1-14 大好きな人と大誤解
「ほんとバカだ、あいつは」
(イルマじゃなくて俺を見てくれたらいいのに)
そうしたら……仲間じゃなくて、男として見てくれるのなら、手を伸ばせる。
(あいつが一人になって泣いている時に、俺はためらわずに強く抱きしめられるのに。ずっと、お前を支えてやると言えるのに)
……しかし、今のままじゃ、側にいることしかできない。
己の中の男を見せたら、アーリアが逃げてしまいそうな気がしていた。
だけれど、もしかしたら、男の部分を見せなかったら、いつまでたっても二人の関係は変わらないのかもしれない。
(変わる努力を俺は放棄しているんだろうか)
足を止め、髪飾りを確認し、レオンはアーリアの顔を思い浮かべた。
クールオさんの言ったとおりにやれば、自分を見てくれるのだろうか。
栗色のたっぷりとした巻き毛に、この髪飾りはとても良く似合うだろう。
(俺のために着飾る可愛い君が見たいから、か)
言えるだろうか? ……キザすぎて引かれてしまいそうだ。
でも、何か手を打たないと、何も始まらない。
思った瞬間に、レオンは走り出す。
髪飾りを買った勢いで、すべてをトントントンとこなしたら、なんとなく上手く行くような気がした。
満ちる闇を踏みしめ、ランプで橙色に照らされた大通りから、白い壁に窮屈そうに挟まれた枝道へ入って、アーリアの店へとたどり着く。
すると偶然か、幸運か、アーリアが店のドアに鍵を掛けているところに出くわした。
「アーリア……」
「レオン、どうしたの息切らせて」
――俺のために、この髪飾りをつけてくれ。
そう言おうとするが、口に出せない。
もごもごしていると、アーリアは首をかしげて、ぽんっと店先からレオンの前に飛んできた。
「何かあったの?」
顔をのぞき込まれて胸がときめき、抱きしめて柔らかな唇を奪ってしまいたいと思う。
しかし、そんなことをしたら確実に嫌われる。
「……レオン?」
アーリアが名を呼びながら、レオンの頬に手を当てた。
そしてパチパチと軽く頬を叩いてくる。
「汗びっしょりね。わかった、また女の子に誘惑されたのね?」
「……違う」
「頬、すごい熱っぽいわ。もしかして水をかけられて風邪をひいちゃった?」
声の調子が落ちて心配そうなものになる。
(――いつも、いつも、こうだ。俺はアーリアを心配させてばかりだ)
だから、彼女は頼み事も悩み事も、大人のエンツォにするのだろう。
「クールオさんが……さ」
「お酒の配達を頼まれたの? クールオさんには、いつもお世話になっているから直ぐに行かなきゃ」
アーリアが笑顔を見せて店の中に戻ろうとする。
「違うよ。だからさ、あの……アーリアは」
レオンは彼女の手を握って、その瞳を真剣に見つめた。
「エンツォが好きなのか?」
「好きよ」
雷に打たれたような衝撃が走り、レオンは言葉を失った。
(アーリアは……エンツォが、好き)
彼は視線と肩を落とし、両手をぶらりと下げた。
(エンツォが、好きなんだ)
この場を離れなくては泣いてしまう、と思って、レオンはぼうとしたまま商店街に向かって歩き出す。
「レオン、どうしちゃったの? レオンだってエンツォが好きでしょ?」
アーリアがなにか声をかけたけれど、頭の中で言葉を理解できない。
「ちょっと、レオン?」
「ごめん、帰る」
レオンは、アーリアの存在を『恐怖』で遮断した。
彼女を失うなんて、想像するだけで怖かったのだ。
レオンは泣きそうになって、アーリアに涙を見せたくなくて走り出した。
(アーリアは、エンツォが、好き……。エンツォが好きだなんて……)
手の中の髪飾りをくしゃっとズボンのポケットに入れ、祭りの人いきれの中に身を隠していくのだった。
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