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012 グラフトン公爵家

 セレスティーヌは、グラフトン公爵家に暫く滞在させてもらう事となった。リディー王国に着くと、駅には公爵家の立派な馬車が待ち構えていた。

 セレスティーヌは、国を出る時に今までの様な贅沢な暮らしはお終いだと思っていた。これからは、昔の様に慎ましやかな生活に戻るのだと。

 それなのに又しても公爵家に厄介になるなんて、自分は公爵家に余程縁があるのかと不思議な気分だった。


 アルバートと一緒に馬車に乗り込む。

 窓の外の風景を見ながらセレスティーヌは、アルバートの頼み事について詳しく聞いていなかった事を思い出す。

 セレスティーヌは、視線を窓からアルバートに移して話し掛ける。


「アルバート様、そう言えば頼み事があると仰っていたと思うのですが?」


 アルバートが、向かいに座るセレスティーヌと視線を合わせた。


「ああ、そうだったな。まだ、説明していなかった」


 アルバートが、詳しい事を説明してくれた。

 アルバート曰く、グラフトン公爵家には爵位を継いだエヴァルドと言う名のお孫さんがいる。年齢は、三十二歳でセレスティーヌよりも四つ年下。

 まだ結婚していなくて、婚約者もいない。アルバートの息子夫婦に当たる、両親が早くに亡くなってしまい若くして爵位を継いだ。

 そのお孫さんの話し相手をして欲しいと言う事だった。


 話を聞きながらセレスティーヌは、疑問に思う事だらけだった。

 公爵家の当主が結婚していないってなんでだろう? 婚約者さえもいないって……。

 ここまで考えて、あれ? ちょっと待ったとセレスティーヌは思う。

 え? まさかねとセレスティーヌは、動揺が隠せない。


 セレスティーヌは、一度小さく深呼吸してアルバートに疑問をぶつけた。


「あの……。不躾な質問で申し訳ないのですが……。公爵家のご当主が結婚されていないのは……何故かお聞きしても?」


 アルバートは、今まで見せた事がない渋い顔をしている。とても言いづらい内容らしい。


「そうだな……そこを話さないとな……。詳しい事は控えるが……。これだけは分かってやって欲しいが、結婚していない理由はエヴァルドが悪い訳では断じてない。幼い時にあった出来事がきっかけで、エヴァルドは自分に自信を失くしてしまってな。女性が苦手になってしまったんだ。それで、セレスティーヌ嬢に話し相手になって貰って、少しでも女性と接する機会が出来ればと思ってな」


 アルバートが、エヴァルドの事をとても心配しているのが察せられる。

 セレスティーヌは、自分の考えが思い違いであった事に安堵するとともにエヴァルドと言う人の事が気になりだす。

 一体何があったのかしら? と思うが、これ以上聞く事ではないなと感じる。

 エヴァルドが、元旦那の様な女性にだらしないタイプの男性ではない事がわかっただけで充分だ。

 これからお世話になるのだし、話し相手位ならいいかとセレスティーヌは思った。


「わかりました。私で宜しければ、話し相手をさせて頂きます。でもお孫さん、突然知らない女性が屋敷に来て嫌がりませんか?」


 セレスティーヌは、今更ながら大丈夫なのか不安になって来る。


「大丈夫だよ。エヴァルドは、とても優しい良い男なんだよ」


 そう言って、アルバードは優しい微笑みを零した。心からそう思っているのだと、表情から読み取れた。

 どんな方なのかしら? セレスティーヌは、会うのが楽しみになった。




 屋敷に到着すると、グラフトン公爵家の執事が出迎えてくれた。

 セレスティーヌの事は、既に話が伝わっていたようで笑顔で迎えてくれた。

 セレスティーヌの荷物も、一緒にグラフトン公爵家の従者達が運び出してくれて、客間に運んでくれる。

 アルバートは、流石に疲れた様で夕飯まで休憩して、その時にエヴァルドを紹介すると言われる。

 今エヴァルドは、仕事で出掛けているらしく夕方まで戻らない。執事に、長旅でお疲れでしょうと言われ先に客間に案内された。


 案内された客間は、とても洗練された落ち着いた雰囲気の部屋だった。派手過ぎず可愛すぎず、この雰囲気好きだなとセレスティーヌは思う。

 部屋付きのメイドが、お茶を淹れてくれてセレスティーヌは一息吐いた。セレスティーヌも少しゆっくりしたかったので、メイドには下がって貰う。


 セレスティーヌは、ソファーに深く腰掛けて天井を見上げる。

 汽車に乗ってから感慨に耽る間も無く、あっと言う間にインファート王国を出てしまった。私、本当にブランシェット家を出て来たのだなとやっと実感が湧いてくる。

 奇しくも公爵家に厄介になる事になってしまったが、早めに住む所を決めて自立しないといけない。


 ソファーの背もたれに身をもたせたセレスティーヌは、目を閉じる。

 今まで色々な事があったけど、きっと全部無駄じゃなかった。

 大切な物だって沢山手にして来た。一番の宝物は、五人の子供達だと思っている。

 これからの自分がどうありたいとか、まだわからない。だけど、今度子供達に会った時に、胸を張って会いたいなと強く思った。


 コンコンとノックする音が聞こえる。

 セレスティーヌは、ソファーで眠ってしまっていた。目を開けて居住まいを正し、自分の格好が変じゃないか、咄嗟に確認をして返事をした。


「はい」


「夕食のお時間になりましたが、よろしいでしょうか?」


 先ほど、退出して貰ったメイドの声だった。

 セレスティーヌは、まだ何の準備も出来てないと焦る。とりあえず、メイドに部屋の中に入って貰った。


「ごめんなさい。ソファーで、うとうとしてしまったみたいで。何も準備出来てないの……」


 セレスティーヌが、申し訳なさそうにメイドに説明する。


「では、準備のお手伝いを致します。少し、早めに声を掛けさせて頂いたのでまだ大丈夫ですよ」


 そう言って、メイドが笑顔で答えてくれた。流石、公爵家のメイドだなとセレスティーヌは感心する。

 じゃあ手伝って貰おうとセレスティーヌは思ったが、ディナーに着て行くドレスがない。まさか公爵家に厄介になると思っていなかったので、どうしようと首をひねる。


「ごめんなさい。私、ディナーに着るようなドレスを一着も持って来てなくて……。どうしようかしら?」


 セレスティーヌは正直に打ち明ける。ここで、見栄を張ってもしょうがない。


「それでしたら、髪とお化粧だけでもやり直しましょう。大旦那様も若旦那様も、煩く言う方達ではないので大丈夫だと思います。お気になさるようでしたら執事に、事前に話しておきますね」


 それだけ言うと、メイドがセレスティーヌを鏡台の前に座らせて、テキパキと準備を進めた。


「ありがとう、助かるわ」


 セレスティーヌは、なすがままお礼を口にした。

 使用人達にここまで信頼されているなんて、二人とも素敵な方なんだなとセレスティーヌは改めて感じる。


 準備を終えたセレスティーヌは、食堂に案内され、メイドが扉を開けてくれた。

 セレスティーヌが食堂に入ると、既に二人が席に座って談笑していた。


「お待たせして申し訳ございません」


 セレスティーヌは、二人に言葉を発しながら自分の席と思われる場所に移動する。

 アルバートは、テーブルの一番端に座っていた。その斜め前に、お孫さんと思われるグラフトン公爵が座っている。

 セレスティーヌの席は、その向かいにセッティングされていた。


「ああ、大丈夫だよ。少しは休めたかな? これが、私の孫のエヴァルドだよ」


 アルバートが、遅れて入って来たセレスティーヌを気遣いながらエヴァルドを紹介してくれた。

 エヴァルドが立ち上がり、セレスティーヌに挨拶をする。


「初めまして、エヴァルド・グラフトンと申します。祖父がお世話になった様で、ありがとうございました」


 ようやく会えたグラフトン公爵は、とても落ち着いた親しみのある男性だった。

 ありふれた茶色の髪に、優しそうな若葉みたいな緑色の瞳。決して、見目麗しい訳でも派手でもない容姿。地味だけれど、安心感のある雰囲気にとても好感が持てた。

 なぜ結婚していないのか、セレスティーヌの謎は深まるばかり。


「いえ、こちらこそ図々しくお世話になる事になってしまい申し訳ありません。インファート王国から参りました、セレスティーヌ・フォスターと申します。よろしくお願いします」


 セレスティーヌは、初めて会ったグラフトン公爵に淑女の礼をする。セレスティーヌと目が合ったグラフトン公爵は、笑顔を向けてくれた。


 その笑顔が、セレスティーヌの心に引っ掛かる。何故だかとても、寂しそうな笑顔だったから。とても控えめで、自分に自信がない人が零す笑顔だったから。


 どうして、この人はこんなに寂しそうに笑うのかしら……。もっと楽しそうに笑ってくれたら、素敵なのに。

 セレスティーヌの胸に、静かに何だかわからない感情が降って湧いた。


やっと、プロローグに辿り着きました。

ここまで長いよーって思った方、申し訳ありません……。


ここから、ぐわーっとどんどんテンポ良く進んで行きます。

(多分……。)

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