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【完結】その乙女は妃にと望まれる 〜じれじれ初恋と王座の精霊ファンタジー開幕!!〜  作者: 前田留依


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1-12 恋を叶えるアクセサリー

********


(……柔らかな唇)


 レオンは自分の指先を見つめて、小さく息を吐いた。

 アーリアの唇の感触が、まだ指に残っている。

 服装はおばあさんみたいだが、肌は瑞々しい少女のものだ。

 いや、そこら辺の少女より肌がつやつやしていると思う。


「反則だ、バカ」


 レオンは手を握りしめ、表面がごつごつとした岩の階段を上っていった。

 夜が近づいていたが、まだ太陽は沈んでいない。

 透明な赤紫に支配された段を上り、突き当たりにある背高せいたかの建物を見上げた。

 ここが最後の配達先だ。

 

 一階は髪飾りの専門店だが、昼間しか営業していないので、もう店じまいをしている。

 恋を叶えると言われているハートの形をした髪飾りが一番人気だが、いつも品切れで手に入らない。

 観光客は手紙で予約をしてから、約一年後に、この国に買いに来るのだという。

 そこまでして買いに来る観光客に、店主は恋のアドバイスもしてくれるのだった。

 優しく親切な店主は、この都の看板おばあちゃんだ。


「クールオさん、クールオさん、郵便だぞ」


 二階に向かって声を投げかけると、店の上のバルコニーに小さな丸眼鏡を掛けたおばあさんがよたよたと出てきた。

 彼女はバルコニーの手すりに太鼓腹たいこっぱらを付け、紐を付けたかごをレオンの前におろしてくる。

 レオンはかごの中に彼女宛の封書を入れた。

 彼女は腰が痛いので、階段を直ぐには下りられないのである。


「これは感想のお手紙かな、注文のお手紙かな、それともラブレター?」

 

 クールオさんは茶目っ気たっぷりに言って、かごをするすると引き上げた。


「あててごらんよ、レオン。当てたら銀貨一枚で髪飾りを売ってあげるよ。外れたら銀貨一枚でいいからね」


 銀貨一枚もあれば、髪飾りどころかお出かけ用の服が一式買えてしまう。


「当てても外れても、高値で買わせようとしているじゃないか」


 思わず言い返すと、クールオさんはしわくちゃの顔に可愛らしい笑顔を浮かべる。


「素敵なのができたんだよ、レオン」

「俺は、髪飾りなんていらないよ」


 ぶっきらぼうに言うと、相手は大仰にため息をついた。


「まあ、いいから、これをごらんよ」


 バルコニーまで上がった籠が、またレオンの元へと降りてくる。

 籠の中をのぞくと、薄闇に浸った世界の中、三つの大輪の花が浮かんで見えた。

 光沢がある布で作られた可愛い花の髪飾りだった。


「素敵だろう?」

「素敵だけど、俺は男だから」

「あんたが付けるんじゃないよ、アーリアだよっ」


 心底しんそこあきれた感じで言い返されてしまう。


「あいつは、髪飾りなんて付けない。いつも、髪は黒い紐で一本縛りしているし、きっとそれが好きなんだよ」

「あー、もう。なんて駄目だめな男っ。そんなアーリアに髪飾りを贈るから良いんじゃないの!」


 クールオさんは声を荒げさせ、腰が痛いくせに駄々《だだ》っ子のように足を踏みならした。


「あんたが『俺のために、この髪飾りを付けてくれ』って言って、アーリアが『まぁ、どうしてレオン』って聞く。すかさず、あんたが色気を全面に押し出して『俺のために着飾る可愛い君が見たいからさ』って言うのさ」

「無理」


 即答すると、クールオさんは、また足を踏みならす。


「あー、あー、だからあんたは駄目男だめおとこなの。何とも思っていない女ばっかり引っかけて、大切な女は手に入れられないんだから」

「俺のこと、色々気にかけてくれるのは嬉しいけど……ちゃんと」


 そう、ちゃんと、とレオンは心の中で復唱してから、バルコニーを仰ぐ。


「ちゃんと、大好きだ、とは伝えている」

「えーえー、そうでしょうとも。ついでに、ダニエレにも、エンツォにも、イルマにまでも、大好きだって言っているけどね!」


 そう言われてしまうと、反論する言葉がない。


「まず、大好きの言い方がなっていないんだよ。常にさらっと言うじゃない。違うのよ、乙女心はさらっとじゃ掴めないのよっ」

「……じゃ、手紙は配達したし、郵便局に戻るから」


 彼女の恋の説教話は一時間ぐらい続くのだ。この辺で切り上げておかないといけない。

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