55 DAY3攻撃機改修とブリーフィング
アルディド達との面会を終えたアスカが向かったのはハルの待つ畑ではなく、ダイクの居るエグゾアーマーショップ。
時間は九時半。空は赤みが増しほぼ日が暮れているが、お店が閉店するまではまだ時間がある筈だ。
足早にショップに駆け込んだアスカは、店じまいの準備をしていたダイクに開口一番叫ぶ。
「ダイクさん、機関銃ください!」
「な、な、なんだぁ!?」
いきなり現れたアスカに詰め寄られ、さすがのダイクもたじろいでしまう。
だが、そこはさすが強面エグゾアーマーショップ店長。
すぐさま表情を戻すと、お返しだといわんばかりにグイッとアスカに詰め寄った。
「いきなり機関銃たぁ、どういうこった? ピエリスとエルジアエはどうした?」
「あの二つでも良いんですけど、火力不足なんです」
イベント開始二日間でアスカが感じたのは、やはり火力不足だった。
アスカの主兵装である、PDWピエリスと、マルチウェポンエルジアエ。
ピエリスは確かに取り回しが良く、使い勝手がいいのだが、射程がやや短く、単発火力も低い。
エルジアエは単発の火力こそ十分だが、連射となるとこれもやや火力不足になる上、MPを消費するために乱用できず、レイサーベルに至ってはブービーとの戦闘以外では使わなかった。
今イベントでのアスカの主目的は地上支援。
あまり機動飛行は行わず、中・遠距離からの機銃掃射や絨毯爆撃が攻撃手段であり、機動飛行で使う事を主としている二つの銃はその目的からは外れている。
そこで、地上支援に有効な火力支援が行える銃を探すことにしたのだ。
アスカはその事を細かくダイクに説明すると、彼は顎に手を置きながら低い声で唸った。
「なるほど、事情は分かった。それで、何故機関銃なんだ?」
「アイビスと相談したら、ロビンさんが使っていた機関銃なら装備できるという事なんです」
「ロビンが? ……あぁ、あれか!」
ダイクは思い出したかのように店の奥に消えると、すぐさま一丁の銃を持って帰ってきた。
それは、以前ライアット山攻略に赴いた時にロビンが使っていた汎用機関銃。
ゴブリンを数発で葬り、スニーゴーラを一方的に嬲り、ストーンゴーレムですらハチの巣にしたその機関銃はアスカが知る中では一番火力がある武器だ。
「コイツの事だろう?」
「そうそう、これです!」
アスカがアイビスに『何か火力のあるいい火器はないかな?』と打診したところ、この機関銃を答えたのだ。
通常の翡翠では重量過多のため装備不可となるこの汎用機関銃だが、最大積載量を増加させているカスタムアーマー飛雲であれば、ギリギリで許容範囲に収まる。
もちろん、デメリットがないわけではない。
その重量からピエリスとエルジアエは装備できなくなる上、両手持ちにしなければまともに照準もつけられず、取り回しも射撃精度も悪い。
だが、それでも支援火力という一点においてはこの機関銃に勝るものはない。
「これ、いくらになります?」
「二万ジルだが、ちょっとまて。これよりいい奴がある」
「えっ?」
すぐ買おうとしてたアスカを制止し、ダイクが再び店の奥に消えて行く。
先ほど同様すぐに戻ってきたのだが、その手には紡錘状の見慣れない銃を持っていた。
「ピエリス同様、整流用のカウルが付いた汎用機関銃だ。火力はさっきの奴とほとんど変わらねぇ」
「おぉ~!」
大きさ、重量共にロビンが使用していた汎用機関銃と同程度。
だが、銃全体を覆うカウルにより機動力の低下が抑えられている。
フライトアーマーにとっては最適な機関銃だ。
「これ、これください!」
「まいどあり。それと嬢ちゃん、武器積載量にはどのくらい余裕がある?」
「積載量ですか? ちょ、ちょっと待ってください」
購入した機関銃をインベントリに仕舞いつつ、メニュー画面からエグゾアーマーを選択。詳細を表示させる。
しかし、あまり詳細画面を見ないアスカはどこに積載量が記載されているのかが分からない。
操作画面と睨めっこしているアスカを見かねたのか、アイビスからその画面をダイクに提示するようアドバイスされ、そのまま画面を反転させてからダイクの前に突き出した。
「……ふむ、さすがロビンのカスタムアーマーだな。嬢ちゃん、火力が欲しいならガンポッドも付けたらどうだ?」
「ガンポッド?」
ガンポッド。
それは現実世界にも実在する、外付けのポッドの中に収められた銃火器の事だ。
他のエグゾアーマーでは背面固定兵装、ショルダーマウント、もしくは腕などで取り付けるが、フライトアーマーならば、その場所は当然……。
「主翼に取り付けた増槽を外して取り付ける。MP総量は減るが、火力は劇的に向上するはずだ」
無論、制限はある。
フライトアーマーの場合、積載可能重量、エンジンパワー、揚力などの関係からそこまで大口径なものは搭載出来ず、左右バランスをそろえる為、左右の主翼下に同じものを搭載しなければならないのだ。
アスカの飛雲が搭載できるのは5.56㎜の銃弾を使う軽機関銃と呼ばれるものをガンポッド用に改良したもの。
弾薬こそアサルトライフルであるアーマライトと同じだが、連射性能、貫通力、火力、射程距離とその全てでガンポッドが上回っている。
両翼の増槽のMPは合わせて100になるが、現状MPには余裕がある。
品質AのMPポーションの在庫も潤沢であり、アスカはすぐさまガンポッドを購入する。
「おぉー! これで火力倍増!」
「細かい調整をするから、ちょっと奥に来てくれ」
「調整?」
ガンポッドは主翼下に固定して装備する関係上、射角が固定される。
その為前もって射線や角度を調整しておく必要があるのだ。
店の奥の工場、試着できる場所まで移動したアスカはそこで飛雲を装備。続けてダイクが増槽を外し、代わりにガンポッドを取り付けた。
「嬢ちゃんの主要任務は観測と地上支援なんだな?」
「はい。機銃掃射とグレネードの投下が攻撃手段です」
「高度は?」
「200~300mです」
「ふむふむ……」
ダイクは頷きながら左右ガンポッドの取り付け位置を慣れた手つきで調整する。
「これで良し。左右ガンポッドの射線は200m先で交差、俯角を付けて高度を落とさないまま機銃掃射できるようにしておいた。あとは実戦で試してみるしかないな」
「わぁ、ダイクさん、ありがとうございます!」
「仕事だからな。気にするな。上陸作戦、がんばれよ」
「はいっ!」
ダイク満面の笑みとサムズアップに敬礼で答えるアスカ。
その後は店じまいという事もあり、追い出されるようにしてショップを後にしたのであった。
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アスカがダイクのエグゾアーマーショップで追加の兵装を買ったのとほぼ同時刻。
ここ、ランナー協会のレンタルオフィスでは昨日同様、主だったランナー達が集まり作戦会議を行っていた。
「では、これより作戦会議を始めるぞ。今日はワシが司会を務めるが、問題ないな?」
そう声を張り上げるのは、ゲームの中では珍しい老人のアバターを使用するランナーだった。
ベースはドワーフ。
だが、出来る限り身長を伸ばした体はパッと見では人かドワーフかの判別は難しい。
顔や手には年相応の皺がより、ドワーフのトレードマークたる髭はすっかり白く、見るものすべてに重ねた年を多さを実感させる。
実際世界ならまともに歩けるのかさえ疑ってしまうような風貌でありながら、彼のその目は鋭く、この場にいる者全てを見透かすように部屋全体を見渡していた。
彼の放った言葉に異を唱える者はなく、その事を確認した老兵は、言葉をつづけた。
「では、僭越ながらこの老兵、クロムが今作戦会議を進めさせてもらおう。今日の攻略地点は東の重要拠点、ゴルフじゃ」
クロムと名乗った老兵の合図で部屋の照明が暗くなり、モニターにゴルフの周囲を拡大したマップが表示される。
「まずは状況の確認からじゃな。皆知っての通り、重要拠点ゴルフはブラボー、エコーのある島と本土とを結ぶ陸繋砂州、その根元に築かれた関所。その防御力は極めて高く、昨日三万ほどのランナーが攻勢を仕掛けたが、失敗に終わっておる」
先日一〇万のランナーたちがユニフォームに攻勢をかけている間、作戦に参加しなかった面々はゴルフ攻略に動いていた。
だが、結果は失敗。
陸繋砂州の幅いっぱいに造られた壁と、拠点を防衛する戦力に攻撃を阻まれていた。
「敵の戦力は昨日リコリス1が教えてくれたものと相違ない。指揮官クラスにオークキング。そこにオーク、ホブゴブリンなどになる。じゃが、皆も知っての通り、ユニフォーム進攻により敵兵力が援軍として割り裂かれた上、ユニフォームに現れたのは軍神シメオン率いる獣人の軍勢じゃ」
軍神シメオンの怖さはすでに皆が把握している。
数万の軍勢すべてに防御力のバフと継続回復を付与させ、騎兵を使いこちらをかく乱してくる強敵。
先日の戦闘ではこちらはその防御力と機動力の前になすすべなく敗北している。
そして、こちらを壊滅させ、シメオンが帰っていったと思われるのが東の重要拠点、ゴルフなのだ。
「未確定ではあるが、ゴルフにはシメオンが居ると思って動くのが妥当じゃろう」
最悪は想定してしかるべき。彼は老兵らしく慎重に想定される敵布陣を述べて行く。
そんな時、ただ黙って作戦を聞いていたランナー達の一角から声が上がった。
「すまない、先ほどから聞いていると攻略の目途が全く立っていないが、どうするつもりなんだ?」
「ほっほっほ……主はせっかちじゃな。もちろん、ちゃんと考えておる」
ランナーの問いに笑って答え、視線をモニターに移す。
すると映っていたマップが拡大され、重要拠点ゴルフと東の上陸地点ホテルを一つの画面に収めた。
「一昨日ホテル上陸したこちらの軍勢が、そのまま南下を続け、先ほどジュリエットを攻略しておる」
ジュリエットは東の上陸地点ホテルから南に下がった位置にある拠点ポイントだ。
そこから西に行けばそこは重要拠点ゴルフであり、陸繋砂州側に壁をもつゴルフの背後を取る形になる。
ゴルフの正面から攻めるフォックストロットから出た部隊と、背後を突くジュリエットから出た部隊。
それは誰もが勝利を疑わない、絶対的な形。
「この二つの部隊でゴルフを挟み撃ちにする」
おおお! と湧きたつ室内。
いかに敵が強固と言えども、包囲してしまえば攻略することなど造作もない。
「じゃが、敵に防御態勢を整えられては苦戦は必至。そこで、先にフォックストロットの部隊が全面攻勢をかけ、敵を陽動。彼奴らの背後に対する警戒が薄くなったところでジュリエットの部隊が奇襲する算段じゃ」
ただでさえ絶対有利となる包囲殲滅作戦。
その成功率をさらに上げる為、老兵ランナーが考えたのは背後からの奇襲攻撃。
正面で殴り合いをしているさなかに背後から襲われてしまえば、如何に重厚な鎧を身に纏おうと耐えることなど叶わない。
「それで、どのタイミングで奇襲を仕掛けるんだ?」
「うむ、それは地上におる我らよりも適任がおる。空から周囲を見渡す目を持つリコリス1、そなたの出番じゃ!」
ここ一番とばかりに力強く言い放つ老兵。
だが、その言葉に答える者が居ない。
「……およ? リコリス1? おらんのかえ?」
ざわつく会議室。
それもそのはず、会議に参加しているものすべてが昨日も会議に参加し、戦場で最も活躍したリコリス1がこの場にいないなど、夢にも思わなかったのだ。
「……あ~すみません、発言よろしいでしょうか?」
薄暗い会議室の一角から力のない声が上がる。
その声の主こそ、彼女がこの場に居ない理由を知る唯一の人物。ファルクだった。
「彼女は今日この場にいません。作戦には確実に参加するという事ですので、決定事項は私が代わりに伝えておきます」
「なんと! むむ……ワシが直接伝えたかったのじゃが、致し方なし。リコリス1は敵の戦力のほとんどが正面に対するランナー達に向かったことを確認したタイミングで、付近に集結し、潜んでいるランナー達に合図を送るのじゃ。これで敵の布陣は一気に崩れるじゃろう」
「……分かりました。間違いなく伝えます」
そうして会議は作戦内容の通達から各部隊の布陣へと移って行く。
そんな中、ファルクの顔はすぐれなかった。
ファルクは作戦会議前にリコリス1、アスカへ会議に参加するよう伝えていた。
だが、帰ってきたのは『空を飛ぶだけの私は会議に不要だよ!』『作戦には参加するから、なにかあったら後で伝えてくれればいいよ!』『私はアルバとアルディドと大事な話があるから、文句はそっちに言ってね!』と有無を言わさず会議から逃げ出したのだ。
慌ててアルバへアスカを会議に連れてくるよう頼んだが、そちらは返信すらない。
貴方たち、後で覚えていなさい。
と静かな怒りを燃やすファルクを他所に、会議は順調に進んでゆく。
そして……。
「作戦内容と布陣は以上じゃな。では……各員、健闘を祈る!」
老兵の最後の一言で会議は終了。
会議に参加していた面々は小隊メンバーへ作戦内容を伝え、それぞれが割り当てられた場所へ移動するべく、部屋を後にしてゆく。
ファルクもそんな他のランナー達同様に席を立ち、会議室を後にしようと歩き出す。
オペレーション・スキップショット三日目。
重要拠点ゴルフ攻略作戦が今、始まろうとしていた。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまり茨城空港から飛び立ってしまいそうです!




