1-12 恋を叶えるアクセサリー
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(……柔らかな唇)
レオンは自分の指先を見つめて、小さく息を吐いた。
アーリアの唇の感触が、まだ指に残っている。
服装はおばあさんみたいだが、肌は瑞々しい少女のものだ。
いや、そこら辺の少女より肌がつやつやしていると思う。
「反則だ、バカ」
レオンは手を握りしめ、表面がごつごつとした岩の階段を上っていった。
夜が近づいていたが、まだ太陽は沈んでいない。
透明な赤紫に支配された段を上り、突き当たりにある背高の建物を見上げた。
ここが最後の配達先だ。
一階は髪飾りの専門店だが、昼間しか営業していないので、もう店じまいをしている。
恋を叶えると言われているハートの形をした髪飾りが一番人気だが、いつも品切れで手に入らない。
観光客は手紙で予約をしてから、約一年後に、この国に買いに来るのだという。
そこまでして買いに来る観光客に、店主は恋のアドバイスもしてくれるのだった。
優しく親切な店主は、この都の看板おばあちゃんだ。
「クールオさん、クールオさん、郵便だぞ」
二階に向かって声を投げかけると、店の上のバルコニーに小さな丸眼鏡を掛けたおばあさんがよたよたと出てきた。
彼女はバルコニーの手すりに太鼓腹を付け、紐を付けた籠をレオンの前におろしてくる。
レオンは籠の中に彼女宛の封書を入れた。
彼女は腰が痛いので、階段を直ぐには下りられないのである。
「これは感想のお手紙かな、注文のお手紙かな、それともラブレター?」
クールオさんは茶目っ気たっぷりに言って、籠をするすると引き上げた。
「あててごらんよ、レオン。当てたら銀貨一枚で髪飾りを売ってあげるよ。外れたら銀貨一枚でいいからね」
銀貨一枚もあれば、髪飾りどころかお出かけ用の服が一式買えてしまう。
「当てても外れても、高値で買わせようとしているじゃないか」
思わず言い返すと、クールオさんはしわくちゃの顔に可愛らしい笑顔を浮かべる。
「素敵なのができたんだよ、レオン」
「俺は、髪飾りなんていらないよ」
ぶっきらぼうに言うと、相手は大仰にため息をついた。
「まあ、いいから、これをごらんよ」
バルコニーまで上がった籠が、またレオンの元へと降りてくる。
籠の中をのぞくと、薄闇に浸った世界の中、三つの大輪の花が浮かんで見えた。
光沢がある布で作られた可愛い花の髪飾りだった。
「素敵だろう?」
「素敵だけど、俺は男だから」
「あんたが付けるんじゃないよ、アーリアだよっ」
心底呆れた感じで言い返されてしまう。
「あいつは、髪飾りなんて付けない。いつも、髪は黒い紐で一本縛りしているし、きっとそれが好きなんだよ」
「あー、もう。なんて駄目な男っ。そんなアーリアに髪飾りを贈るから良いんじゃないの!」
クールオさんは声を荒げさせ、腰が痛いくせに駄々《だだ》っ子のように足を踏みならした。
「あんたが『俺のために、この髪飾りを付けてくれ』って言って、アーリアが『まぁ、どうしてレオン』って聞く。すかさず、あんたが色気を全面に押し出して『俺のために着飾る可愛い君が見たいからさ』って言うのさ」
「無理」
即答すると、クールオさんは、また足を踏みならす。
「あー、あー、だからあんたは駄目男なの。何とも思っていない女ばっかり引っかけて、大切な女は手に入れられないんだから」
「俺のこと、色々気にかけてくれるのは嬉しいけど……ちゃんと」
そう、ちゃんと、とレオンは心の中で復唱してから、バルコニーを仰ぐ。
「ちゃんと、大好きだ、とは伝えている」
「えーえー、そうでしょうとも。ついでに、ダニエレにも、エンツォにも、イルマにまでも、大好きだって言っているけどね!」
そう言われてしまうと、反論する言葉がない。
「まず、大好きの言い方がなっていないんだよ。常にさらっと言うじゃない。違うのよ、乙女心はさらっとじゃ掴めないのよっ」
「……じゃ、手紙は配達したし、郵便局に戻るから」
彼女の恋の説教話は一時間ぐらい続くのだ。この辺で切り上げておかないといけない。
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