43 DAY2ユニフォーム強襲上陸戦
ユニフォーム付近の海岸線全域に広がった上陸作戦。
海上からは次々と大型の揚陸艦が接岸し、乗船しているランナー達が艦首門扉の解放と同時に流れ込んでいる。
血気盛んなランナー達に押し込まれるモンスター達だが、黙っているわけではない。
アスカがトーチカに投下したスモークグレネードはすでにその役目を終え、視界を取り戻したトーチカは再びその砲口を揚陸艦へ、そして地上を侵攻するランナー達へ向けている。
《リコリス1、トーチカからの砲撃が激しい! 砲撃を止められないか?》
「もうスモークグレネードが残ってないの! 一度補給に戻らないと……」
グレネードのインベントリストック数は九九個。
アスカは前もってフルストック数を持ってきていたが、すでにその全てを使い切ってしまっていた。
スモークグレネードの発煙時間は九〇秒しかなく、その後は海風によって霧散してしまう。
継続投下しようにも海岸線一帯に広がるトーチカ郡は数が多く、とてもではないが数が足りないのだ。
一度補給に戻りたいところだが、アスカの視界にはすでに手に負えないほどの支援要請ポイントが表示され、味方地上部隊が航空支援を待っている。
さらに揚陸艦からの上陸を狙わせないために放たれたスモークディスチャージャーにより敵味方共に視界が悪く、アスカの航空偵察なしでは照準を付ける事すら難しい状況。
『揚陸艦、大破。航行不能』
「っ! やられた!」
しかし、何とかしてトーチカを黙らせないと揚陸艦の被害が増える一方なのだ。
すでに三隻の揚陸艦が大破着底し、揚陸艦から浮島へとその姿を変えている。
救済措置か、揚陸艦は大破してもスラスターで届く位置まで進んでから着底するようになっているらしく、多少の被害はあれど上陸できないという事はない。
「補給しないともう限界だね。皆の位置は……いたいた」
この状況でいきなり戦線離脱するのはまずいと、マップからファルクやアルバの位置を探す。
ファルク、アルバ、ホーク達は最前線ランナーらしく海岸線中央、最も敵の層が厚い位置にいた。
同じ小隊であるキスカはどこにいるのかと言うと、大破着底した揚陸艦にとどまっている様だった。
彼女の得物は大口径の対物ライフル。
接近戦が多くなる海岸に上陸するより、揚陸艦から射撃した方がファルク達を支援できるという考えなのだろう。
イグら潜入工作員とフルアーマーの愉快な仲間達は海岸線東側。
トーチカが複数並ぶ防御陣地であり、そこに肉薄し制圧しようとしてくれているらしい。
フラン達魔導特科小隊は上陸地点からあまり動かず、近くのトランポートアーマーからMPポーションの補給を受けながら支援砲撃を続けている。
出来る事ならアスカが弾着観測を行いたいところだが、他の場所での支援を優先しているため手が回っていない。
メラーナ達は昨日と同じくホロとの四人パーティを組み、拠点ロミオの港湾部に居る。
おそらく揚陸艦の順番待ちをしているのだろう。
フレンドの位置を確認し、ファルクへ通信。
補給のため下がる旨を伝える。
ファルクはもう少し戦線に残れないかと打診してくるが、弾がなくては地上への支援が出来ない。
ここは多少無理矢理にでも戻らせてもらう。
「リコリス1、補給のため下がります!」
《了解した。支援感謝する》
《聞いたかスカウトアーマー、リコリス1の抜けた穴を埋めろ! アシストポイントを稼ぐチャンスだぞ》
《リコリス1が戻ってくるまでは無理に攻めるな! 防御に努めろ!》
《敵の表示が消えるぞ! ラストスポットの位置へ向け弾幕を張れ!》
《スモーク! トーチカへ向けて撃て! 揚陸艦をやらせるな!》
今度はあたり一帯への全体通信。
それを皮切りに今まで血気盛んに攻めていたランナー達も進攻を止め引き上げる。
彼らもこのスモーク漂う状況で無理に攻めることは愚策であると理解しているようだ。
地上の様子を確認したアスカは九〇度ロールからの旋回。
進行方向をロミオへ向け、ユニフォームの戦場から一時離脱した。
―――――――――――――――――――――――
ロミオのある島まで戻ってきたアスカはポータル付近へ着陸。
周りにはユニフォームの戦場で死亡し、この場所へ戻ってきたランナーの数も多い。
ポータルから通常マップへ移動する者や、小休止を取る者も居るが、ほとんどは手早く補給を済ませると前線へ戻るべく揚陸艦のある港湾部へ向けて移動して行く。
このイベントには死亡時に使用していたアーマーが使用不可になる以外のデスペナルティはないが、撃破され強制的にポータルへ戻された後、前線へ戻るための所要時間がデスペナルティなのだろう。
アスカはそんなランナー達を横目で見ながらホームのアイテムBOXを開き、補給では受け取れない手榴弾とMPポーションを補充する。
「あ、いたいた。アスカー」
そんなアスカへ声をかけてきたのはスコップだ。
「スコップ。どうしてここに?」
「僕のメインは補給によるサプライポイントだからね。皆が復活してくるこの場所が都合がいいんだ。はい、PDWの弾丸だよ」
死に戻りしてきたランナーは復活した地点で必ず補給を行い、再出撃するはず。
そう考えるランナーは少なくない様で、周囲にはスコップ以外のトランポートアーマーが各種補給を行っていた。
スコップから支給品の弾丸を貰い、インベントリに収納すると、スコップがジュースの入ったコップを差し出してきた。
「これは?」
「僕の知り合いが作ったはちみつレモン。MP上昇の効果もあるし、息抜きついでに飲んでおくと良いよ」
ランナーメイクの食べ物にはバフ効果が付くものが多い。このはちみつレモンも、二時間MP+三%という効果が付いている。味もはちみつの甘さにレモンの酸味が効いていて、程よい甘酸っぱさが口の中全体に広がってゆく。
こんな状況でなければゆっくりと味わいたかったが、すぐに前線に戻らなければならない。
「ありがとうスコップ。じゃあ、私はそろそろ行くね」
「グッドラック、リコリス1」
こうしてロミオでの補給を終えたアスカは再び戦場へと戻っていった。
―――――――――――――――――――――――
ユニフォームの海岸線は相変わらずの激戦地だった。
アスカが補給に行っている間にも大破する揚陸艦は増え、海岸のいたるところで爆発と乱れ飛ぶ銃弾が見える。
「リコリス1、戦線に復帰します!」
《待ちわびたぞ!》
《リコリス1、トーチカを落とす! 支援してくれ!》
「了解!」
アスカが戦線復帰したことで防御に徹していたランナー達が攻勢に打って出る。
先陣を切るのはイグ達だ。
アスカがスモークグレネードを投下し、視界を奪ったトーチカに肉薄すると砲身が出ている銃眼からグレネードを投げ込み、内部のモンスターを殲滅する。
爆発を確認した後内部へ突入、生き残りも掃討し、トーチカを完全に無力化する。
もちろん加農砲も破壊、使用不能にするのを忘れない。
《なんてこった。こりゃ八八㎜砲じゃねぇか》
《揚陸艦が耐えきれないわけだ》
《このトーチカは制圧した。次に行くぞ》
ようやく戦えるだけのランナーの数がそろい、敵の防衛線を次々に突破してゆく。
ある場所はイグ達と同じく接近して銃眼からグレネードを投げ込み、ある場所ではスタン効果のある魔法攻撃を撃ち込み、ある場所では三七㎜加農砲の集中砲火で石壁ごとトーチカを破壊する。
《ようやくついた! よっしゃー、稼ぐぞー!》
《カルブ、出過ぎないでよ! アスカさん……じゃなかった、リコリス1、私たちも参加します!》
降り注ぐ砲弾から逃げ切った揚陸艦が次々に海岸線に到着。
その中には拠点ロミオにいたメラーナ達の姿もある。
最初は小さな点だった味方の青い反応も今は海岸線一帯に広がり、所々トーチカのある防衛ラインも超えている。
「最初はどうなるかと思ったけど、これなら何とかなりそうだね」
作戦開始前は急ぎ過ぎではないか、罠ではないのかと疑っていたが、今のところその兆候は見えず、戦況はこちらが優位になりつつある。
「……気にしすぎだったかな?」
初イベントだけに緩めの設定にされていたか、もしくはあのダークエルフを模したランナーの言う通り、速攻が攻略のキーだったのか? 考えられる事はいろいろあるが、このままクリアできるならそれでいいだろう。
張りつめていた気が緩みかけた、その時。
『アスカ、気を付けてください』
「えっ?」
アイビスが注意を促してきたのだ。
「アイビス?」
『気を付けてください』
「う、うん……」
何故かを説いてもアイビスは答えてくれない。アイビスはこれから何が起こるのか知っているのだろうか?
そう考え、視線をレーダーに移した時、アイビスの言葉を裏付けるかのように赤い点が表示された。
地獄の玄関は抜けました。
ここからが本番です。
解体新書の方に人物名鑑を置いています。
これ誰だったっけ? どういう容姿だろう?
と気になった方は覗いて見てください。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまり出雲空港から飛び立ってしまいそうです!




