早く、都に隠された『神王の星』を見つけ出すこと。もし、星が見つけられなかったら、天姫は精霊に殺される。精霊が先に神王の星を見つけた場合は何かが起きるとされている」
殺される、と言われてアーリアは目の前のレオンの袖を掴んだ。
「そんな……わたし、まだ……」
なんとか声を出すとレオンが頷いた。
「アーリアは、死なないし、俺が死なせない」
レオンは、きっぱりと言ってから彼女の肩を叩いた。
「イルマのためにも、アーリアは死ねないだろう?」
アーリアが頷くと、レオンはエンツォとダニエレへ顔を向けた。
「このことで動いて良いのは……なぜか神王と天姫の他三人までとされている。ここにいるみんなで神王の星を探そう」
「レオン、神王の星はどこにあるんだい?」
エンツォが訊ねると、レオンは「ここら辺」と口走ってから困ったような顔つきになる。
「都のどこかにあるはずだ」
「そんなの漠然としすぎだよー」
ダニエレがカウンターに置いてあった精霊祭のチラシを手に取った。
「これを見てよ、都ってだけだと、港から第一層まででしょ。範囲が広すぎるよ」
チラシには都の地図が載っている。
港の手前あたりからチェレスタ山の頂上まで伸びている大通りの左右が『都』と呼ばれる地域である。
小さな都とはいえ、観光地だけを見回っても一日はかかる広さだった。
「星は、今年、山で採掘されたカオスが変化するんだ。ダニエレ、カオスに守護精霊を入れる儀式に来た人の帳簿をもってこられないか?」
お守りの宝石であるカオスは、神殿で売られている。
人々は神殿でカオスを買った後、祭場でそれぞれの守護精霊を入れるのだ。
だからカオスの帳簿があれば、購入者を特定できる。
「何とかできるかも。帳簿は、神官なら誰でも見られるし……。でもっ」
ダニエレは声を大きくした。
「カオスって毎年、百個から二百個も売られているんだよ。買った家を一軒一軒回っていくの?」
「善人を捜すんだ」
レオンが言うと、ダニエレが初めて聞いたという風に首をかしげる。




