001 家族が集まる夕食会
書籍版・コミカライズとは、設定や内容、構成が異なる場合があります。
その日は、週に一度家族が集まる夕食だった。たわいもない話に花を咲かせる。
一見するとそれは、どこにでもある家族団欒の一時。夫を中心に、妻と四人の子供達が一堂に会していた。
本当は、セレスティーヌの子供は五人なのだが三男だけは不在。それに少しばかりの寂しさを感じつつも、みな一様に笑顔で、場の雰囲気も和やかだ。
全員が夕食を食べ終わり、デザートを口にしている時だった。セレスティーヌの夫であるエディーが、家族に向けて報告があると口にする。
エディーが、ナフキンで口を拭う。そんなエディーをセレスティーヌは、何の感慨もなくただ見ていた。
「みんな聞いて欲しい」
エディーは、明日も晴れだといいなと言うようにその言葉を口にした。
「子供ができたんだ」
和やかだった食堂内が、一瞬で張りつめた空間に様変わりする。
エディー以外の家族は、驚きで顔が強張ってしまう。
セレスティーヌは、怒りのボルテージを必死で抑え込んでいた。
スーハーと大きく深呼吸をし、冷静にと何度も心の中で唱え言葉を口にする。
「旦那様。約束が違うのではないですか?」
精一杯の作り笑顔を浮かべて、エディーの顔を見る。
「そうだけど……。五人も六人も一人ぐらい増えても変わらないだろう?」
エディーが純粋な笑顔で笑うから、怒りが頂点に達する。
もう駄目だ。これ以上は、私の心が持たない。
「みんなごめんね……」
子供達の顔を見ると、三者三様の表情をしていた。
しょうがないと呆れている者。悲しそうな表情の者。怒り狂っている者。信じられないと驚いている者。
でも、もう耐えられなかった……。
「旦那様! 一人ぐらいとおっしゃいました? ふざけるのも大概にして下さい! 子供一人育てるのが、どれだけ大変かこれっぽっちも知らない癖に! 申し訳ありませんが、私にはこれ以上は無理です。契約違反ですので、離縁させて頂きます」
エディーの顔を睨みつける。自分の夫だと思っていた人は、言われた言葉が理解出来ないのか難しい顔をしている。
「そうか……。それなら仕方ないな。そのようにしよう」
それを聞いた一人が、声を上げた。
「そんな! お母様を何だと思っているの? 最低だと思ってはいたけど、ここまでだなんて……。私の父親である事が恥ずかしい!」
そう言って、長女は席を立って食堂を出て行ってしまう。
私も席を立つ。もうこれ以上、エディーの顔を見ていたくなかった……。
自室に戻って、ベッドに倒れ込む。専属の侍女が、心配そうに駆け寄って来た。
「奥様、如何なさいました?」
枕に顔を埋めていたが、横を向き侍女カミラの顔を見る。
「ごめん。カミラ……。私、この家から出て行く事にしたから……。悪いのだけど、一人にしてくれる……?」
カミラの顔が、心配していた顔から驚きの顔へと変わる。
「奥様……」
カミラは、言葉を飲み込み静かに部屋を出て行った。
きっと、言いたい事は沢山あったはずだ。でもきっと今にも泣き崩れてしまいそうな顔を見て、一人にしてくれたのだろうと思う。
体を捻って、上向きになる。見慣れた天井に視線を向ける。
鼻の奥がツンとする。右手の甲を鼻に押し当てて刺激を逃がす。視界が揺らぎ、涙が零れる。
私は、ここに嫁いできた二十年前を思い出していた…………。