41 DAY2Pillbox
分る人にはサブタイトルだけですべて理解する。
つまり、そういう事です。
放たれる砲弾とすれ違いながら、アスカはユニフォーム目掛け飛行する。
すでにレーダーでは大量の赤い点を捉え、ここが間違いなく敵の本拠地なのだと実感させられる。
近づけば近づくほどに砲撃のエフェクトと砲撃音のラグが短くなり、どこから放たれているかも把握できるようになってくが、問題なのはその数だ。
「大砲の数多くない!? 一〇個以上あるよ!?」
『現在観測できただけで二〇。それ以上ある可能性もあります』
昨日上空を飛行した時には大砲など確認できなかった。
一体どこにそんなものを仕込んでいたのか?
その答えはすぐ分かった。
「あれは、何?」
海岸線にかなり接近したことでようやく敵砲を視界にとらえる。
しかし、砲は建物で覆われ、正面に開いた穴から砲身のみが出ている状態だったのだ。
上部にはご丁寧に草をかぶせカモフラージュされているため、そこに何かがあると思って注視しなければ把握することはできないだろう。
「あんな小細工を! これ以上はやらせない!」
すでに敵砲は射程内。
飛行姿勢を高速から巡行へと変え、動かぬ砲台へ向けエルジアエ、ピエリスの両銃を構え、連射。
砲台付近には弾着エフェクトが飛び散り、砂塵が舞う。
すれ違うまで機銃掃射を続けた後、上昇回避しながら下を見て効果を確認する。
だが、そこには何事もなかったかのように砲撃を続ける敵砲の姿があった。
「あ、あれだけ撃ち込んだのに!?」
大型モンスタ―ですら倒せるほどの量を撃ち込んだにもかかわらず、敵砲はダメージらしいダメージを受けていなかったのだ。
「なら!」
アスカは再び高速形態になり上空旋回。
水平爆撃へ移行する。インベントリから複数のハンドグレネードを投下し、ついでとばかりにピエリスのグレネードランチャーも撃ち込んだ。
敵砲へ向け投下したグレネードは弾着と同時に炸裂。
これまで幾度も戦果を挙げた攻撃だが、それでも敵の砲撃は止まらない。
「これも駄目! それに、あの姿は……」
グレネードの爆発により砲の周囲をカモフラージュしていた木や葉が吹き飛び、その姿を露わにしていた。
遠目からは土と木材で作られていたと思えたそれは、実際には白く、円形。
錠剤にも似たその建物は高さはないが、屋根までしっかりと作られている。
形状から、自然にあった岩などをくり抜いたものではなく、人工的に、意図をもって作られたものだと推測できた。
「ど、どうしたら……」
《リコリス1、どうだ? 砲撃は止められそうか?》
敵拠点に有効打を与えられず、苦戦するアスカへアルバからの通信が入る。
アルバはアスカの発艦後も艦内には戻らず、甲板から様子を見ていたのだ。
「アルバ、敵の大砲が小物入れみたいな丸い建物の中にあって攻撃が効かないの!」
《小物入れみたいな丸い建物? まさか……リコリス1、写真を撮って送ってくれ!?》
アスカの言った『小物入れみたいな丸い建物』という言葉にアルバは過敏に反応。
明らかに焦っていた。
写真、ゲーム内ではスクリーンショットという形になるが、アスカはそのやり方を知らない。
しかし、アスカには頼りになる支援AIアイビスが付いている。
飛行するアスカに変わってアイビスがスクリーンショットを取り、アルバへ送信。
《やはり……これはトーチカだ》
「トーチカ?」
トーチカ。日本語では特火点と呼称される防御陣地だ。
土や木を使った簡易的なものもあるが、本格的なものはコンクリートや鋼で作られ、正面の砲身が出ている銃眼と呼ばれる穴以外ほぼ壁で覆われている。
分厚い石壁の前ではアサルトライフルやスナイパーライフルの銃弾では貫通することが出来ず、時には加農砲の一撃すら耐えるほどの極めて高い防御力を持つ。
内部に重火器を設置することで火力も兼ね備えた強力な陣地となり、敵の侵攻を水際で止めるのだ。
英語では『pillbox』錠剤ケースと呼ばれるが、これはまさにアスカの言った『小物入れみたいな丸い物』と同義であり、アルバがトーチカを連想することは容易だった。
「じゃ、じゃあ私の装備じゃ……」
《トーチカの破壊は不可能だ》
通信中も何とか砲撃を止められないか攻撃を繰り返していた。
だが、トーチカの分厚い壁の前ではピエリス、エルジアエともに歯が立たず、何度も投下したグレネードもドアノッカーにしかなっていない。
何とかしなければ揚陸艦が沈んでしまう。
そう思い続けている攻撃だが、アスカの装備では残弾がゼロになるまで撃ち続けてもトーチカを破壊することは出来ないだろう。
「このままじゃ……どうしよう……」
アルバ達が身を挺して発艦させてくれたのに、砲撃をやめさせることもできないのか?
揚陸艦へ向け砲撃を続ける複数のトーチカを忌々し気に睨みつけながら、それでもなにかできる事はないかと必死になって周囲を探る。
だが、見渡す限りの海岸線ではモンスター達が蠢き、トーチカの銃眼から生えた砲身は火を噴き続ける。
「……あれ?」
そこでアスカは引っ掛かりを覚えた。
揚陸艦へ向け砲撃を続けるトーチカ。
だが、それはどうやって照準を付けているのか?
フランの魔法攻撃やランナー達の迫撃砲の弾着観測をやっていたからこそわかる、観測、測量の重要性。
モンスター側であれば観測台かユニフォームの大樹の枝に居座っていてもおかしくなさそうなものだが、海岸線のどこにも観測台はなく、大樹の上部にも敵の反応はない。
「もしかして……」
観測手は居なくて、トーチカの中から観測している?
トーチカは全体を壁で覆われ、出入り口の他は正面の小さな銃眼しか外を見る場所はない。
もし、その小さな銃眼から観測を行っているなら、視界さえ遮ってしまえば照準を付けられないのでは?
何の裏付けもない考えだが、今は思いついたことをすべて試すしかない。
アスカは一番近いトーチカへ体を向け水平爆撃のアプローチを行い、銃眼へ狙いを定め複数のグレネードを投下する。
弧を描いて弾着した場所は狙い通りトーチカの銃眼付近。
だが、爆発したグレネードが周囲にまき散らすのは破片ではなく、煙。
そう、アスカはスモークグレネードを投下したのだ。
「どう!?」
グレネードから発生した煙は海風で舞い上がりトーチカを完全に覆いこむ。
僅かな可能性に賭けて行ったスモークグレネードの投下。
そんなアスカの願いをあざ笑うかのように煙の中から砲弾が放たれた。
……やっぱり駄目か。
諦めにも似た気持ちで放たれた砲弾を目で追ったのだが、高く上がった砲弾は揚陸艦から大きく離れた海面に水しぶきを上げながら弾着した。
「えっ?」
これまでトーチカから放たれた砲弾があそこまで外れた事はない。
もしかして、ともう一度煙に包まれたトーチカを見るが、そこから次弾が放たれる様子はない。
「効いてる!」
アスカは賭けに勝った。
トーチカ内部にいた観測手は周囲の煙により揚陸艦を視認できず、狙いを付けられなくなったのだ。
すぐさま他のトーチカにもスモークグレネードを投下し、砲撃をやめさせて行く。
中にはしぶとく煙の中から砲撃しているトーチカもあるが、視界を奪われ、照準も定まらない砲撃では海上を進む揚陸艦を捕らえることは出来ず、水柱を作るのみ。
《リコリス1、ファルクです。やりましたか?》
「うん! 破壊は無理だけど、砲撃を止めさせることはできたよ!」
《よくやってくれました。総員、陸戦準備です!》
砲撃が目に見えて減った揚陸艦からの通信。
揚陸艦はすでに海岸線から数百メートルの位置まで接近。
ファルクとの通信からは背後で士気を高めるランナー達の鬨の声が聞こえてくる。
やられた分を倍にして返してやる。
そう意気込むランナー達。
だが、敵もさるもの。
ほとんどのトーチカがスモークグレネードの煙で覆われる中、僅かに正面の煙が晴れた瞬間に砲撃を行ってきたのだ。
砲弾は「しまった!」と焦るアスカの横を抜け、被弾による煙を上げながら海上を進む揚陸艦を捕らえると、艦尾部分に直撃した。
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嬉しさのあまり山口宇部空港から飛び立ってしまいそうです。
とらふぐ美味しい!!!




