2-5 天姫は精霊と遊ぶ
「イルマに天姫の役を担ってもらおうと思ったが、お前を見て気が変わった」
そう言って、彼はアーリアの額に輝きを増す星を押し当てた。
「私は君を選ぶ。君が百番目の天姫だ」
星が紅色の光を八つの方向に放つ。
そして、めりっと額の肉に食い込んだ。
「痛いっ」
刃物を刺されたような痛みがし、アーリアは両手で額を押さえた。
「なによ、この石!」
指先に力を入れて、必死に外そうとする。
だが、星はびくとも動かない。
まるで頭蓋骨に固定されてしまったかのようだ。
放たれる光は店内を舐め尽くしてから、しゅんしゅんと額の星に戻っていく。
太い針が刺さるような衝撃がして、心臓が萎縮し、喉がふさがれてしまう。
彼女は額と胸を押さえて蹲った。苦しくて、呼吸が止まりそうだ。
(――なにこれ、なんなのよ、これっ)
胸を叩き、肩を上下させると、少しだけ楽になってくる。
「は……はぁ、はぁ」
呼吸を続けていくうちに、痛みはゆっくりと緩和されていった。
「……夜明け前までに精霊より早く神王の星を見つけなければ、君は精霊の生贄になる」
宝石泥棒が静かな口調で話しかけてくる。
「だが、精霊より早く『神王の星』を見つけ出して、誰かの額に付ければ、その者が精霊を押さえ込むだろう。この遊戯で動いて良いのは天姫と神王の他に三人までだ」
「だらだら話していないで、この星を取って!」
「死ねば取れる」
さらりと衝撃的な言葉を口にして、彼はアーリアに背を向けた。
「なんで死ななきゃならないのよっ」
「いやなら精霊から逃げればいい。そして、もう一つの星を探せ。じゃないと最後は死ぬ」
「冗談じゃないわよ、早く外しなさいよッ」
アーリアは拳を固く握って、宝石泥棒の足を殴ろうとした。
ぶんっと拳を振るうと、宝石泥棒はガラス細工みたいに脆く砕け散り、その破片は瞬く間に小さな砂粒となる。
「……ど、どうなっているの」
困惑するアーリアの前で砂粒がふくれあがり……ザァァァッとドアに向かって動き始めた。
勝手にドアが開き、窓がガタガタと鳴り、また強風が店内を殴り回す。
アーリアは耳を押さえ、砂粒が入らないように目をつぶった。
「さあ、遊戯の始まりだ。アーリアよ、百番目の天姫よ、精霊と遊びたまえ!」
宝石泥棒の声が風の中で響き渡る。
「この星を外して!」
彼女は風に向かって叫んだ。
だが、風は悲痛の声すら容赦なく切り裂くと、自らの存在だけを主張し、高く高く鳴り響きながら、店のドアから出て行った。
(どうしよう……助けて)
(助けて、レオンっ)
アーリアは奥歯を噛みしめながら、無意識の内にレオンを呼んでいた。




