46 DAY2鬼神
お ま た せ
番犬の方ではありませんよ?
敵の増援により味方が包囲されたというカルブの通信。
軍神シメオンを放置することもできないが、包囲された味方を見捨てる事もまたできない。
アスカはやむなく軍神シメオンへの攻撃を中止、イグへ通信を入れた後旋回し、西側をセンサーの範囲内に入れる。
「な、何これ!?」
レーダーに映し出されたのは四方を完全に包囲され、全滅が避けられぬであろう状況にまで追い込まれたランナー達。
海岸線から敵陣深く踏み込んだ地域で包囲され、後はどう始末しようかモンスター達に舌なめずりされている、そんな状況。
イベント初心者であるアスカが見ても絶望的だとわかるが、一体どうしてここまで追い詰められてしまったのか?
「カルブ、何があったの!?」
《分かんないんだ! 先行してたランナー達がいきなり現れた敵に包囲されちゃって!》
カルブ達がようやくたどり着いた場所はユニフォーム西側の海岸線だった。
彼らが参加した時点で、すでに味方は複数のトーチカを奪取しており、上陸阻止を務めていた敵が敗走を始めていた。
ここまで揚陸艦を砲撃され、上陸してからもトーチカからの砲撃を受け続けたランナー達の士気は敵が敗走を始めた事で一気に爆発。
すぐに追撃を開始し、突破したトーチカのあるラインからさらに内陸へと入りこむ。
そして敗走した敵に追いつこうとした、その瞬間。
四方から大量の敵がいきなり現れ、包囲されてしまっていたのだという。
幸い、カルブ達は上陸が遅れていたことで包囲を逃れたが、西側の戦力の大部分が包囲されている状況であり、救出しようにも残った戦力では困難を極めるのだ。
「急に現れたって……」
アスカは急に現れたことに違和感を覚え、考え込む。
そもそも、多少離れているとはいえユニフォームの三㎞圏内はアスカのセンサーブレードの索敵範囲内であり、見逃すことはありえないのだ。
敵に包囲されているまで気が付かなかった?
センサーで見つけられない敵がいる?
そこまで考えたときに、アスカは昨日も同じようなことがあったことを思い出した。
スキル【隠密】を得ることでアスカのセンサーから消えた、狙撃手ランバート。
まさか、現れた敵が皆スキル【隠密】の所有者なのか?
思い当たるのはそれしかないが、ネームドエネミーが所有するスキルを通常の敵が持っているとも考えにくい。
考えれば考えるほど深みにはまってしまいそうだが、そこは頼れるAI、アイビスの出番だ。
「アイビス、あいつら、皆スキル【隠蔽】持ってるの?」
『いいえ。センサーに掛からなかったのは、魔力遮断ネットや土、葉をかぶり伏せていたと推測されます』
「センサーに映らないようにする装備を身に付け、待ち伏せしてたってこと!?」
『はい』
「なんてこと!」
そんな高度な、かつ組織だった動きを通常のモンスターが行えることではない。
全軍を統率する何かがいるはず。
そうして味方を包囲している敵軍を探せば、そこには当然のように、そして見たくなかった存在が確認できた。
「やっぱり……全軍に通達! ユニフォーム海岸線西側にネームドエネミーを確認! 名称『鬼神シーマンズ』!」
《リコリス1!》
《救援に来てくれたのか!?》
《ネ、ネームドだと!?》
《鬼神シーマンズ!?》
包囲されたランナー達は航空支援が来たことに希望の光を見た次の瞬間に絶望へと叩き落された。
ただでさえ助かる望みの薄い状況。
そんな中で現れたネームドエネミー、鬼神シーマンズ。
東にはシメオン、黒田が現れ、こちらは鬼神と来て名がシーマンズ。
ちょっとでも歴史に興味があれば元ネタがなにか察するのはそう難しい話ではなかった。
《鬼島津じゃねぇか!》
《ふっざけんな! 何が悲しくて島津と合戦しなきゃいけねぇんだよ!》
《つか、黒田と島津は敵同士だろうが! 共闘してるんじゃねぇ!》
地上からクレームが大量に入る中、包囲していたモンスター達が道を開け、鬼神シーマンズがその姿を現す。
鬼人と聞けば大口径ライフルを背負ったランナー、キスカを思い浮かべるが、風貌はキスカとは大きく違っていた。
身長三mはあろうかと言う大柄な体格。
ハイオーガと同等かそれ以上に見えるその身は武士らしい甲冑で包まれている。
勿論、全てエグゾアーマーであり、甲は多重装甲、冑は額から生えているもの以外の角が生え、威圧感をこれでもかというほどに増している。
包囲しているランナー達の前に仁王立ちする鬼神シーマンズ。
今にも周りの鬼人たちと共に襲い掛かりそうだが、何故かその場から動こうとせず、空を見上げる。
――何かを待っている?
アスカが鬼神シーマンズを見て思った印象。
圧倒的優位にもかかわらず、すぐに襲い掛からず、さらに弱るのを待っているかのようなその態度。
いったい何を?
アスカがふと見たのは鬼神シーマンズが見つめる空の先。
――そこには、敵を示すアイコンを持った『飛行』する集団の姿があった。
「えっ?」
何が現れたのか、アスカは一瞬理解できずに固まってしまう。
だが、遠くの空に小さく見えていただけの姿はみるみるその輪郭を大きくし、間違いなくこっちに向かってきているのだと分かる。
「ちょっと、えぇっ!?」
アスカが『Blue Planet Online』を始めてから、空を飛ぶ敵には遭遇したことが無い。
理由は分からないが、もう存在すらしていないんじゃないかと思っていた空を飛ぶ敵は、よりにもよって今この瞬間。
味方が窮地に陥っている時に現れてしまったのだ。
空を飛ぶ敵はアスカの遥か上空を飛行していたが、その姿は夏の空に映える姿をしていたため、離れていてもはっきり視認することが出来た。
頭部は丸く大きな複眼を持ち、赤く棒のように細い体。
尾部よりも厚みのある胸部から伸びた六本の足は黒い何かをがっしりと掴み、背中からは四枚の翅が生えている。
アイコンと共に表示されたその名は『アキアカネ』。
そう、日本の秋空を彩る代表的昆虫。赤とんぼだ。
しかし、その大きさはアスカの知る赤とんぼから大きくかけ離れている。
軽く見積もってもアスカの身長と同等かそれ以上の全長をもち、翅を広げ飛行するその全幅はカスタムフライトアーマー『飛雲』よりも大きいのだ。
もし現実世界のトンボがこのような巨体では、おそらく自由に空を飛ぶことは不可能だろう。
この世界がゲームだからこそ実在できる、巨大昆虫。
そんな現実世界ではありえない大きさの赤とんぼが一〇〇に迫るであろう数で、まるで映画でも見ているかのような綺麗な雁行の編隊を組みながら、ユニフォーム海岸線の戦域上空に進入する。
海岸線まで飛行した赤とんぼの集団はそれぞれ東、中央、西へと散開。
アスカのいる東側には三〇程の赤とんぼが飛来。
ランナー達の真上に到達すると、編隊を崩しながら急降下を開始した。
その挙動は明らかに航空爆撃のアプローチ。
「や、やらせない!」
状況を理解したアスカは慌ててピエリスとエルジアエを構え、射撃を開始する。
だが、想定外の出来事に動揺し、狙いが全く定まっていなかった。
そんなアスカの対空攻撃を尻目に、赤とんぼ達は足に掴んでいた黒い何かを包囲され一塊になっているランナー達へ向け『投下』した。
赤とんぼ達の足から離されたそれは、ピエリスとエルジアエの弾幕と交差、アスカの横をすり抜けランナー達の頭上へと襲い掛かる。
「敵機直上! 急降下ぁぁぁ!」
アスカに出来たのは、地上にいるランナー達へ向け警戒を促す事だけだった。
運営「二大武将夢の共演、ご当地名物釣り野伏、急降下爆撃を添えて」
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ここ連日の反響にニヤニヤしている作者です。
最新話だけでなく、古い話にも感想がいただけ、嬉しさのあまり岩国空港から飛び立ってしまいそうです!




