028 騒動
若干の無理やり的な要素を含みます。
嫌いな方は、ご注意下さい。
エディーが部屋を出て行った後は、レーヴィーもセレスティーヌもセシーリアも話し合いを続ける気になれず解散になった。
セレスティーヌは、疲れてしまった。夕食を食べると、早い時間に自分の部屋に戻ってゆっくりする事にする。
夕飯に、エディーは現れなかったがそっとしておいた。
セレスティーヌは、眠る気になれずに本を読んでいると扉をノックする音が聞こえる。
「はい?」
セレスティーヌが返事をする。
「少し、いいだろうか?」
声の主は、エディーだった。こんな時間に何の用だろうと、セレスティーヌは訝しみながら、座っていた椅子に掛けてあった上着を着こむ。
扉を開けた。
開けた瞬間、エディーが体を部屋の中に滑り込ませる。
「ブランシェット公爵様、勝手に部屋に入られては困ります」
セレスティーヌはびっくりする。だが、セレスティーヌの言葉を聞いていないのか、エディーがセレスティーヌの両腕を掴んで迫って来た。
「セレスティーヌ、やはりもう一度やり直したいんだ。一晩一緒に過ごせば、分かり合えると思うんだ。だって、私達は何も始まっていなかったじゃないか。異性として通じれば、きっと違う関係になれるはずだよ」
セレスティーヌは、何を言われているのか理解出来なかった。ただ分かるのは、嫌悪感のみ。
勝手に部屋に入って来て、意味の分からない事を捲し立てるエディーに恐怖を覚えた。
「止めて下さい。そんな事しても意味なんかありません」
セレスティーヌが必死に抵抗して、腕を離して貰おうと振り払うがびくともしない。
「そんなのやってみないと分からないじゃないか」
そう言って、エディーにセレスティーヌは抱え上げられベッドの方に運ばれてしまう。セレスティーヌが必死に抵抗して、降ろしてもらおうともがくが男の人の力に敵わない。
「旦那様、本当に止めて! 人を呼びますよ!」
セレスティーヌをベッドに降ろすと、エディーが上に覆いかぶさって来た。セレスティーヌは、何とかヘッド部分に後ずさる。
エディーが、止めてくれる気配がなくどんどんセレスティーヌの方に迫ってくる。
「ねえ、セレスティーヌ。僕は、これが一番平和な解決策だと思うんだ。帰って来て欲しいんだよ。お願いだよ」
そう言って、セレスティーヌの顔にエディーの顔が近づいて来る。耐えきれなくなったセレスティーヌは、エディーの頬目掛けて力の限り手を振るった。
ッッバッチーン!!
「いい加減にして!! 私を何だと思っているの! 私は、貴方のおもり役でも母親の代わりでもない!」
そう言い放つと、叩かれた事に驚愕したのか言われた言葉に衝撃を受けたのか、エディーが頬を押さえながら放心してしまった。
その隙に、セレスティーヌが、サイドテーブルに置いてあるベルを鳴らす。
するとすぐに、侍女のカミラが駆けつけてくれた。
「奥様、如何なさいました?」
扉を開けて入って来たカミラは、言葉を発しながらセレスティーヌの目の前にいるエディーを見ると驚きを露わにした。
「カミラ、お願い。誰かすぐに呼んで来て!」
カミラは、異常を察して分かりましたと答えると、踵を返して誰かを呼びに行った。
セレスティーヌが、エディーに視線を戻すと涙を流して泣いていた。
「だって……。もうどうしていいか分からないんだ。セレスティーヌしか、僕を助けてくれる人がいないんだよ」
エディーが縋る様な眼差しで、セレスティーヌを見ている。その瞳を見たセレスティーヌは、沸々と怒りが沸き上がる。
「旦那様は、今まで嫌な事からずっと逃げて生きて来たんです。好きな事だけして。でも人生って殆どは、嫌いな事、やりたくない事から出来ているんです。みんなそれを必死でこなしながら生きてて。時にそれが実を結ぶ瞬間があって、そこに幸せを感じるものなんです。旦那様は、誰かにいつまでも頼らないで、自分の力で何とかする事を覚えて下さい!」
セレスティーヌが、今までずっと思っていた事をぶつける。
「そんな事言われても、僕には無理なんだよ。そんな事出来ないよ」
この期に及んで、弱気な事ばかり吐くエディーに怒りが爆発する。
バシン!!
エディーの頬をもう一度、叩く。
「出来る出来ないじゃない! やるかやらないかなんです! やったらやった様に、出来るんです。そうやって積み重ねて、大人になっていくの。私はずっとそうやってきたの。軽々しく、出来ないなんて口にしないで!」
セレスティーヌの握りしめている拳が、感情が高まり過ぎて震えている。目には涙が浮かんでいた。
バタバタバタと、誰かが駆けて来る。
「母上!」
部屋に駆け込んで来たのは、レーヴィーだった。レーヴィーももう、寝る準備をしていたのかとてもラフな格好だ。
「レーヴィー、悪いんだけどこの人を部屋に連れて行って。それで今日はもう、部屋から出ないように誰かに監視させて」
セレスティーヌは、落ち着こうと必死で感情を抑える。
部屋に入って来たレーヴィーは、珍しく驚いた表情をしていた。父親は、母親のベッドの上で頬を赤く腫らして涙を流している。
母親は、目に涙を浮かべながら興奮を収めようと肩で息をしていた。
「父上、何をしているんですか! こんな事を許した覚えはありません!」
レーヴィーが、父親に近づいてベッドから降りる様に促す。
エディーは、セレスティーヌに言われた事が分かったのか分からなかったのか、表情からは察する事は出来なかった。
ただ、ボロボロと涙を零して泣き続けていた。
それでも、もう観念したのか大人しくレーヴィーに従ってベッドから降りて扉に向かって歩く。
扉の前まで行くと、ゆっくりと振り返りセレスティーヌを見て言った。
「セレスティーヌ、悪かったね」
それだけ言うと、大人しく部屋から出て行った。
「母上、大丈夫ですか?」
レーヴィーが、セレスティーヌを気遣わしげに見やる。
「大丈夫。ここは良いから、お父様について行って」
セレスティーヌが、レーヴィーにお願いする。レーヴィーは、心配そうにしながらも父親の出て行った後を追って行った。
それとすれ違いに、カミラが部屋に入ってくる。
「奥様、大丈夫ですか?」
カミラが、憤悶の表情を浮かべている。
「大丈夫よ。大丈夫。レーヴィーを呼んで来てくれてありがとう」
セレスティーヌは、上着の胸元を握りしめながら呟いた。






