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鬼火 弐

俺は最近少し挙動不審である。

「最近日差しが強いよな~」

ピクピクッ

「いや~あいつに非は無いよ」

ピクピクッ

「火の無いところに煙は立たないからね」

ビクピクッ

「今日火曜日だよね?」

…さすがにこれには反応しなかった。

だが、お分かりいただけただろうか。

火難の相が出ている俺は、必要以上に火への警戒が強まっていたようで、他人の話に「ひ」の話が出てくるだけで反応してしまうようになってしまった。

「さすがに警戒しすぎじゃないですか?」

「うるさい」

「私が守ってあげますから」

「信用出来ない」

「酷いっ!! 私のことは遊びだったのね!?」

どい遊火あそび!?」

「何だかブツブツ呟いたり、ビクビクしていたり、どこか具合でも悪いの?」

「え」

挙動不審な俺にわざわざ話しかけてきたのは、生徒会長おさななじみの橘千夏だった。

「た、橘さん? ど、どうしたの? あ、まさかっかカラオケのこと? あのことは悪かったって…」

「そのことはもういいの。後であなたが埋め合わせしてくれるって戌神くんが言ってたもの」

「え」

戌の奴、余計なことを…

「それよりも、調子悪いの? 何だか何かに怯えているみたい…」

「い、いやそんなことは…」

そこでふと、彼女が俺の背後を見る。

「ねぇ真くん、後ろ…」

「後ろ?」

…!

まさか、繋目のことが見えるのか!?

いや、そんなはずはない。彼女は普通の人間だ。たとえ幼少期に俺の心霊発言を信じていたとしても、それは彼女の優しさから来たもので、彼女自身に霊能力はないはずだ。

でもまさか…

「葛城君、何か後ろで何か燃えてるんだけど…」

「え!!!!!!!!」

俺は反射的に後ろを向いた。

「お前何でマッチ擦ったんだよ!!」

「何となく擦りたくなったんだよ!!」

俺の背後で、マッチでテストの答案用紙を燃やしている奴がいた。

「お前馬鹿か!? 学校の教室で燃やす奴がどこにいるんだよ!!」

「分かんねえよ!! 気が付いたら燃やしてたんだよ!!」

「良いから消せよ!!」

「お、おう!」

彼らは急いで答案用紙の上にジュースやらお茶を掛けて火を消した。

結構周囲は騒がしくなっていたが、燃えていた時間もわずかで、被害もほぼゼロだったからかすぐに騒ぎは収まった。

「び、びっくりした~」

「お、俺も…」

最近俺の周囲で変なことが起こっていた。

家で料理をすると、必ずと言っていいほど火加減が強くなったり、ここらへんで小火騒ぎも起きた。

挙句の果て、昼間から鬼火を部室棟で見てしまった。

どうやら、戌神と姉さんの話が完全に繋がってしまった。

「葛城君、最近何だかここら辺物騒じゃない? この学校も陽が落ちてくると、空飛ぶ火を見たっていう生徒たちがいるのよ。まぁ多分幻だと思うけれど…」

「そんなにたくさんの人が見てるの?」

「ええ。生徒会の目安箱に何枚も投書されてたわ」

「生徒会に送ったところでどうなるんだ…」

こんな心霊的な現象で生徒会や教師たちが動くはずがない。

「そういえば、葛城君はこのことについてどう思う?」

「え!?」

「昔、私によくこういう話してたよね。だから、ある意味葛城君は専門家だと思って」

「いや、そんな昔の話をされても…俺はただの幻覚だと思うけどね」

「え…」

「もう子供じゃないんだ。そんな現象信じてねぇよ」

俺は話は終わりだと言わんばかりに彼女の前から立ち去ることにした。

彼女にこの件とあまりかかわって欲しくない。

この程度のことで彼女の手を煩わせる訳にはいかないのだ。

だってこれこそ俺が彼女に勝てる唯一の…

「…なるほど」

これが、コンプレックスって奴か。俺の矮小なプライドに泣きたくなるが、俺にはこれしかない。

「真さん?」

「…やってみるか」

俺は意を決して、2年生の教室のあるフロアに行くことにした。

ここならば、彼女がいるだろう。

今助力を願えるとしたら彼女のみだ。

「巫先輩いらっしゃいますか?」

「葛城か」

俺が巫先輩の教室内を窺っていると、巫先輩と目が合った。

「何か用か?」

「少しだけ…よろしいですか?」

「別にいいが」

巫先輩はためらうことなく俺に付いてきた。

そして、あまり人気のない場所へと誘い込む。

「お、おい葛城…こんな人気のないところで、な・何をする気だ!?」

「何もしませんよ!!」

相変わらずこの人は自意識過剰である。

「そうですそうです!! 真さんは私にしか興味ありませんから!!」

「話をややこしくすんな、ゴースト」

「うむ、それはないな」

「二人とも酷過ぎですよ!」

繋目が人気のないところに来たので、自己主張を激しくした。

「で、本題なんですけど…最近この学校で鬼火が出るという噂があるんですが…」

「お、おおおおお、鬼火!? も、もちろん知っている!!」

途端に挙動不審になる巫先輩。

心霊系が苦手な退魔師ってどうなんだろうか。

「そして今度は俺自身の話なんですが…実は火難の相が出ているそうです」

「火難の相だと? それは穏やかじゃないな」

「単純に考えてみると、俺がその鬼火にいつか襲われる気がしませんか?」

「た、たたた確かに…」

「真さん。霊歌さんって頼りになると思います~?」

心霊系のことにいちいちビクビクする巫先輩を見て、繋目が疑問を口にする。

しかも、自分も薄々思っていたことであった。

「い、いやまぁ退魔一族なんだからそれなりに頼りになるんじゃないかな…?」

「えー。だって私に負けたんですよ~。霊歌さんは」

ピクッ

繋目の何気ない言葉に巫先輩の身体が反応する。

「いくら退魔の家系の人でも~、たかが女の子幽霊に負けるって~、正直“弱い”と思ったり~」

繋目の奴、わざと厭味ったらしく言ってるな。

「真さんも~、薄々思ってるんじゃないですか~? あ、でも真さんは優しいから~、直接言えませんよね~」

「繋目、そこまで煽ることは無いだろ…」

俺はそろそろヤバいと思ったので、繋目を止めにかかる。

これはもう言い過ぎのレベルだ。

「そこのゴースト…言いたいことは全部言ったか…?」

「あん♪ 怒っちゃいました~?」

巫先輩が懐から取り出した刀に手を掛ける。

「ちょ、ちょっと二人とも!! ここで争うなよ!!」

「真さん。もう無駄ですよ。ここできちんと白黒はっきりつけておかないと、彼女に信じ殺されますよ?この人が本当に頼りになるのか、確認しないといけませんよね?」

繋目が珍しく俺に強い意見を言った。

それほど、彼女にとって譲れないことなのだろう。

繋目も戦闘態勢に入り、大きく息を吸った。

「では早速…切目ちゃ~ん!! 助けて~!」

「「は?」」

だが、そのピリピリした空気に全く合わない能天気なセリフと能天気な声が廊下に響いた。

「切目ちゃんにバトンタッチ!! 私じゃ勝てないもん!!」

「お前、単なる小者にしか見えないぞ」

「切目ちゃん? え? 面倒くさい? そんなこと言わないでよ!!」

だが、現実は繋目に甘くなかった。

繋目はさっきまでのシリアスな雰囲気など無かったみたいに騒ぎ立てた。

「…」

そして、黙ってそんな繋目を見ていた巫先輩は静かに刀を鞘に納めた。

それと同時に踵を返した。

「あ、逃げるんですか?」

「お前に言われたのは腹が立つが…間違ってはいない」

巫先輩は悔しそうにそう言って、二度とこちらを振り向くことは無かったのであった。






自宅に帰ると、繋目が俺に話しかけてきた。

「言い過ぎだったかもしれませんねー」

「自覚あるのか」

「誰しも苦手なものってありますからねー」

「…苦手か」

そもそも巫先輩はどうして怪異が苦手なのだろうか。

退魔の一族なのだからそれなりの特訓などは積んでいるはずだ。

過去に何かトラウマみたいなものでもあるのだろうか。

世に巣くう悪しき怪異を滅ぼしたいという思いと怪異が怖いという思いは何となく矛盾しているようにも感じられるが、どこか同じなような気もした。

「ねえ、葛城さん」

「なんだ?」

「なんか臭いません?」

「いわれてみれば…」

何となく焦げ臭いにおいがするような…

「あ! 葛城さん! 窓の外を見てください!!」

「何っ!?」

反射的に繋目の指差した方向へと視線を向けると、向かいの家から煙が上がっていることが確認できた。

明らかに尋常ではない煙の量から、火災が発生したと考えられる。

「とりあえず通報を…!」

俺はスマホを片手に、『119』をダイアルした。

しかし俺の他にすでにダイアルをした人がいたからか、すぐに消防隊の人たちが駆けつけてきたのであった。

俺は外に出てその様子を見守っていた。

「真くん」

「た、橘さん…」

近くに住んでいる完璧幼馴染もどうやら外に出てきたようだ。

突然のできごと若干どもった返答をしてしまう。

「最近こういう火が絡む事件が多いね。どうしたんだろう?」

「さぁ…な」

言葉とは裏腹にある一つの可能性について俺は考えていた。

「橘さんも気を付けたほうがいいかもしれない…俺の近くにあまりいない方がいい」

「え…」

そういって俺はスマホで姉にコールをした。

さらには巫先輩にも連絡を取るのであった。



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