2-8 隠された神話
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アーリアは小さな手鏡を握りしめて俯いていた。
店に来たエンツォと一緒に、額の宝石を取ろうと色んな手段を試したが無理だった。
ピンセットでつまんでも、蒸気を当てても、油や石けんを塗っても、額の宝石はびくともしない。
「うわー、本当だ。額にあるのは祭りの天姫の星みたいだ」
俯いているアーリアの顔を、座り込んだダニエレが見上げている。
エンツォが通りで遊んでいる子供に手紙をたくし、ダニエレとレオンを呼んだのだった。
「だけどさ、これは星じゃないと思うよ。だって天姫の星はイルマの額にあるのだもの」
ダニエレは笑いながらアーリアの膝をこづいた。
「精霊祭を見に来た沢山の人が都に来ているからさ……アーリア、きっと旅行者にからかわれたんだよ」
「でも、宝石泥棒さんは人間じゃなかったわ」
アーリアは首をかしげるダニエレに視線を向ける。
「宝石泥棒さんが言うには、星は二つあるんだって。一つはこの天姫の星、もう一つが神王の星で……神王の星は精霊が人を許し恵みを与えると約束するための星なんだって」
そこまで話すとダニエレは小さく息をのんだ。
彼は難しい顔をして立ち上がり、首をかしげて考え込む。
「神王の星を……普通の観光客が知るはずないね」
「神王の星って何? ダニエレ」
エンツォがカウンターに腰を下ろして幼なじみを見やる。
「本来は、神王が付けているはずの碧い星のことだよ。ただ、今の神王は付けていないんだ。神王の星は、百番目の天姫てんひめの年に神王の額から落ちるとされているのだけど……」
言いにくそうに唇をもごもご動かしてから、ダニエレは眼鏡の縁に指先を当て『博士』の態度をとった。
「こ、これは噂でごじゃるが」
博士の顔を見せつつも、どこか遠慮がちに言葉を続ける。
「あることで神王は呪われてしまって、神王の星を奪われたと聞いているでござる。それで彼は永き眠りについたとされているのじゃます」
「大神官は、神王が目覚めたって話していたわね」
アーリアが言うと、眼鏡の奥の瞳が賢そうに光った。
「神王の星と神王は呼応していると考えられるでごわす。神王の星が地上に降りたら、神王は意識を取り戻すかもしれない――それが目覚めだったのかもかも」
ヘンテコ言葉で言って、ダニエレはずいっとアーリアに顔を近づけた。
「中心から光を放つ四角い紅の宝石……と天姫の星のことは古の文献に書かれているでごじゃるます」
「文献に書かれていることが本当なら、アーリアの額の宝石が『天姫の星』という可能性はあるんだね」
エンツォが言葉を投げかけると、ダニエレはアーリアから顔を話して頷いた。
「イルマに与えられた星が偽物だというならば、だけどね」
そう言って彼は眼鏡の縁から指を外した。
「たださぁ。宝石泥棒の話が本当なら、閉神話が本当なのかも」
「閉神話ってなに?」
アーリアが聞くと、ダニエレは眉をひそめた。




