9 うまい話には裏がある?
本日一話目の投稿です!
「おはよう、アイビス!」
『おはようございます、アスカ』
ログインしたアスカは今日も上機嫌でアイビスに声をかけた。
昨日TierⅢの魔力結晶と各部増槽を購入、取り付けたアスカは拡張した飛行時間で大いに空を満喫した。
MP限界まで上昇し、そこからの滑空で周囲を一周するだけで数時間、着陸後一度街に入ってMPを全快させたのちに再度飛行。
これだけで昨日はゲームできる時間をすべて使ったのだ。
最後、滑空で機動飛行が出来るか試して失速、墜落したのはご愛敬。
「とりあえず、今日はスキルの確認からだね」
アスカはメニュー画面からスキル画面を開く。
昨日最後の飛行から帰って来た時にスキル獲得したらしいのだが、夕飯間近だったため確認せずにログアウトしたのだ。
【飛翔Ⅰ】 飛行時のMP消費を五%軽減。
「むむ、これ意味あるのかな?」
『スキルはレベルが上がるほど強力になっていきます。Ⅰだとこの程度でしょう』
「将来性に期待ってこと? 取得条件はなんだったっけ?」
『【飛翔Ⅰ】は累計飛行時間一時間です』
「なるほど。Ⅱは?」
『お答えできません』
「……その心は?」
『すでに取得されたスキルについては回答できますが、その先はお答えできません。ブロックがかかっていますので』
「なるほど。さすがに全部教えてくれるほど甘くはないよね」
『はい。ですが、アスカならそう難しくないでしょう』
「それはほぼ答えを言ってるようなものなんだけど……」
Ⅰの取得条件が累計飛行時間。
その先もアスカなら難しくないという事はⅡ以上も累計飛行時間と考えていいだろう。
正直、この支援AIはAIとして適切なのかアスカは首を傾げていた。
ブロックがかかっているはずなのだが、それを躱すような言い回しで教えてくれるのだから。
『今日はどうされますか?』
「空を飛ぶのも良いけど、せっかくだからクエスト消化してみようよ。ジルもスッカラカンになっちゃったしさ」
ホームからミッドガル広場に移動したアスカはアイビスと今日の打ち合わせをしている。
昨日思う存分空を飛んだので、飛行欲求は発散できた。
それよりも散財して大きく減った手元の資金が心もとないのだ。
昨日も結局一回墜落死をしたため手元資金はさらに減り、モーニングセット一つ注文できないほど切羽詰まっている。
アスカはランナー協会に移動し、クエストが張り出されている掲示板の目の前まで歩み寄る。
するとクエストのアイコンが掲示板の前に表示され、タップするとクエスト一覧がウインドウで表示された。
「ふむふむ……薬草の採取、鉱石の採取、ゴブリンの群れの討伐……」
『アスカ、アーマライトの弾薬を補充していません。討伐系のクエストを受注する場合は気を付けてください』
「あ、そうだった……」
先のウルフ討伐のクエストでアスカの主兵装、アサルトライフル・アーマライトの残弾はほぼ尽きている。
ロングソードでの戦闘は出来なくもないが、フライトアーマーは接近戦に向いていないので避けた方が無難だ。
「となると……薬草の採取かな? 品質E以上の薬草を五個納品。報酬一〇〇ジル」
『しょっぱいですね』
「それ、あなたが言う!?」
支援AIからサポートと思えぬツッコミをもらいながら、アスカは薬草採取クエストの受領アイコンをタップ。ランナー協会を後にした。
いつものように東門から外に出たアスカは薬草を採取ポイントで回収していく。
薬草は街から出てすぐ、あちこちで自生しているので採取するのに苦労はない。
昨日採取Ⅰスキルも獲得しているおかげか、雑草と品質GのドロップがなくなりF~Dの範囲で回収できている。
「あれ、この薬草品質Bだ」
『【強運】スキルの効果と思われます』
「ふむふむ、レアドロップ、品質が良いもの。なるほどね」
『薬草、品質Bは単品で一〇〇ジル以上の値が付きますので、クエストには回さず売却するのが良いと思われます』
「おっけー。じゃあこれは保留ね」
その後も薬草を採取し続けたが、品質Bはその一回だけだった。
品質Cが出なかったが、これはスキルの関係で採取ⅠではDが限界というのがアイビスの答えだ。
あとは採取ポイントでの上限。街に近いこの場所では強運スキルでもBが限界だという。
<採取を特定回数行いました。【採取Ⅰ】が【採取Ⅱ】にレベルアップしました>
「うん、予想通り【採取Ⅱ】も取れたね」
クエストの条件、薬草五個を大きく超える数を採取したのは【強運】の効果確認と【採取Ⅰ】のレベルを上げるため。
レベルが低いうちは上がりやすいだろうと踏んで、出来る限り薬草を採取したのだ。
その甲斐あって【採取Ⅰ】はレベルアップし【採取Ⅱ】に。
目的を達成したアスカはフライトアーマーの飛行で街に戻り、足早にランナー協会に戻るとクエストカウンターで薬草の納品。
「アスカさんはまだ薬草をお持ちですね。よければそちらも買い取りますよ?」
「買い取ってくれるんですか?」
『薬草の買取は常設クエストです。五個一束で一〇〇ジル。いつでも買い取ってくれます』
「ただし、品質E以上に限りますが」
クエスト品の納品を担当してくれた受付嬢はにっこり笑いながら、アイビスの説明に品質の補足を付け加えた。
ふむ、とアスカは考えたが、フライトアーマーでは被弾=死だ。おまけに金欠でありこの大量に抱えた薬草の使い道もない。
「では、品質Bの薬草を残して買取をお願いします」
「はい、承りました。全部で一七〇〇ジルになります」
品質Fの薬草が少し残ったが、これは仕方がない。
アスカは報酬を受け取ると受付嬢に感謝の言葉を述べ、ランナー協会を後にした。
「そこそこの収入になったね。何に使おうか?」
『弾薬の補充を』
「まぁ、そうなるよね。ダイクさんのお店で買えるかな?」
弾薬の補充をしない限り延々と薬草採取を続けることになる。
それはさすがに嫌なのでアイビスの意見に従い弾薬を買いに行くことにした。
増槽を買ったダイクの店で買えるとの事なので、昨日と同じように露店が出ている大通りに入っていく。
大通りは昨日よりも店の数が増えており、アクセサリーのほか木のオブジェや簡単な武器、薬草や鉱石などの素材を売る店も出始めていた。
「そういえば飛行時間を延ばすのにMPポーションを使う方法もあるんだよね?」
『はい。MPポーションは品質で回復量が大きく変わるのでランナーショップで買った方が良いかもしれません』
「ふむふむ……この露店のお店の中に薬屋さんあるかな?」
薬屋を探して辺りを見渡していると、一つの店舗が目に留まった。
その店舗では栄養ドリンクに似た小さな瓶に液体の入った品物の他、薬草なども売っている。
瓶の中の液体も青だったり黄色だったりしていることから、いくつか種類があるポーションの類だろう。
アスカはその店舗に近付き、売り子に声をかけた。
「こんにちは」
「いらっしゃい。ここはフランの薬屋だよぉ。ゆっくり見てってね」
フランと名乗ったのは頭に猫耳が生えている女の子だった。
綺麗な白い肌、髪はパールピンクで癖っ毛の入ったボブヘア。
目は透き通った翠玉色をしていて、上は白のトップスに灰色のカーディガン、下にはチェックの入った赤いミニスカートで、その裾からは猫の尻尾が揺れているという可愛らしい格好。
ゲーム的には猫の亜人だろうか。
「うわぁ、すごい可愛いアバターですね!」
「あ、わかる? わかっちゃう? この製作に三時間かけたネコミミアバターの良さ!」
「はい! 撫でてもいいですか?」
「ふふふ、本当は駄目なんだけど、あなたは特別。いいよぉ」
精魂込めて作ったネコミミアバターを褒められて気を良くしたフランはアスカに頭を差し出し、アスカも心置きなく髪と耳を撫でる。
髪の毛はふんわり、猫耳は思った以上にもふもふしていて、いつまでも撫でていられそうだ。
「ありがとうございます。満喫しました」
「どういたしまして~。それで、何か買っていく?」
心行くまでケモミミを満喫したアスカはフランの言葉で当初の目的を思い出す。
視線をフランから下におろし、シートの上に並べられた商品に目をやるとアイコンが表示された。
それにはやはりポーションと表記されている。
[アイテム]HPポーション 品質E 値段二〇〇ジル
薬草をすり潰し、成分を抽出したHP回復薬
HPを一四〇回復する
[アイテム]毒消しポーション 品質D 値段一〇〇ジル
毒消し草をすり潰し、成分を抽出したもの
毒に対処可能
[アイテム]パワーアップポーション 品質E 値段四〇〇ジル
接近戦闘攻撃力を五分間五〇上昇させる
予想通り数種類のポーションを売っていたが、MPポーションは売っていない。
「MPポーションはないんですか?」
「あれは品薄なんだぁ。素材が回収できなくってねぇ」
「素材?」
「うん。MPポーション製作には魔力草がいるんだけど、山岳の傾斜に生えてるからなかなか回収できなくってさぁ」
「そうなんですね……じゃあ、それを採取してきたら売れます?」
「そりゃ高値で買い取るよぉ。でも、どのアーマーでも無理だって話だよ?」
「フライトアーマーでもですか?」
「いや、フライトアーマーなら取れなくもないだろうけど、あれを使える人……は……」
そこまで話したところで急にフランの表情が変わる。
世間話でもするような飄々とした表情から真剣な目つきに代わり、アスカを上から下まで品定めするかのように見つめてくる。
「緑髪ポニーで、初期の服……あ、あなたもしかてフライトアーマー唯一の使用者!?」
「唯一かどうかは分かりませんが、このゲームを始めてからはフライトアーマーばっかり使ってますね」
そこでフランの表情が弾け、満面の笑みに変わった。
「そう、あなただったのかぁ。こんなところで会えるなんて運が良いよぉ!」
「え、ええ……?」
「ねぇ、私からのお願い、聞いてくれない?」
そこからの話はアスカにとっても面白みのある話だった。
まず、ゲーム開始時からMPポーションが慢性的な不足状態であるそうだ。
原因はMPポーション製作における素材、魔力草がβテストのときに採取できたポイントで採取できず、入手出来ない為だという。
ランナー達が必死に捜索した結果、幸い魔力草の場所こそ判明したのだが、今度はその場所が難所であり、通常のエグゾアーマーでは採取ポイントまでたどり着けない。
だが、空を飛べるフライトアーマーならば話は別。
挙句、現状でフライトアーマーを使いこなしているのはアスカ一人だけなのだ。
それは魔力草の独占を意味する。
「つまり、私に魔力草を取ってきてほしいってこと?」
「そう! 買取価格は弾むから、ぜひお願いしたいんだぁ」
「取ってくるのはいいんですけど、私にもMPポーション分けてもらえます?」
「もちろん、特別価格で卸させてもらうよぉ」
商談成立である。
フランは魔力草を独占できて大儲け、アスカはMPポーションを特別価格で仕入れられて大満足。
まさにwin-winの関係だ。
「場所はどこになるんですか?」
「東の山岳なんだけど、せっかくだから私も一緒に行くよぉ。噂のフライトアーマーも見てみたいしさぁ」
「なら、今から行こうと思うんですけど、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。魔力草が絡んでるなら、お店なんてやってる場合じゃないからねぇ」
そう言ってフランは立ち上がるといそいそと露店の片付けを始めた。
「あ、お店閉める前にこれ買い取ってもらえませんか?」
露店を閉めようとするフランにアスカが薬草を渡す。それは先ほど採取した品質Bの薬草だ。
「えっ、品質B? 正式稼働してから初めて見たんだけど……えっと」
「あ、まだ名前言ってなかったですね。私はアスカです」
「アスカ、よろしくねぇ。で、この薬草なんだけど、どこで?」
「街のすぐ外の採取ポイントで、でもスキルで品質が上がったレア物みたいで」
「採取上限を超えた品質のアイテムを取得できるスキル? ……もしかして【強運】?」
「はい。よく知ってますね」
「あれ取得難易度Aなんだけど……さすがというかなんというか」
「買い取ってもらえますか?」
「うん、いいよぉ。一〇〇〇ジルでいいかな?」
「一〇〇〇ジル!?」
「これからいろいろとお世話になりそうだから、色付けておいたのさぁ!」
こうしてアスカにゲーム内で初めてのフレンドが出来たのであった。
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