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今日の月は、1万年に1度の輝きなんだってさ
目の前の彼女はわたしの後ろに広がる夜空に目線を逸らし、そうぽつりと呟く。
うだるような暑さの夏が過ぎ、涼しい風が吹き始めた秋の入口の夜。私たちは昔からの遊び場である原っぱにいた。こんな夜更けの時間にいるのは私たちだけで、ふとした瞬間にもしかしてこの世界には私たちだけしかいないんじゃないかと錯覚してしまう。
1万年に1度って、1万年間月を見てきたのかな?と純粋な疑問を口にするとマジレスやめろよ、と彼女は薄く笑う。
「それぐらい今日の月はきれいだってことなんだよ、結。」
「光ちゃんって結構ロマンチストだよね」
「うるせえな、アイラブユーの意味合いで言ったわけじゃないからな」
「え?ちがうの?」
そう言った私の手が握っているのは月の光できらめく一筋の太刀。刃先は彼女の首に添えている。
彼女は、─光ちゃんは怯えることも抵抗する素振りもなく、静かな海のような瞳をしていた。
光ちゃんの瞳は灰色がかった青色をしている。私は光ちゃんの瞳の色が大好きで、どれくらい好きかというとよく覗き込んでは彼女にあんまり見ると観覧料取るぞ、とどつかれるぐらいには。
「すぐ行くから、まっててね」
「お前を置いてくわけないだろ、ちゃんと待ってる」
「光ちゃん」
「なに?」
「愛してる」
これは、私たちがそれぞれの運命の輪から抜けるまでの物語。