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014 旧友との再会

 初めてグラフトン公爵の屋敷を訪れた日、セレスティーヌはとても温かな歓待を受けた。アルバートもエヴァルドも、セレスティーヌにとても良くしてくれて本当に受け入れて貰えるのか不安だったがホッとした。

 住む所を探そうと、エヴァルドに相談すると自分が探すと言ってくれた。しかも決まるまでは、遠慮なく屋敷に滞在してくれて構わないとまで言ってくれる。

 大した事をした訳でもないのに、セレスティーヌは申し訳なく思ってしまう。でも、現状エヴァルドに頼るのが一番、間違いないだろうと思うのも事実。

 どうしたらいいのか、思考がいったりきたりしていた。


 アルバートにお願いされたエヴァルドの話し相手の事も、先日執事に呼ばれた件で忙しくしていて実現していない。

 もう少し仕事が落ち着いたら、自分から話すから少し待っていてくれとアルバートには言われている。


 一週間程グラフトン邸に滞在して、余裕が出て来たセレスティーヌは、友達のオーレリアに会いに行こうと思い立つ。

 久しぶりにオーレリアに会いたかったし、聞きたい事が沢山あった。


 そうと決まれば、手紙を出そうと朝のうちに手紙を書いて執事にお願いした。

 するとすぐに返事が返って来て、リディー王国にいるなんてびっくりしたと手紙にある。すぐに会いたいから、これから遊びにおいでとも書いてある。

 また特に予定がないなら、そのまま泊まってもいいからと最後に書かれていた。


 セレスティーヌはその手紙を読んで、オーレリアらしいと笑みを浮かべる。

 オーレリアは、学生の頃から思ったら即行動に移す子だった。変わってないのだなと、昔を懐かしく思う。

 だからかセレスティーヌも、すぐに会いたくなって出掛ける準備を始めた。

 メイドに頼んで、これから友達の所に遊びに行ってくる事をアルバートに伝えて欲しいと頼む。

 準備をしている間にメイドが伝えてくれて、楽しんでおいでという伝言を貰って帰って来た。


 仕事で出掛けていたエヴァルドには、手紙を書いた。友達のオーレリア・フローレスの所に遊びに行きます。もしかしたら、何日か泊まって来るかもしれないと書く。

 最後に、たまにはゆっくり休んで下さいねと締めくくった。

 セレスティーヌがお世話になるようになってから、殆ど顔を合わせていない。本当に忙しい様で、朝早く屋敷を出て夜遅くに帰って来ていて少し心配だった。


 手紙をメイドに託したセレスティーヌは、屋敷を出る。するとアルバートが手配してくれた様で、グラフトン公爵家の馬車が待ち構えていた。

 セレスティーヌは、自分で貸し馬車を借りようと思っていたのでびっくりする。何から何まで、気の付く人達だなと頭が下がる思いだった。

 公爵家の人間ともなると、本当はこれが当たり前なんだろうなと思う。

 元旦那の事を思うと、改めて規格外の人だったなと遠い目になってしまった。


 馬車に乗り込み、見慣れない街並を窓から楽しんだ。

 オーレリアの屋敷は、グラフトン邸からそれ程離れていない場所にあった。屋敷の前で馬車を下ろしてもらう。

 馬車を降りて、まじまじとオーレリアの屋敷を見ると、思っていたよりも立派な屋敷だった。

 元々は商会を営んでいたオーレリアの旦那さんが、事業を大きくして国に貢献した為、功績が認められて爵位を賜ったと聞いている。

 最初は、男爵位から始まって二十年かけて伯爵位まで上り詰めたらしい。


 オーレリアったら、学生時代は男性に見向きもしなかったのに、凄い方と結婚したのね。この二十年、お互い手紙での報告だけだったから、実際の生活を目にすると想像していたよりも勝っていて衝撃的だ。

 セレスティーヌ自体はそれ程、学生時代と変わっていないつもりだ。だけどオーレリアが、上位貴族特有のセレブ感を有する淑女に変貌していたらどうしようと突然不安が襲った。


 セレスティーヌは、ドキドキする心を落ち着かせながら呼び鈴を鳴らした。暫くすると、扉が開き執事が出て来た。


わたくし、セレスティーヌ・フォスターと申します。奥様のオーレリア様を訪ねて来たのですが、いらっしゃいますでしょうか?」


「フォスター様でございますね。奥様がお待ちです。中へどうぞ」


 男性が、笑顔で返答してくれた。

 セレスティーヌが玄関扉を抜け屋敷の中に入ると、奥から誰かが駆けてくる音が聞こえる。

 音のする方を見ると、入ってすぐの所に立派な階段があり、女性が駆け足で降りて来た。


「セレスティーヌ!」


 駆け下りて来た女性が、階段上から声を上げる。

 セレスティーヌが女性をよく見ると、久しぶりに会うオーレリアだった。


「オーレリア!」


 嬉しくて、セレスティーヌも声を上げる。オーレリアは、セレスティーヌ目掛けて階段を一気に駆け下り、そのままセレスティーヌに抱き着いた。


 セレスティーヌは持っていたカバンを床に置き、オーレリアを抱きしめ返す。


「やっと会えた! 元気にしていた?」


 オーレリアが、手を緩めてセレスティーヌの顔を見て話す。


「もう、オーレリアったら全然変わってないのね。ふふふ、嬉しいわ」


 数分前までセレスティーヌは、オーレリアがセレブ感たっぷりの貴婦人になっていたらどうしようって思っていたのに、それが馬鹿みたいで笑ってしまう。


「何言っているのよ! 立派なおばさんになっちゃったわよ」


 オーレリアが、セレスティーヌから一歩離れて顔をプクッと膨らませている。


「ふふふ。やだっ。外見じゃないわよ。元気で、明るいオーレリアのままって事」


「それはそうよ。人間ってそう簡単に変われないもの。セレスティーヌだって、学生時代と全然変わらないわ」


 オーレリアが、満面の笑顔で言う。


「そうかしら? 私も年取っちゃったわよ」


 セレスティーヌが、残念そうに呟く。


「ふふふ。じゃあ、これからどんな風に年をとってきたのか語り尽くすわよ」


 オーレリアが、セレスティーヌの腕をとって歩き出す。セレスティーヌは、もう相変わらず強引なのだからと嬉しくなった。


 応接室に案内されたセレスティーヌは、オーレリアと一緒に三人掛けの大きなソファーに腰かける。

 すぐに執事が追い付いてきて、オーレリアに一言注意する。


「奥様。階段を駆け下りるなんて、淑女がする事ではありません」


 オーレリアが、一切悪びれる事なく言葉を返す。


「わかっているわよ。セレスティーヌは私の事知っているからいいの」


 オーレリアが、セレスティーヌの顔を見て、ねっと同意を得ようとする。


「久しぶりで、はしゃいでしまってすみません」


 セレスティーヌは、オーレリアの代わりに謝る。


「いえ、お客様が謝る事では……。こちらこそ、失礼しました。お茶とお菓子の準備をさせたら下がりますので、ゆっくりとお二人でお過ごし下さい」


 そう言って、執事は応接室を出て行った。暫くすると、メイドがカートを引いて応接室に入ってくる。

 お茶とお菓子をテーブルに置くと、すぐに退出してくれた。


「本当に久しぶりね。学園を卒業してからだから、18年ぶりかしら?」


 オーレリアが、訊ねる。


「多分それぐらいかも……。オーレリアったら、余りに変わってないからびっくりしたわ」


「セレスティーヌは、元々落ち着いていたけど更に深みが増した感じがする」


 オーレリアが、セレスティーヌをまじまじと見る。それから二人は、会わなかった分の時間を埋めるようにお互いの事を話して聞かせた。


 オーレリアは、リディー王国に留学して商業の事について学んだ。リディー王国は、女性の社会進出を推進していて近隣の国に先駆けて女性が学べる環境が整っている。

 元々興味のあった商業を勉強して、オーレリアは自分のお店を持とうと思っていた。ところが思いがけず、今の旦那さんと出会い口説かれて結婚する事になった。

 でも結果的に旦那さんが起こした商売を手伝っているので、自分がやりたかった事も出来て、今はとっても幸せだと笑顔で語ってくれた。


 セレスティーヌが、どんな人なのか聞くと、とっても明るくて前向きで元気な人よと教えてくれた。

 セレスティーヌは、会うのがとても楽しみになる。


 セレスティーヌも自分の事を、遠慮なく語り明かした。

 インファート王国にいる時は、自分の置かれている環境が特殊過ぎて、何でも話せるような友人はいなかった。

 皆、セレスティーヌに同情的で、どこか哀れんでいる様な空気がいつも付きまとっていた。

 今思うと、そんな空気も息苦しくてしかたなかったのかも知れない。リディー王国に来てから感じる解放感が気持ちよくて、いつも心が澄んでいた。


 突然の結婚。複数人の愛人の許容。淑女教育に突然の育児。ブランシェット公爵家に漂っていた闇。話す事が尽きなくて、初めて大っぴらに愚痴が言えて、セレスティーヌはとってもスッキリした。


 話を聞き終えたオーレリアは、目をキラキラさせていた。


「すごい! まるで、小説の世界ね」


 セレスティーヌは、呆れる。


「もう、もっと他に言う事あるでしょー。偉かった。よく頑張ったってねぎらって!」


 オーレリアが、無遠慮に大笑いしている。


「ふふふ。セレスティーヌは、褒めて貰いたかったのね」


 オーレリアが、セレスティーヌを力強く抱きしめる。


「セレスティーヌは、長い間よく頑張ったわ。これからは、自分の為だけに生きて、誰よりも幸せよって子供達に自慢してあげなさい」


 オーレリアの温かい言葉が、セレスティーヌの胸を衝く。


 セレスティーヌは、今気づいた。ただ笑って褒めて貰いたかったのだと。

 兄にも両親にも、「ありがとう」って言われる事は沢山あった。でも、どこか申し訳なさそうな表情とセットだった。

 セレスティーヌは、別に可哀想なんかじゃなかった。特殊な環境で大変だったけど、自分の事より子供達の事が優先だったけど、でもそれが母親だと思っていた。

 ただ、誰かによく頑張っているねって笑顔で褒めて欲しかっただけだった。


 涙がとめどなく流れて来て、止める事が出来なかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] オーレリアがとってもいい友だちですね。 こんな話を聞いて同情しないところもいいですね。学生時代の友人と忌憚なく昔話をして涙を流せるって幸せですよ…。
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