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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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2-6 伝わらない恋心

********


 愛しい人の声が聞こえたような気がする。

 それまで呆然ぼうぜんと歩いていたレオンは息を止めた。


(――アーリアが泣いている?)


 思った瞬間に、エンツォの顔を思い浮かべた。

 そろそろアーリアの店に彼が来て、二人で仲良く出かけるのだ。

 またアーリアを思い浮かべてレオンは落ち込み、潮風しおかぜ薫る海沿いの道をとぼとぼと歩いていった。


 仮面の行列が立ち去った後だったが、港には熱狂が残っている。

 行列を見た人々が「今年の天姫は美しい」と絶賛ぜっさんしている中、彼はうつむいたまま中央郵便局へ戻っていった。


「アーリアがエンツォを好きということは、俺とは完璧な友人関係ということで、つまりアーリアはエンツォだけを男として見ているということで、結論として、俺は眼中にないというわけで……。俺は必要ないわけで……」


 エンツォなら納得なっとくできると思う反面、彼にもゆずりたくないと思ってしまう。


「――あきらめたくない」


 十年前、親指を重ねた瞬間からこの心はアーリアのものだ。

 孤独で心が砕けそうだったあの日、彼女が支えてくれた。


 レオンの出自しゅつじも、背景も知らずに、無垢むくなまま彼女が助けてくれた。

 今も、レオンのことを深く知らないのに世話を焼いてくれる。


 そんなアーリアに対する、この想い、消せるはずなどない。

 だけれど……自分の恋心がアーリアの邪魔になるのならば……。


(一生懸命頑張っているアーリアの、重荷にはなりたくないな……)


 悲しみを心で握りしめながら郵便局に入り、漂うような動作で与えられた作業机へ行こうとする。

 ぼーと歩いていたら、右肩が何かにぶつかった。


「おいっ、レオン前見て歩けよ!」


 先ほど腰を抜かせた同僚が、配達のバックを腕に抱えてレオンをキッとにらんだ。


「ちょっと女に人気があるからって、ふてぶてしい態度しやがって」

「……好きな人には相手にされないけどな」


 思わず愚痴をこぼすと、同僚はぽかんと口を開けて意外そうな表情を作る。


「へ……イルマちゃんってお前のことが好きなんじゃないの?」


 どうしてここでイルマの名が出るのだろう、とレオンはいぶかしんだ。


「なんだ、そっかぁ。イルマちゃんは誰のものでもないのか」

「……俺が好きなのはイルマじゃない」

「は?」


 同僚は声を上げてしばし固まった。


「嘘だろ……あんな美人が側にいて好きじゃないなんて」


 彼がらした言葉で分かった。

 この同僚が、いちいちレオンの行動に口を出すのも、第三層の配達に関わり合おうとするのも、イルマが原因なのだ。


「イルマが好きなのは、俺じゃない」


 きちんと説明してやらないと、と片思いをしている同士をレオンは見下ろした。


「イルマが好きなのは、アーリアだ」

「え、あの勝ち気ババァ子――イテッ!」


 ババァと言った瞬間に、レオンは同僚の頭をはたいてしまう。


「好きったって……女同士じゃないか」

「家族愛と友情が合体したあげく、母親代わりとか、支え合いとか、複雑に絡まっている――『好き』だ。イルマはアーリア以外の人に目もくれない」

「そんなの……恋愛じゃないだろ」

「恋愛関係に踏み込むには、アーリアを超えなければならない。つまり……お前には超えられない」

「なんでだよっ」


 同僚は顔を怒りで真っ赤にしてレオンに食ってかかった。


「お前より頑張ってイルマの視界に入ろうとしている男がいる。こつこつと日々努力しているのに全く報われてない。あれだけやっても、イルマの視界に入らないなら、大抵の男は無理だ」


 ダニエレの涙ぐましい努力を思い出して、軽く息をついた。


 彼は、イルマのためとあれば一肌でも二肌でも脱ぐ。

 イルマの笑顔のために美味しい食べ物を日夜探しては差し入れし、ほぼ毎日恥ずかしいラブレターをイルマに書き、イルマに釣り合おうと勉学にいそしみ、イルマと結婚した時を考えて神官という公務員にもなった。

 ダニエレの毎日はイルマで染まり尽くしている。


 でも、想いは届かないのだ。


 どれだけ努力したら恋心は伝わるものなのだろうか……。


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