1-13 まさかの恋敵
帰ろうとすると、クーリオさんがベランダの手すりを叩いた。
「待ちなさい、レオン。まだ言うことがあるわ。しっかりと思ったことは口に出している?」
レオンは振り返って、少し面倒くさそうに彼女を見上げる。
「思ったことって――たとえば?」
「大好きだって言う前にも、色々と言葉が必要なの。あんたのことだから、アーリアに気持ちの半分も伝えていないでしょう」
図星だったのでレオンは彼女から目をそらした。
「思いを口にすることは、とても大切なのよ。あんたがアーリアに抱く気持ちは、大好きだけじゃなくて、色々あるでしょ。それも伝えていかないと駄目だよ」
「わかったよ」
今度こそ帰ろうと思って、レオンはクールオさんに背を向けようとした。
「こらっレオン、髪飾りを買いなさい。これは、あんたの為にと作ったんだから」
「……髪飾りか」
いつもきちっと一本結びをしている栗色の髪をほどいて、髪飾りを付けたら可愛いだろうな、とは思う。
「今日、アーリアの誕生日でしょ。プレゼントをしないと」
「プレゼントならもう贈ったよ」
「なにを?」
「仕事で使えそうな帳面」
「……髪飾りを買いなさい」
クールオさんはレオンを睨み付けた。
「あんたね、このままズルズルとお友達を続けていたら、横からかっさらわれるわよ」
「誰にだよ」
「エンツォだよ」
「……エンツォ?」
一瞬、まさか、と思った。
エンツォはみんなの兄貴分だ。
変わり者ではあるが、仲間を取り纏めてくれる頼もしい存在なのだ。
「よーく考えなさい。イルマの次にアーリアの側にいるのは誰?」
エンツォだ。
「アーリアがいつも店番を頼むのは誰?」
それもエンツォだ。
「アーリアが相談事を持ち込むのは誰?」
やっぱりエンツォだ!
「レオン、この髪飾り、銀貨一枚だから」
事実に気がついて俯いたレオンに、クールオさんが声を投げかける。
レオンは頭上から糸で操られるように手を動かし、制服のポケットから財布を取り出して、銀貨を籠に入れた。
「お買い上げありがとうございます」
まんまとはめられた気がする……と思いながらも髪飾りを手に取る。
指先に清浄な感じがして顔を上げると、クールオさんはニッと笑った。
「特製の髪飾りだよ。うちの恋関係の製品に使う綿は、神殿で祈りを捧げているのさ。だから恋が叶うんだよ」
端っこの花の飾りをつまみ、綿の柔らかな感触を確かめる。
(こんな頼りなさそうなので恋が叶うのだろうか……?)
信じていないと、クールオさんが吹き出した。
「信じなきゃ、叶わないよ。自分の手でアーリアの髪に付けてあげなさいよ」
そう言って、彼女は籠を引き上げた。
レオンは柔らかな髪飾りを握りしめながら、ふらふらと階段を下りていく。
(髪飾り一つで、アーリアがこの手に堕ちるだろうか?)
「……これはイルマにあげてって、言いそうだ」
アーリアはお洒落に関心がない。
だから、ものすごく地味だ。
まず近所のお年寄りが悪いと思う。
両親がいないアーリアを気遣って、お古の服なんかあげるから、彼女が着てしまう。
なのに、アーリアはイルマに新品の服を買ってやるのだ。
完全な従姉馬鹿だ。




