58 DAY3ゴルフ要塞攻略戦Ⅱ【横隊突進】
《攻撃本隊、戦端に到達!》
《敵さんの兵隊もお出ましだ。撃ち負けるんじゃねぇぞ!》
《要塞壁上の敵はリコリス1に任せろ! 目の前の敵を倒すことだけに集中するんだ!》
戦闘開始の挨拶と言わんばかりだった両軍の騎兵による激突は終息。
お互いに本隊となる大規模な軍勢が戦場に到着し、腰を据えての撃ち合いへと変わって行く。
そんな中、アスカの仕事はスモークが切れだした要塞壁上の重機関銃への対処だ。
こちらの本隊が戦場へ展開したのを確認した後、海上へ出て大きく旋回。
再び要塞壁上を一直線にした形でその正面に捉える。
「対地攻撃特化の飛雲の力、思い知れ!」
姿勢は巡行、両翼のガンポッドと手に持った汎用機関銃の照準を壁上に表示された『TGT』アイコンに合わせ、トリガーを引く。
軽快な射撃音と同時に重い銃撃音が響き、敵に銃弾の雨を降らせる。
両翼のガンポッドは俯角を付けているため、高度を下げることなく水平飛行のまま壁上を攻撃することが可能であり、両手持ちの汎用機関銃と合わせて通過するだけで地上に甚大な被害を与えて行く。
さすがに一回で壁上のすべての重機関銃を破壊することは出来ないが、何度か反復攻撃を行う事で壁上の敵は完全に沈黙。
『TGT』アイコンは一つも残っておらず、動く敵の姿も残っていない。
「壁上重機関銃、沈黙! 掃討したよ!」
《了解じゃ、リコリス1》
《マジかよ! 昨日あんなに苦戦したのに!》
《航空支援があるとこうも違うのか!》
《トーチカ、及び壁上重機関銃からの損害は軽微! 戦闘に支障なし!》
《一気に畳みかけろ!》
戦闘が開始されてそれほど時間がたったわけではないが、戦況はランナー側が優勢。
本来防衛でその力を遺憾なく発揮するはずだったトーチカと壁上の防御設備はすでに能力を失い、モンスター達による正面戦闘でしか要塞を守ることが出来なくなっている。
《リコリス1! 敵にスペルキャスターがいる! 航空支援を頼む!》
「了解!」
《リコリス1、魔導特科小隊の準備が整ったよ! 射撃地点を教えて!》
「ポイントマーク! あそこに敵が固まってるよ!」
《リコリス1、戦場南の敵がレーダーから消えた! 再度観測を頼む!》
「はいはーい!」
《リコリス1、敵の増援は見えるか?》
「要塞の中にまだかなりいるよ! オークキングも確認! ……あぁもう、忙しい!」
要塞攻略作戦において、アスカは大車輪のごとく動き回っていた。
地上からの支援要請には出来る限り答えてはいるが、広い戦場において航空支援を行うフライトアーマーが自分一人と言うのはどう考えてもオーバーワークだ。
後でクロムとファルクに文句の一つ二つでも言ってやらなければ気が済まない。
要塞はどうなっているかと目を向ければ、城門はすでに解放されており、そこから随時増援が派遣されている。
そこには総大将とも思えるオークキングの他、ハイオーガやゴブリンジェネラルと言った上位種の姿もあった。
さらに、敵の増援はそれだけに留まらないらしく、要塞付近の地面のあちこちが盛り上がり始めたのだ。
その動きにはアスカも見覚えがある。
「敵陣後方、ストーンゴーレムが出てくるよ!」
《うむ、想定の範囲内じゃ。出現ポイントをマークしてくれ》
要塞の防御と言う意味ならば、これほどの適任はいないであろうストーンゴーレム。
だが、ストーンゴーレム達は姿を現したと同時に加農砲の集中砲火により頭を吹き飛ばされ、その姿を光の粒子へと変える。
壮大な出オチである。
《重い加農砲を持ってきた甲斐があるってもんだ!》
《スポーン直後なら動きも遅い! 狙え!》
《出てくるのが分かってりゃ撃ちぬくのなんざ造作もねぇ!》
本来ならば要塞防衛の要であったであろうストーンゴーレム。
しかしランナー側はストーンゴーレムには加農砲と言う回答をすでに見つけている。
出現ポイントをアスカに察知されているストーンゴーレムは、その姿を現すのと同時に体中を穴だらけにされ、戦況に影響することなく消滅。
スポーンするストーンゴーレムすべてを倒せているわけではないが、動きの遅いストーンゴーレムが漸く前線に到着した時にはHPをかなり削られており、その程度ではモンスター達の盾にはなりえなかった。
《こちら機動部隊! トーチカの防衛ラインを突破! 行けるぞ!》
《全トーチカ制圧完了! 後は歩兵戦力だけだ!》
《加農砲、もうストーンゴーレムは狙わなくていい! 要塞の壁を破壊しろ!》
《こちら魔導特科小隊! 残存MPにはまだまだ余裕があるわ! どこを狙えばいい?》
通信から聞こえてくる声も、重苦しいものではなく、要塞攻略が順調な事を指し示す明るいものだ。
《なんだよ、意外といけるじゃねぇか。このまま後方の奇襲のないまま落とせるんじゃないか?》
《……いや》
《油断は禁物じゃ。昨日のことがあるからのぅ》
あまりの順調さ故、あちらこちらから楽観ムードが漂い始めていた。
だが、昨日ユニフォーム上陸作戦に参加した者たちの表情は依然険しいまま。
彼らは分かっているのだ。
敵の戦力がこの程度の物でないことも、まだ真のボスが出てきていないことも。
そんな彼らの不安を表すかのように、眼前のゴルフ要塞内部から一本光の柱が伸びた。
突如発生した柱は次第にその太さを増し、要塞全体を包みこむと、要塞と敵モンスターすべてを淡い光で覆った。
《な、なんだ、何が起きた!?》
《ぐっ、敵が急に固くなった!?》
《機関銃のダメージが入らなくなったわよ!?》
《おい、どうなってる!?》
錯綜する異常事態を告げる報。
ド派手なエフェクトと急に敵が固くなったことでパニックに陥るランナーも少なくはないが、大半のランナー達は焦ることなく落ち着いていた。
彼らはこの現象を知っているのだ。
そして、誰がこの事態を引き起こしているのかも。
ある意味、それを一番知っているのはアスカだろう。
アスカは光の柱が伸びるのとすぐさま航空支援を中止。
高度を取り、光の柱の根元をセンサーブレードの範囲内に収める。
当然、そこには因縁深い相手が睨みつけるような眼差しでアスカの事を見上げていた。
「光の柱の発生源に『軍神シメオン』を確認!」
《やはりゴルフ要塞におったか!》
《要塞に防御力バフの支援型ネームドなんて相性最悪じゃねぇか!》
《そんなこと言ってる暇ないわ! 敵、来るわよ!》
要塞周辺のモンスター全体に継続回復、対魔法防御、対物理防御のバフが掛けられたのを皮切りに、モンスター達が反転攻勢に打って出た。
敵獣人の騎馬隊はほぼほぼ壊滅しているが、突進力であればオークたちも引けを取らない。
ゴルフ要塞から外へ出たオーク達は陸繋砂州一杯、一列横隊に並ぶと、腰を低くかがめ、一斉に突進を開始した。
中央には当初はこの要塞の指揮官と思われたオークキングの姿すらある。
《敵、オーク群、突進!》
《前衛が轢き殺される!》
《あぁっ、アームドボアがランナーごと弾き飛ばされた!》
《猪型のアームドビーストが突進力で負けるのか!?》
《駄目だ、攻撃が通らない! あいつらの足を止められ……ぎゃああああぁぁぁぁ!》
《後退、後退して! きゃああぁぁぁ!》
《各員、トーチカを盾にして突進を回避しろ! あれに轢かれたらただじゃすまないぞ!》
オーク群の一列御横隊突進だけでこれまでランナー達が奪取した陣地は一気に取り返されてしまった。
バフのかかったオークの突破力は尋常ではなく、獣人騎兵すら弾き飛ばしたアームドビーストさえをも轢き殺す。
魔導特科小隊の魔法攻撃に耐え、加農砲の砲弾ですらもその足をわずかに止めさせる程度の効果しかなかったのだ。
《どれだけやられた!? 態勢を立て直せ!》
《今の突進だけでかなり死に戻ったぞ!》
《くそっ、近接も魔法攻撃も効きが悪すぎる!》
《バフ解除の魔法は!?》
《やってみたけど効果がないの!》
《なんてこった!》
支援魔法が得意なメディックアーマーは、デバフやバフ解除と言った妨害魔法も使用する事ができる。
今回の作戦は先日、ユニフォーム上陸作戦で大規模支援魔法を使用したネームドエネミー『軍神シメオン』が引き上げていったとされるゴルフ要塞。
その為、バフの解除を目的としたメディックアーマーも数多く参加していたのだが、いざシメオンからバフを受けたオークや獣人達にバフ解除の魔法をかけても効果がなく、敵の攻勢は止まらない。
《重機関銃! ……これも駄目か!》
《三七㎜砲が効かねぇんだ! 効果あるわけねぇだろ!》
《アサルト! 後衛が撤退する時間を稼げ!》
《航空支援! リコリス1、頼む!》
出現当初はその姿を確認するため要塞上空を飛行していたアスカだが、今は引き下げられた前線のラインまで後退し、地上を支援していた。
両翼のガンポッドと両手持ちの汎用機関銃。
三門による一斉射を繰り出すが、バフがかかったモンスター達への効果は薄い。
「効かない……」
『バフを受けたモンスター達へはアスカの装備では効果が薄いようです』
いくら火力を強化したといっても所詮はフライトアーマー。
かなりの弾数を打ち込んだが、バフを受けたオークの重厚な鎧を撃ちぬくことは叶わず、大量の火花と地面に多数の穴を空けるだけだった。
それでも味方の撤退の時間稼ぎになるならば、と、絶えず銃撃を続けるが、しばらく打ち続けたところでガンポッドから弾が出なくなってしまった。
一瞬故障かと焦るが、すかさずアイビスが報告を入れてくれる。
『両翼ガンポッド、残弾無し。汎用機関銃の残弾も僅かです』
「あっ……残弾か」
インベントリを確認すると、作戦開始時あれだけ潤沢にあった残弾はすでになく、所持アイテム一覧に空欄を作っていた。
どれだけ銃を持っていようと残弾がなければ撃つことは叶わない。
ここは補給に行くしかないと高度を上げ、忌々し気に地上を見る。
すると、そこには不自然な光景が広がっていた。
「……あれ? モンスター達が止まってる?」
バフを受け、こちらの布陣をあらかたひき潰したオーク達。
そのままこちらの陣地まで突撃するのかと思ったが、今は足を止め、防衛ラインを築いていた。
不自然なのはその形。
計算したかのような綺麗な曲線を描いており、まるでコンパスか何かで描いた巨大な円の外周に沿うような形だったのだ。
あまりの不自然さからアスカはすぐさま地上に報告。
するとクロムやファルクには思い当たる節があるようで、複数の部隊を使って防衛ラインを築いたモンスター達に挑発攻撃を行った。
しかし、モンスター達の挑発に対するアクションはその場にとどまっての銃撃や魔法攻撃であり、防衛ラインを維持するのみ。
《……なるほどのぅ》
「何かわかった?」
《リコリス1、すみませんが敵のラインの写真を取ってから一旦帰投してください》
「えっ!? でも、味方の支援は?」
《おそらくじゃが、敵がその防衛ラインを越えて攻めてくる事はない。一度体制を立て直す》
「り、了解」
詳しい事は戻ってから話すという事なので、アスカは言われた通りモンスタ―達が築いた防衛ラインの上空写真を取った後大きく旋回。
味方陣地へ進路を取ったのであった。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまり三宅島空港から飛び立ってしまいそうです!




