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004 結婚を急ぐ理由

 手紙の返事は、二日後の朝届いた。

 朝食を済ませたフォスター一家は、居間に集合し手紙の内容を確認した。


 父親がまず、手紙に目を通す。部屋の中は、重苦しい沈黙が支配していた。

 セレスティーヌは、ドキドキしていた。こちらが提示した条件をどこまで呑んでくれるのか……。もしくは、全て拒否なのか……。

 この返答次第で、嫁ぐ家のセレスティーヌへの扱いが決まるような気がした。


 手紙を読んでいた父が、顔を上げてセレスティーヌの顔を見る。


「セレスティーヌ、こちらが提示した条件を全て呑むそうだ。その代わり、可能な限り早く嫁いできて欲しいと手紙にある。それと、この様な婚姻なので、結婚式も略式で家族だけで済ませたいらしい……」


 父親が、複雑な表情をしている。条件を受け入れてくれた事にホッとしつつも、結婚式も挙げてやれないのかと悔しそうだ。


「そんな……。娘の結婚式なのに……。酷い……」


 母親が、顔を覆って泣き出している。母には二日前のあの日、私達三人で話をした後に父が話をしたらしい。

 母は、話を聞くなりショックを受けてずっと部屋に引きこもっていた。きっと、母も仕方がない事だとわかってはいるが、やり切れない心と戦っているのだろうと思った。


「お母様。私も結婚式は、その方がいいわ。何て言うか、おめでたい結婚って感じがしないし。これだけ急いでいるって事は、他にも何かあるんだろうし……」


 セレスティーヌは、条件が受け入れられた事に驚いていた。格下の子爵家が言って良い事など、一つとしてなかったのだから。

 公爵家では、それなりにきちんとした扱いがされそうだと安堵したくらいだ。結婚式なんて全く興味がなかった。愛し愛されて結婚する訳じゃないのだ、沢山の人の前で愛を誓う意味がない。


「とにかくセレスティーヌ、準備をしよう。手紙には、身一つで構わないとある。自分が、手離したくない物だけ持って来て欲しいそうだ」


 父は、こうなってしまった以上、後には戻れない事がわかっていた。母の肩を抱きながら、セレスティーヌに準備をするように促した。


 兄は、ずっと拳を握りしめて一点を見つめていた。セレスティーヌだけじゃなくて、家族皆が葛藤してくれている気持ちが嬉しかった。

 セレスティーヌは、自分に何が待ち受けてるのかわからないけど、そこで出来る精一杯をやるしかないのだと心の中で呟いた。




 *********************


 二日かかって、王都にあるブランシェット公爵家に到着した。

 屋敷の前に立ち、家族一同言葉が出ない。自分達の屋敷と比べる方が可笑しいのだが、あまりの大きさに驚きが隠せない。

 白を基調とした屋敷には、屋根裏が沢山あり窓が大きい。どっしりとした造りで、豪華さを際立たせていた。


 セレスティーヌは、本当に自分がこの屋敷の女主人になるのかと動揺が隠せない。全部が夢なのでは? と現実逃避しそうだ。


 直ぐに屋敷の執事が出迎えてくれて、応接室に案内された。屋敷の中も目につく全ての物が豪華絢爛だ。

 行儀が悪いが、キョロキョロと室内を見回してしまった。応接室に入ると、ブランシェット公爵一家が待ち構えていた。


「本日は、お招き頂きありがとうございます。フォスター子爵家の当主で、ダニー・フォスターと申します。よろしくお願い致します」


 まず始めに、父が挨拶をし家族を紹介した。母、兄と続きセレスティーヌを紹介する。セレスティーヌは、淑女の礼をして顔を上げるとやっとブランシェット公爵一家を目にする事が出来た。


「遠い所を、突然呼び立てて申し訳なかったね。私が、ブランシェット公爵家の当主でドミニク・ブランシェットだ。こちらが私の妻で、隣が息子のエディーだ。さあ、皆さん掛けてくれ」


 そう言われて、一同がソファーに腰を掛ける。

 セレスティーヌの視線は、エディー・ブランシェットに注がれた。

 言われているだけあって、一言で言うと美男子だ。赤毛のふわふわの髪で、人懐っこそうな柔らかい雰囲気。

 瞳の色は、茶色と言うより琥珀色に近い。瞳がキラキラしている様に見える。笑顔で、迫られたら女性は喜ぶだろうと思った。どちらかと言うと、父親のブランシェット公爵に似ているなと思う。

 父親との違いは、髪の色だ。父親の色は、明るいが渋い黄褐色。

 母親の、ブランシェット公爵夫人はキツイ印象を受ける。目つきがキツイ事もあるが、髪色が息子よりもしっかりした赤色。セレスティーヌを見る視線も、鋭く怖さを感じた。


 セレスティーヌが、公爵一家を観察している間に父親同士の挨拶が済んだようだ。

 話が、セレスティーヌとエディーの事に移っている。


「君が、僕の奥さんになるセレスティーヌだね。僕のタイプじゃないけど、母上が決めた相手と結婚するなら、今まで通りの生活で良いって言うからさっ。よろしくね」


 エディーが、にっこり笑顔で微笑んだ。セレスティーヌを始めとしたフォスター一家は固まった。

 セレスティーヌが感じた印象は、言葉が薄っぺらくて全く頭に入って来ない。全く信用出来ないと思わせる、何かがあった。


 フォスター一家が驚いて一言も発せられない間に、エディーが後は母上と父上に任せるからと部屋を退出して行った。その事に、誰も何も発する事は出来なかった。

 その後、双方の条件の確認を行う。ここからは、なぜかブランシェット公爵ではなく、公爵夫人が中心となって話が進んだ。

 こちらの条件も再度、確認をしたが問題ないとの事。むしろ、よく気が付いたわねと公爵夫人が意味ありげな笑顔をセレスティーヌに向けた。

 セレスティーヌの嫁入りに掛かる支度金や、フォスター子爵家への支援金などの金銭的な事は、後で当主二人で話し合うと言う事でその場はお開きとなった。


 フォスター一家が、退出しようとしたその時。


「そうだわ。肝心な事を言い忘れていました。半年後に、エディーの子供が生まれるの。だからそれまでに、公爵夫人としての教育をする事になるから頑張ってね。セレスティーヌ」


 公爵夫人から、今日一番の爆弾が投下された。これが結婚を急いでいた理由なのだと、その場にいたセレスティーヌの家族は理解した。


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