2-4 本物の天姫の星
ランプが揺れて火が消えそうになり、店の中は明るくなったり暗くなったりを繰り返す。
アーリアは強風から逃れようと顔を背けて目を閉じた。
店のガラス窓が激しく鳴り響き、それからリーンリーンとドアベルの音がした。
ベルを切っ掛けにしたかのように、風がぴたりと止む。
「最近の警官は、暴力と拒絶の区別もつかないのか」
どこかで聞いた覚えのある声が聞こえた。
目を開けて顔を上げると、アーリアの手は警官ではない青年に握られていた。
(あの時の……宝石泥棒さんだ)
宝石泥棒は怒りがこもった目で警官を一人一人睨んでいった。
すると警官達はぶるりと震え、顔を蒼白にしていった。
「この子が泥棒をしたという証拠でもあるなら、ここで見せろ。できぬなら、去れ」
さっき来たばかりなのに、今までの成り行きを分かっているような口ぶりだった。
宝石泥棒から異様なほどの気迫が感じられる。
警官達はぎこちなく彼から遠ざかり、ドアの前まで来ると、次々と外へ飛び出していった。
彼らは両手をぶんぶんと振り回し、奇声を発して走り去っていく。
「……ありがとう」
「礼にはおよばん。犯人は私の方なのだから」
「……そうだったわね」
ボォォォンと遠くから時鐘の音が聞こえた。
「七時か――仮面行列が始まるな」
「まだ行列は進んでいなかったの?」
それを聞いてほっとする。今から商店街へ行けば祭りに間に合う。
「君、鬼ごっこは得意かい?」
宝石泥棒が彼女の手を離しながら訊ねる。
「子供の頃は得意だったけれど、最近はやっていないわね」
答えると宝石泥棒は気味が悪いほど優しく微笑んだ。
「本当は、私一人で星をすべて手に入れたかったが……君にも動いてもらおう」
「星? 天姫の星のこと?」
やっぱりこの人はイルマの額の宝石を狙っているのだ、とアーリアは身構えた。
「宝石泥棒さん。あなたは、どうしてイルマの星を狙うのっ」
「イルマの星? あんなものには用がない。私が欲しいのは天上の星だ」
「からかわないで。空のお星様なんて盗めるはずないわ」
「百年に一度、天上の星の、光の結晶が地上へ降りてくる。それが私の欲しい二つの星だ。一つは精霊が人と遊ぶための星、一つは精霊が人を許し恵みをもたらすと約束するための星」
そして彼は微笑んで、懐から小さな革袋を取り出した。
「精霊と遊ぶための星は、これだ。天姫の星と呼ぶ。この島に住む、もっとも欲深い者の元で誕生する星だ」
革袋から彼の手のひらの上に、四角くて小さな宝石がころんと落ちる。
「天姫の星は、イルマが付けているのよ」
「あれは偽物だ。よくごらん、本物の天姫の星は光を持っている」
確かに宝石泥棒の星は、内側から淡い紅色の光を放っていた。
これはルビーではない。
「この天姫の星は、九月に目覚めて、秋生まれの乙女の額に輝く」
宝石泥棒は星をつまんで、アーリアの目の前に持って行った。




