2-3 始まりを告げる風の音
(えっ……すごく嫌な感じ!)
アーリアは嫌悪感を顔に出したまま、だんだんだんっと今度は音を鳴らして走った。
憤りを噴き出しながら店に到着し、無垢木のカウンターの上にリュックをおろす。
「今日は、幸福な日のはずなのに……」
一瞬にして、嫌な日になってしまった。
リリリンとベルの音が店へ侵入してくる。
仮面の行列が商店街まで来たのかもしれない。
(早く、エンツォと一緒にイルマを観にいかなきゃ……)
久しぶりの幸福感が、こんな風に崩れてしまうだなんて思いもしなかった。
でも、これは一時のことだ。
イルマは天姫だし、祭りの酒はアウラート酒造のものだ。
それだけは、絶対に変わらない幸福な事実なのだ。
これらは壊れるはずがない。
(天姫のイルマを観て、もう一度、幸せを噛みしめなきゃ)
アーリアはカウンターの縁を掴んで、己に言い聞かせるために頷いた。
そして二秒経った後に、勢いよく顔を上げる。
「よし、行くわよ!」
元気を込めて言った時だった。
「店はこっちか!」
「もう少し先か!」
詰め襟の制服を着た警官二人が、一度アウラート酒造の前を通り過ぎてから、
「そこだっ」
と叫んで後ろ向きで戻ってきた。
警官達は、荒々しく店の戸をあけてゼイゼイしながら飛び込んできた。
「アーリア・アウラートだな。ちょっと警察署まで来てもらおうか」
「……どうして?」
本当は聞かなくても理由ぐらい分かっている。
さっきのおばさんが見回っている警官にアーリアのことを話したのだろう。
「昨日今日と宝石泥棒が出没していてね。今日の朝は大神官の家で宝石を盗み、夕方には第三層の民の家に侵入した……。その侵入された民家の前に君だけがいたそうだ。だからご同行いただきたい」
「断るわ!」
「前々から君には目を付けていたのだよ。泥棒のように逃げ足が速く、泥棒のように身軽なアーリア」
アーリアはそっぽを向いてカウンターに置いてあった店の鍵を握りしめた。
「もう、出かけなきゃならないの。だから、さっさと店から出て行って」
「予定は取りやめて、警察署に来ていただきたい。被害をこれ以上拡大したくない」
一人の警官がしかめっ面で言うと、隣の警官がほくそ笑んだ。
「祭りの朝、大神官の家で泥棒をするとは恐れいったな……」
「勝手に泥棒にしないで!」
言い返すと、笑う警官は下卑た視線でアーリアを舐めた。
「お洒落な服が欲しかったようだな。……大神官なら良い宝石を持っていると思ったのだろう。このコソ泥が」
「わたしの店から出て行きなさいよッ」
怒鳴って鍵を振り回したとき、警察の一人が乱暴に彼女の手首を掴んだ。
「警察官を殴ろうとしたな」
「……え」
「逮捕する」
警官が腰に下げていた白縄を取り出して、アーリアの手首に絡めようとした時――。
豪風が、口笛のような激しい音を鳴らして店内に入ってきた。




