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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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19/64

2-3 始まりを告げる風の音

(えっ……すごく嫌な感じ!)


 アーリアは嫌悪感を顔に出したまま、だんだんだんっと今度は音を鳴らして走った。

 憤りを噴き出しながら店に到着し、無垢木のカウンターの上にリュックをおろす。


「今日は、幸福な日のはずなのに……」


 一瞬にして、嫌な日になってしまった。

 リリリンとベルの音が店へ侵入してくる。

 仮面の行列が商店街まで来たのかもしれない。


(早く、エンツォと一緒にイルマを観にいかなきゃ……)


 久しぶりの幸福感が、こんな風に崩れてしまうだなんて思いもしなかった。

 でも、これは一時のことだ。

 イルマは天姫だし、祭りの酒はアウラート酒造のものだ。

 それだけは、絶対に変わらない幸福な事実なのだ。

 これらは壊れるはずがない。


(天姫のイルマを観て、もう一度、幸せを噛みしめなきゃ)


 アーリアはカウンターの縁を掴んで、己に言い聞かせるために頷いた。

 そして二秒経った後に、勢いよく顔を上げる。


「よし、行くわよ!」


 元気を込めて言った時だった。


「店はこっちか!」

「もう少し先か!」


 詰め襟の制服を着た警官二人が、一度アウラート酒造の前を通り過ぎてから、


「そこだっ」


 と叫んで後ろ向きで戻ってきた。


 警官達は、荒々しく店の戸をあけてゼイゼイしながら飛び込んできた。


「アーリア・アウラートだな。ちょっと警察署まで来てもらおうか」

「……どうして?」


 本当は聞かなくても理由ぐらい分かっている。

 さっきのおばさんが見回っている警官にアーリアのことを話したのだろう。


「昨日今日と宝石泥棒が出没していてね。今日の朝は大神官の家で宝石を盗み、夕方には第三層の民の家に侵入した……。その侵入された民家の前に君だけがいたそうだ。だからご同行いただきたい」

「断るわ!」

「前々から君には目を付けていたのだよ。泥棒のように逃げ足が速く、泥棒のように身軽なアーリア」


 アーリアはそっぽを向いてカウンターに置いてあった店の鍵を握りしめた。


「もう、出かけなきゃならないの。だから、さっさと店から出て行って」

「予定は取りやめて、警察署に来ていただきたい。被害をこれ以上拡大したくない」


 一人の警官がしかめっ面で言うと、隣の警官がほくそ笑んだ。


「祭りの朝、大神官の家で泥棒をするとは恐れいったな……」

「勝手に泥棒にしないで!」


 言い返すと、笑う警官は下卑た視線でアーリアを舐めた。


「お洒落な服が欲しかったようだな。……大神官なら良い宝石を持っていると思ったのだろう。このコソ泥が」

「わたしの店から出て行きなさいよッ」


 怒鳴って鍵を振り回したとき、警察の一人が乱暴に彼女の手首を掴んだ。


「警察官を殴ろうとしたな」

「……え」

「逮捕する」


 警官が腰に下げていた白縄を取り出して、アーリアの手首に絡めようとした時――。

 豪風が、口笛のような激しい音を鳴らして店内に入ってきた。


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