44 DAY2アームドウルフ
最初に気付いたのは上空から俯瞰視点で戦場を見れるアスカだった。
内陸側、大樹の根元。
ユニフォームの拠点ポータルがあるであろうその場所から、いきなり大量の赤い点が発生したのだ。
恐らくはロミオでストーンゴーレムたちが出現したのと同じようにポータルから現れたのだと推測するが、その数は比べ物にならない。
「て、敵増援を確認! 数は数万! ポータルから出現して、中央に向かってます!」
《何だと!?》
《くそっ、ようやくトーチカ群を突破したって言うのに!》
《全員密集陣形! 増援に備えろ!》
アスカも慌てて中央へと向かうため上空旋回。
すぐに中央の戦線に向かう敵増援を視界にとらえる。
「ア、アームドウルフ……?」
表示されたモンスターの名前はアームドウルフ。
遠目ではあるが、その姿はウォーウルフとほぼ同じに見える。
しかし、体には光を反射する何かを付けているらしく、動くたびにそれが日の光をキラキラと反射し、まるで光の川のようになっていた。
見ているだけなら綺麗だったが、残念ながら敵の大群である。
アスカはピエリスとエルジアエを構え、進撃する大群へ向け射撃を行う。
ウルフ相手なら多少なりともダメージが入る攻撃だが、与えられたダメージはウルフよりはるかに少なかった。それどころか……。
『敵、攻撃、来ます』
「っ!」
四足歩行近接戦がメインの筈のウルフが『対空射撃』を行ってきたのだ。
それも一つや二つではなく、数百には及ぼうかと言う射撃点からの対空射撃。
アスカは堪らず機銃掃射を中断し、急降下による加速とシザーズを行い、これを回避する。
「な、なんでウルフが対空射撃してくるの!?」
『アームドウルフは種類が複数あり、その中に背部にレイマシンガンを装備しているものがいます』
「ウルフがマシンガン装備してるの!? 他の種類は?」
『スラスターを装備した機動型、レイサーベルを装備した攻撃型などがいます』
「それ、早く言って!」
ただの装甲を身に付けて防御力を上げたウルフだと思っていたらとんでもない初見殺しである。
「皆、気を付けて! アームドウルフはただの狼じゃない!」
《リコリス1か? アームドウルフがなん……加速した!?》
《スラスター装備してるのか! 迎撃、迎撃!》
《駄目だ、速すぎて照準が……うわあああぁぁぁ!》
《前衛、突破された! 後衛が危ない!》
《クソッ、俺が援護に……ぎゃああぁぁぁ!》
《今度はレイサーベルかよ!》
《銃撃!? こいつらマシンガンまで装備してるのか!》
《牙と爪もレイ攻撃になってる! ダメージやべぇ!》
アームドウルフはウォーウルフがエグゾアーマーを装備し、機動力、火力、防御力を強化した強襲型モンスターだ。
素体では爪と牙の物理攻撃しか持ちえなかったウルフ達が新たに手にしたのは、攻撃時爪と牙にレイブレードを展開することで攻撃範囲と攻撃力を大幅に上昇させたレイ装備。
エグゾアーマーのパワーアシストにより機動力が大幅に強化されたのに加え、足回りの剛性が向上したことで背部にも武装を搭載することが可能になったのだ。
アームドウルフが背面に装備できる種類は大きく分けて三つ。
高くなった機動力をさらに上昇させるスラスター装備型。
左右にレイサーベルを展開し、すれ違いざまに切り捨てるレイサーベル型。
そしてアスカに対空射撃を行ってきたレイマシンガン装備型だ。
《な、なに? 狼? きゃああぁぁぁぁ!》
《後衛にアームドウルフが飛び込んだ!》
《た、助けてくれ!》
《アームドウルフに後衛が食い荒らされてるぞ!》
《全員引け! 後衛を守るんだ!》
初見の敵であるアームドウルフを相手に、こちらの前衛はセオリー通り防御力の高いアサルトを前面に押し出し様子を窺っていた。
だが、スラスター装備型のウルフ達はスラスターを使用した大ジャンプで前衛の頭の上を越え、そのままマジックやスナイパーなどの後衛に飛び込んだのだ。
すぐに前衛が後衛を守ろうと動くが、背後を見せた瞬間に追随していたレイサーベル装備型に切り倒される。
一撃死とまではいかないが、背面からの一撃はそのHPを大きく削り、バランスを崩して倒れ込んでしまう。
ランナー達は接近戦の距離まで近づいたアームドウルフを近接装備で迎撃しようとするが、今度はそこにレイマシンガン装備型の銃撃が襲ってくる。
《痛ぇ! このクソ犬!》
《完全に挟まれた! 後方の支援に行けない!》
《こいつら、俺たちの足を止めるのが狙いか!》
《リコリス1、上空から何とかならないか!?》
アスカも支援したいのはやまやまだが、スラスター装備型とレイサーベル装備型はすでに味方と入り乱れていて、とてもではないが狙えない。
ならばとレイマシンガン装備型を狙うが、こちらは防御力が高く、機銃掃射では大したダメージを与えられない。
挙句、一度撃つと数百倍になって帰ってくるのだ。
グレネードの投下も試したが、こちらも動き回るアームドウルフ相手には効果が薄い。
「駄目! どうしたら……」
《任せろ!》
聞こえてきたのはアルバの声。
爪と牙、銃撃からうまく切り抜けたアルバ達が、後衛を食い散らかすアームドウルフへ向け攻撃を開始したのだ。
《私たちもいるよぉ!》
そう叫びながら魔法攻撃を放つのはフラン達魔導特科小隊など、後衛よりさらに後ろにいたランナー達。
他の前衛たちも少しづつ後退しており、アームドウルフとランナー達は両軍が入り乱れた一つの塊になって戦闘を続ける。
「アルバ、フラン!」
《多少手間取ったが、ここからだ!》
《うにゃー、混戦になると殲滅魔法が使えないぃぃ!》
フランが使用するのは広範囲殲滅魔法の【ボルカニックバレット】ではなく、氷の槍を飛ばす【アイシクルランサー】だ。
【ボルカニックバレット】では攻撃範囲が広すぎて味方の被害も冗談では済まなくなる。
「よし、このまま私も……」
《リコリス1、聞こえるか!?》
「その声は……イグ?」
マシンガンの的になって少しでも支援しようと銃を構えたところで、東にいるイグから通信が入る。
《敵の挙動がおかしい。敵の後方を見てくれないか?》
「敵の挙動?」
少し前に東の上空を通過した時には何もなかったが、一体どういうことなのだろう?
疑問には思うが、今はこの場を離れない方が良いはずだ。だが、
《リコリス1、この場所はいい、東の偵察をしてくれ》
地上から聞こえてきたのはファルクの声だ。
混戦となっているこの場を無理に支援するより、他の手薄な地点を攻め込み、突破してしまった方が良いとのこと。
また、イグの言う敵の挙動がおかしい理由がその後方にあるのなら、それを放置することも出来ない、と。
「分かりました! リコリス1、一時離脱します!」
アスカは機銃掃射を中止し、航空支援のために下がっていた高度を上げ、センサーブレードの矛先を東の海岸へと向けた。
運営「厳選育成したウルフを使用した銃、速、斬の贅沢三種盛り合わせでございます」
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまり米子空港から飛び立ってしまいそうです!




