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おさすてシリーズ(全2話)

幼馴染を切り棄てて後悔する少女のお話

作者: らいとふっと
掲載日:2021/07/24

 

「あのさ、もう私に近付かないでくれる?」


「えっ、あの……舞ちゃん……」


 その顔は、みるみると青褪めてゆく。



 この私、清里 舞(きよさと まい)がこうして忠告しているナヨっとした男の子は、幼馴染の大泉 響(おおいずみ ひびき)


 家が近所で幼い頃からの腐れ縁。

 男のくせにナヨナヨした響は、いつも私に金魚のフンみたいについて来た。


 こうして高校生になっても、相変わらず気の弱い響。

 勉強もスポーツも平均以下。

 16歳には見えない童顔……良く言うならば中性的。

 唯一の特技は、家でのエレクトーン演奏。


 地味だ。

 あまりにも地味過ぎる。


 そんな幼馴染が、今でも私を慕っているのが鬱陶しかったのだ。

 これまで響がいじめられなかったのも、私の側にいたからだろう。


 自分で言うのもアレだが、私はルックスが良くてモテるし、スクールカースト上位だ。

 にもかかわらず、中学の頃は響と付き合っていると思われたのか、まともな恋愛の一つも出来なかったのだ。



「舞ちゃん……そんなの、僕……やだよ……」


「あのさ、ハッキリ言ってあげる。 私、3年の長坂先輩と付き合う事にしたの!」


 これは紛れもない事実。

 だからこそ、このナヨナヨ男と訣別する。


 長坂先輩も音楽をやっているバンドマン。

 家に帰って大人しくエレクトーンを弾いてる地味な響と違って、ギタリストの先輩の方が遥かにカッコいい。

 東京の大きなライブハウスにも出演していて、メジャーデビューのお誘いもあるらしい。

 大きなスクーターを乗り回したり、見た目はヤンキー入ってるのもワイルドだと思う。



「そんな訳だから……バイバイ、大泉君」


 下の名前ではなく、名字で呼んだ私。

 今にも死にそうな顔をした響が膝を落とすのを見届けると、私は踵を返して去ってゆくのだった。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




 秋になり、文化祭の当日。


 体育館から鳴り響くのは、ギターやドラムの音。

 有志バンド達によるライブステージが行われているからだ。

 演奏の合間にはキャーキャーと女子達の騒ぎ声も聞こえる。



「チッ! ったく、下手糞バンド如きがドンドコ煩えんだよッ……!」


 体育館から離れた校舎裏。

 タバコを片手に悪態を吐く長坂先輩。


 その先輩の隣には、彼女である私が居る。

 いつの間にか、先輩に感化された私もヤンキーだのDQNだのと呼ばれる様になっていた。

 髪を金髪に染め、肌は浅黒くして、首や腰にはシルバーアクセを付けて。


「ま、ウチの学校レベルだと、俺のギターテクについて来れる奴なんていねぇからな。 素人のお遊戯会に俺が出る訳無いっつーの」


「そうですよね、先輩」


 相槌を打った私だが、それが先輩の強がりだと判っていた。


 先輩と付き合って半年間、その演奏を何度も耳にはした。

 多少は上手い程度で、東京のライブハウスだとかメジャーデビューの話は盛られているのも勘付いている。


 何故なら、幼い頃から幼馴染が弾くエレクトーンの練習を聴かされていたからだ。

 現在の電子楽器は、ギターやバイオリンの音色も忠実にシミュレートして奏でる事が出来る。

 私がよく聴かされた()()()()()()()ギター演奏は、先輩の演奏を遥かに凌駕していた。



「つまんねぇな……。 舞、今日はもうフケっぞ?」


「先輩……」


 そう、この時点で私には解っていたのに。


 色々なバンドに加入しては脱退を繰り返している、所謂トラブルメーカーである先輩。

 そんな彼とバンドを組みたい人なんて居ないだろうと……。





 学校を出ようとする私達が通り掛かったのは、教員用の駐車場。


 そこには、ワゴン車から音楽機材を降ろしている二人が居た。



「わざわざ有難うございます、小淵沢先生」


「可愛い生徒の晴れ舞台なんだもん、このくらいは当たり前よ?」


 学校一の美人教師である小淵沢 美嘉(こぶちざわ み か)

 彼女に憧れる男子生徒は後を絶たない。

 受け持つ英語の授業中は鼻の下を伸ばす男子だらけだ。


 そんな美人教師と一緒だったのは、響だった。


「かなり重たいんだね、シンセサイザーって」


「あ、体育館まで僕が持ちますから!」


 二人の会話。

 遠巻きに耳を傾けてしまう自分が居た。

 ナヨナヨだった響が、重い機材を率先して担いでいる。



「おっ、美嘉ちゃん! 何してんのさ?」


 長坂先輩も美人教師に気付き、馴れ馴れしく声を掛ける。

 その声に二人がこちらを振り向き、私は響と目が合ってしまう。



「あ、長坂君じゃない! 貴方も手伝ってくれない?」


「いやいや、俺は肉体労働はしない主義っすから」


 二人が喋っている中、響は私に軽く会釈をする。



「ん? 舞……コイツと知り合い?」


「あ……僕、舞ちゃんとは幼馴染なんです」


 怪訝そうに響を睨む長坂先輩だったが、毅然とした態度で返す響。

 そこには、以前のナヨナヨ男だった面影は無かった。



「そうなのかよ、舞……」


 不機嫌そうに私の顔を覗き見る先輩に、私は苦笑いを浮かべてしまう。



「あ、良かったら僕のステージ観に来ない?」


 そんな私に笑顔でそう言ってくれた響だったが……。



「何言ってんの? 響の……大泉君の演奏なんて興味ないから!」


 脊椎反射的に、私は冷たく断っていた。


 私と響を交互に見ながらニヤつく先輩。



「こんな不良生徒達を誘わなくても、私が観てあげるからねっ?」


 ラックに入った機材を降ろしながら、小淵沢先生は私達を一瞥する。



「フン、くだらね。 早く行こうぜ、舞」


「はい、先輩っ」



 一瞬、どこか寂しげな表情を見せた響。


 もしもこの時、私が響のステージを観に行っていたら……私の運命は違っていたのだろうか?





 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





 翌日の朝。

 教室に入った私を見るや、何人かの女子生徒が群がって来た。


「清里さんって、D組の大泉君と同中(おなちゅう)だったよね?」


「えっ?」


「ね、大泉君って彼女とか居るの?」


「い、居ないんじゃない……かな……」


 黄色い声で騒ぐクラスメイトの女子達。

 どうやら昨日のステージが凄かったらしい。

 バンドではなく、数台のシンセサイザーを駆使したソロステージ。

 一人でオリジナル曲を打ち込み、演奏し、そして歌う。


 やれ理想の王子様だ、彼は令和の小◯哲哉だのと男女問わずにクラスの話題になっている。



(何で……響なんかに……)






 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





 その年の暮れ。

 長坂先輩が傷害事件を起こして逮捕された。


 更に逮捕後、クスリの陽性反応が出たらしく、付き合っていた私までもが検査の対象となった。

 幸い、先輩が私にクスリを使ったりする事は無かったので陰性であったが。


 先輩は学校を退学処分となり、少年院へと収監される事となった。


 学校創立以来、前代未聞の犯罪者の彼女である私は完全に孤立してしまう。

 仲が良かった友人からも無視され、今や陰口を叩かれるのも日常茶飯事。


 結果として、私は指導室での特別授業を一人だけで受ける学校生活を送る羽目になった。

 一般の生徒とは時間をずらしての登校時間。

 同じ校舎に居ながら、クラスメイト達とは顔を合わさない様にする学校側の計らい。


 そんな、冬休み間近な下校時間。

 普通の生徒は夕方だが、今の私の帰る時間は午後7時過ぎ。

 もう部活すら完全に終了している閑散とした学校内。


 トボトボと校門を出ようとする私に……。



「あ、舞ちゃん……」


 今や懐かしい声。

 響が白い息を吐きながら、私に声を掛ける。



「……何の用?」


 孤立した私なんかに微笑んでくれた響に、私は膨れっ面を返す。



「一緒に帰ろ、前みたいにさ」


「私さ、前に近付かないでって言ったけど?」


 こんな時間まで私を待っていたのだろうか?

 内心では嬉しい筈なのに、それでも響を拒否する言葉が口から溢れ出てしまっていた。


 暗くなった通学路を並んで歩く私達。



「その……先輩は残念だったね、あんな事になって……」


 今にして思えば、私の立場を考えて響は言葉を選んでくれたのだと思う。

 この時の私には、馬鹿にされているとしか思えなかった。


 正直、もう長坂先輩なんてどうでも良い。

 しかし、だからと言って響に気遣いされるのはムシャクシャする。

 それはプライドなのか、自暴自棄なのか、私自身でもはっきりと解らない。



「はぁ? 何なの? アンタ、私を憐れんでる?」


「違うよ。 僕は舞ちゃんが心配だから……」


 相変わらず、私を苛つかせる響。

 こんな私を気遣ってくれている優しい幼馴染なのに。


 そんな響に対して、私は更なる毒を吐いた。


「次から私の帰りを待ったりするの、やめてくれる? はっきり言って迷惑だから」





 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





 冬休みに入り、年が明けた。

 初めて雪が積もった寒い正月明け、私は病院に居た。



「うん、感染してますね……クラミジア」


 医師の言葉に、傍らに座る母がガックリと肩を落とした。

 少年院に収監中の長坂先輩が発症したとの連絡を受け、私にも検査を勧められたのだ。


 帰宅後、父は怒り狂った。

 当事者が不在である長坂先輩の家に怒鳴り込んだらしい。



 3学期が始まったが、やはり私は特別授業を受け続ける生活を送っていた。


 そんな孤独な毎日が続く中、私は体調不良で倒れる。

 救急車で緊急搬送された私に告げられたのは、残酷な事実だった。



 私は、長坂先輩の子を宿していた。



 そして、その新しい命の芽は、周囲の猛反対によって呆気なく摘み取られた。


 私は進級する事なく、学校を退学した。

 響とは年が明けてから一度も会う事も無く。


 親の勧めもあり、母の実家である田舎に移り住み、私はそこで定時制の高校を卒業した。






 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





 仕事から帰宅した私。

 友達もいない、恋人もいない、地方の貧しい派遣アルバイトの生活。

 貯金する余裕もなく、毎日を生きるだけで精一杯な安アパート暮らしの日々。


 そんな私でも、唯一の楽しみがあった。



「あ、今日はテレビに出演するんだ!」


 スマホで情報を確認すると、慌てて安物の小さなテレビのスイッチを入れる。



 煌びやかなゴールデンタイムの音楽番組。

 人気アイドルユニットや大御所歌手に続いて、一人の実力派ミュージシャンが紹介される。


「大泉 響さんです!」


「こんばんは、宜しくお願いします!」


 そこに映るのは、私の幼馴染であった響。


 デビュー曲が人気ドラマの主題歌として大ヒットし、以降は常にヒットチャートを賑やかしている。

 その甘いマスクは抱かれたい男No.1に輝いた上、今年になってからはハリウッド映画の劇伴を手掛け、自身も俳優として活躍する華々しさである。


 そんな響の活躍をこうして遠い場所から眺める事だけが、今では私の安らぎとなっていた。



「この新曲は悲しい別れの歌だそうですが、もしかすると……大泉さんの実体験に基づいたりするのでしょうかねぇ?」


 サングラスの司会者がニヤケながら、そんな質問をぶつける。


「……どうなのかな、フフッ。 ご想像にお任せしますよ」


 そう言い残すと、響はセットへと向かう。


「それでは、大泉さんの新曲『どうして君は僕を棄てたの』お聴き下さい!」




 新曲の歌詞を噛み締めながら、私はただ安アパートの一室で涙を流すだけだった。


 何もかもが手遅れになってから、ようやく気付いた大切なもの。



 どうして……?


 どうして、私は……?


 どうして、私は、君を棄てたのだろう……?



ざまぁ? 寝取られ? BSS?

何だろコレ。

作者にもよく判らないですぅ。


この続きは後編となる短編「幼馴染に切り棄てられても諦めなかった彼のお話」をご覧下さい。


宜しければブクマや評価P、ご感想もお待ちしております。


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