49 DAY2私にできること
「はあっ、はあっ、はあっ……」
ブービーに撃墜され、ロミオのポータルで復活したアスカは、立つこともままならず、その場で崩れ落ちた。
「アスカ、大丈夫!?」
「おい、どうした!」
「アスカさん!」
そんなアスカを見て駈け寄ってきたのはフランとアルバ、そしてメラーナだ。
フランは地面に両手をついて倒れ込むアスカを支え、簡易的に組まれた長椅子まで歩くと、その上に座らせた。
「アスカ、何があったのさぁ? 大丈夫?」
「くそっ……あいつ……あいつぅ……げほっ、げほっ」
目の焦点も定まらず、息遣いも荒いアスカは誰の目から見ても憔悴しきっていた。
フランはそんなアスカの背を撫でて呼吸を整えさせ、メラーナは何か飲み物を探し、アルバは何事かと大勢集まってきたランナー達をホークやラゴ、カルブを使って人払いさせる。
メラーナはすぐに飲み物を持って戻ってきた。
隣にスコップを携えて。
フランはメラーナから受け取った飲み物をゆっくりとアスカへ飲ませ、落ち着かせる。
「フ……ラン……?」
「そうだよ、フランだよぉ。アスカ、大丈夫?」
「どう……して、ここ……に?」
「あはは、私も死に戻っちゃったのさぁ。いやぁ、わんこは強いねぇ。犬恐怖症になっちゃいそうだよ」
ようやく意識のまどろみから戻ってきたアスカは、周りを見渡す。
そこにはついさっきまでユニフォーム上陸作戦に参加していた面々の姿があったのだ。
中央でアームドウルフと戦っていたファルクの小隊。
東で軍神シメオンと交戦していたイグとフルアーマーの愉快な仲間達。
西で鬼神シーマンズに包囲された仲間を助けようとしていたメラーナ達。
「みんな……やられちゃったの?」
「うむ。中央はアームドウルフどもに蹂躙された。後衛がほぼ全滅し、前衛だけが残ったところにあの赤とんぼだ。お手上げだな」
「東も敵が硬くてな。騎兵にこっちの陣形をズタズタにされた時点で万事休すだった」
「西は包囲されていた人たちが全滅しちゃって……その後海岸にも鬼人が押し寄せて来て、そこまででした……」
「そう、なんだ……キスカは? 大破着底した揚陸艦にいたよね?」
「私? うん、私……というか揚陸艦の居たメンツも皆赤とんぼにやられたよ。いや、直上から三〇発の爆弾は躱せないって。運よく逃れても、その後はあの機銃掃射だし、海に逃げても泳げないから死亡扱いだものね」
「……ごめん、私のせいで」
私が赤とんぼの進攻さえ許していなければ、まだ戦えたのに。
俯き、力なく答えたアスカを、皆が慌ててフォローする。
「な、なに言ってるのよアスカ! 貴女のせいじゃないって!」
「そうですよ! やられちゃいましたけど、それでアスカさんが責められるなんてお門違いです!」
「うむ。ユニフォームに攻め込んだらアームドの敵やネームドエネミー、果ては攻撃機が襲ってくるなんて想定外だからな」
「でも、それは私が昨日しっかり偵察してれば……」
「うりゃっ!」
皆に反論しようとしたところで、フランがアスカの両頬を押しつぶした。
アスカはびっくりし、変顔になりながらフランに問う。
「フ、フリャン、にゃにを……」
「くよくよするなー! アスカは精一杯やった! 頑張った! それを責めるなんて、本人が許しても私たちが許さないのさぁ!」
そう言い放つフランの顔は満面の笑顔だ。視線を横にいる皆に向ければ、誰しもがフランに同意し、笑っていた。
その笑顔にアスカはふっと胸が軽くなってゆくのを感じる。
「そっか……ありがとうフラン。みんな」
「良いってことよー!」
強張っていたアスカの顔に笑顔が現れたのを見て、周りで心配していた面々もようやく胸をなでおろす。
「そういえば……みんなは再出撃しないの?」
アスカ達がいるのはロミオの拠点ポータルだ。
ここから南に行った港から、ユニフォーム行きの揚陸艦が出ているはずだ。
現に、前に補給に降りたときはこの場所から復活したランナー達が港へ向け再出撃していっていたのだから。
だが、今は死に戻ってきたランナー達は港へ行こうとせず、この場所で留まっている。
「む……それなんだがな」
「揚陸艦が全滅しました。こうなると一定時間復活しない仕様になっているようです」
つまり、今港に行っても揚陸艦はおらず、出撃できないとのこと。
周りのランナー達は皆ユニフォームへ出撃できず、どうしようか考えているうちに死に戻ったランナー達もあわさりごった返してしまったのだそうだ。
「な……なら、今ユニフォームの海岸にいる人たちは?」
アスカの問いに、皆が顔をそむける。
明らかにその場の空気が不穏なものに変わり、アスカは嫌な胸騒ぎを覚えた。
「えっと……」
「揚陸艦がないんだぜ、ねーちゃん。皆、あのまま全滅だと思う」
その言葉を聞いて、アスカはすぐに立ち上がりカルブに詰め寄った。
「見殺しなの!?」
「い、いや、俺に言われても……」
そこから周りを見渡すが、誰もアスカと顔を合わせようとはしなかった。
ファルク達はもとより、周りにいた野次馬のランナー達でさえ、話の内容から口をつぐむばかりだ。
「にゃはは……その、アスカ、これはさ、ほら……ゲームだから」
力なく言葉をひねり出したフラン。
だが、アスカはその言葉に納得できない。
ゲームだから見捨てる?
ゲームだから死んでも大丈夫?
確かにその通りなのだろう。これはたかだかゲームなのだ。
実際に死にはしないし、助けに行ったところでポイントを得られるわけでもない。
それはいろんなゲームをプレイすればするほど合理化して行き、損得勘定で切り捨てられ、簡単に割り切られてしまう事だ。
しかし、ゲーム初心者であるアスカはそんなことは出来なかった。
――私には翼がある。助けに行くことが出来るだけの力を持っている。
『できるだけの力があるのに、それを駆使しないなんて、勿体ない事だと思わない?』
イベント前にロビンから聴いた言葉が、アスカを動かした。
例え無駄なことだったとしても。
「……みんなの考えは分かった」
「……アスカ?」
「私は行く」
「アスカさん!?」
アスカのその言葉を聞いた大多数の者が思っただろう。
フライトアーマーが一人行ったところで結果は変わらない。
揚陸艦がない以上無理だ、助けに行く意味などない。と。
アスカはメラーナと一緒に近寄ってきていたスコップを見つけると、支給品の弾薬を補給。
同時にホームのアイテムBOXにアクセス。手榴弾とMPポーションを補充した。
「アイビス」
『はい』
「翡翠の脚部にセンサーブレードと増槽を」
『重量過多となるため、主翼下部の増槽を切り離します……装備変更、完了しました』
「いくよ……エグゾアーマー、装着」
飛雲はデスペナルティーのため使えない。
使用可能なのは飛雲のベースになったTierⅡ翡翠、TierⅢレイバードの二つだが、ここは使い慣れている翡翠を選択する。
翡翠には飛雲のようにエグゾアーマーに内蔵された増槽はなく、翼端のハードポイントもない為、対空用のセンサーポッドは搭載できずMP総量も低いが、膝にマウントするセンサーブレードは搭載可能なのだ。
もう片足に装備するブレード型の増槽と合わせて装備し、足りない分はMPポーションで補填する。
足元に魔法陣が現れ、エグゾアーマーが実体化。
装備を終えたアスカは周りの視線を無視して、ポータルの真ん前に立つ。
その場所が一番離陸しやすいのだ。
「皆どいて! 離陸するよ!」
アスカの放つ声に応じ、ポータル前で溜まっていたランナー達が左右に分かれ、正面に道が出来る。
まともに整地されず、雑草が生え、路面もいびつなその道はまさに野戦滑走路。
「アスカ!」
「スコップ?」
出撃に向け、アスカが気を引き締めなおした時、大勢のランナー達をかき分け、スコップがその姿を現した。
彼はそのまま即席滑走路の脇まで進み、ニカッと笑うと歯を見せながらサムズアップする。
「グッドラック!」
予想していなかったそのアクションにアスカは一瞬キョトンとしてしまうが、すぐに笑顔になり、サムズアップで返す。
「へへへ……Ok、リコリス1。You are cleared for take off!!」
スコップはサムズアップしていた手を広げ、腰をかがめてしゃがみ込むと、そのまま滑走路の先を指刺した。
それは艦載機が空母から発艦するときに甲板員がパイロットに発進を促すジェスチャーだ。
「行きます!」
スコップのその合図に応じ、アスカは離陸を開始。
翡翠のフライトユニットが生み出す推力に任せ、滑走。
やがて主翼が揚力を生み出し、足が地面から離れ、そのまま大空へと舞い上がる。
《アスカ、行ってこい》
《生きて帰ってくるんだよぉ》
《ねーちゃん、モンスターなんかみんなやっつけちゃえ!》
《頑張ってください!》
《アスカさん、ユニフォームにはまだホロが残ってるんです! 彼女を……お願いします!》
通信から皆の声を聞きながら、アスカはモンスター達が蠢くユニフォーム海岸線へ向け、たった一人で飛んでいった。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまり高松空港から飛び立ってしまいそうです!




