40 DAY2スクランブル
本日二話更新。
二話目になります。
「彼女を打ち出せ 射出急げ 発艦だけは まっとうしろ」
射出機のある甲板へ移動しようとしたときに起きた異変。
爆発音と共に大型であるこの揚陸艦が激しく揺れたのだ。この予想だにしていなかった事態に船内は混乱する。
「なんだ、どうした!?」
「爆発!?」
「船が揺れるなんて聞いてないぞ!」
「とりあえずみんなしゃがんで! 将棋倒しにならないようにしないと!」
爆発と揺れの原因が分からず、皆その場で屈んでいると艦内放送が揺れの原因を伝えてきた。
<重要拠点ユニフォームから砲撃を受けています。船体ダメージ五%>
「ユニフォームから砲撃!?」
「砲台があるのか!」
「船体ダメージって、沈没するんじゃ……うわっ!」
再びの爆発音と激しい揺れ。
その揺動にランナー達は立つこともままならず、転倒するものまでいた。
「くっ、砲撃ですか……」
「ファルク、どうする?」
「どうするこうするも、船に向かって砲撃されるのでは手も足も……」
この船がユニフォームがある海岸までたどり着くまであと五分。
その間耐えきれる保証はない。
しかしこの揺れでは立つ事もまっすぐ歩く事もままならなず、出来ることも限られている。
「なんとか砲撃をやめさせないと……そうだ、アスカ!」
「な、なに?」
「この揺れの中でも発艦できますか?」
「や、やってみないと分からないよ!」
一番有効なのは砲撃を行っている砲そのものを攻撃して破壊、もしくは妨害することだが、今だ接岸すらしていない状況では不可能だ。
唯一、空を飛べるアスカを除いて。
「よし、アルバ、アスカをサポートして後部甲板の射出機へ行きましょう。何としてもアスカを空へあげるんです」
ファルクのその言葉だけでアルバは主旨を理解し、頷く。
「行くぞアスカ、ついてこい」
「フライトアーマーは装備できる?」
「ここでは無理。展開すると階段を上がれなくなっちゃう」
キスカの問いに、首を振って答えるアスカ。
艦の中はそこそこの広さはあるが、全幅三m近くにもなる主翼を持つフライトアーマーが自由に動き回れるほどではない。
甲板に繋がる階段も出入り口も、フライトアーマーを展開すると主翼が引っ掛かり出られないだろう。
「なら俺達から離れるな。階段や甲板から落ちたら即死判定だ」
「うん、分かったよアルバ」
「私も行くよぉ!」
「フランか。よし、いくぞ!」
エグゾアーマーを装備していない状況でダメージを受けるとそのダメージ量にかかわらず死亡となる。
砲撃を受けているこの状況だと砲弾の破片を受けただけでも死亡判定になるのは間違いない。
爆発音と揺れが続く中、アスカ達は後部射出機へ向けて移動を開始。
階段は備え付けられていた手すりと、後ろにいるフランを支えにしながら登り、なんとか甲板までたどり着く。
空は依然雲と青空が半々と言ったところ。
だが、耳に聞こえてくるのは穏やかな風と波の音ではなく、激しい砲撃音と水面に弾着した弾の爆発音。
そして舞い上がった水柱が落ちてくる滝のような水音だった。
「くっ、こりゃあ攻撃してくる大砲は一つや二つじゃないな」
「アルバとフランは砲弾を見てください。至近弾は伏せて揺れが収まるのを待ちます」
「……直撃は?」
「…………」
アスカの問いにファルクは何も返さないが、その表情と沈黙は十分に答えを語っていた。
直撃したら全員死に戻り。そう言う事なのだろう。
後部射出機までは百数十メートルだが、その道は果てしなく遠く感じる。
敵砲数門から集中砲火を受けている状況では数メートル歩くだけで近くの海面に弾着し、揚陸艦を大きく揺さぶるのだ。
「こ、これじゃあ進めないよ」
『敵砲、来ます』
「えっ?」
拠点ユニフォームから放たれた砲弾。
野球のフライでも打ち上げたかのように空高く舞い上がったそれは、アスカ達の視線正面で頂点に達すると、左右に振れる事なくまっすぐこっちに向かってくる。
「あ、あれは……」
「アルバ、やばい! 直撃弾、来るよ!」
「アスカを守れ! ファルク、防御魔法を!」
「うおおぉぉぉ!」
揚陸艦に向かって一直線に向かってきた砲弾は、そのまま吸い込まれるように艦橋に直撃、爆発。艦に甚大な損害を与える。
甲板上にいたアスカ達には衝撃波、砲弾の破片、破壊された艦橋の破片などが襲い掛かる。
未だエグゾアーマーを装備していないアスカは、甲板に突っ伏すことしかできないが、その上にフランが覆いかぶさり、降りかかる破片はアルバが大盾をかざして防ぎ、さらにファルクが全体を防御魔法で固め、アスカを守る。
「アスカ、大丈夫?」
「う、うん……みんなは?」
「なんとかな」
幸いアスカは無傷だったが他の三人はそれぞれダメージを受けていた。
フランで二割、アルバで三割、ファルクに至っては五割ほど。
さすがに砲弾の直撃では全員無傷とはいかない。
<船体ダメージ三五%>
「もう二、三発貰ったら危ないぞ……」
「急がなきゃ……って、あれ? 砲弾が明後日の方向に飛んでいくよ?」
見れば後発の揚陸艦がアスカ達のすぐ後ろにまで迫ってきていた。
度重なる砲撃で速度が落ち、足踏みをしていたこの船に追いついたのだろう。
だが、おかげでこの船に集中していた狙いが分散し、砲撃の間隔が開いた。
「今がチャンスだ! 走れ!」
「いけいけいけいけ!」
この機を逃さないとばかりに四人は甲板後部へ向けて走り出す。
甲板上は度重なる至近弾の水しぶきで濡れているが、そんなこともお構いなしだ。
「着いた!」
「どうだ、使えるか!?」
「アイビス!」
『問題ありません。使用可能です』
ようやくたどり着いた射出機は幸い被害を受けておらず、アスカ達はすぐさま射出準備にかかる。
アルバが射出台をスタート位置まで移動させ、フランはパネルを操作し、射出機の向きを調整。アスカはファルクに担がれながら射出機をよじ登る。
「よし、装着!」
射出台にしがみ付いたアスカはすぐさまフライトアーマーを装備。
実体化する前からフライトユニットを作動させ、回転数を最大に上げる。
「準備完了!」
「敵弾、来る!」
「構うな! 発艦しろ!」
「いっけぇぇぇぇぇ!」
まるでアスカの発艦に合わせたかのようなタイミングで放たれた砲弾。
それは見事な放物線を描き、アスカたちの乗る揚陸艦に向かってくる。
弾着までのそのわずかな間。
その間にフランは射出ボタンを勢いよく押しこんだ。
ボタンに連動していた爆薬が炸裂し、その勢いで射出台が撃ち出される。
弾着まであとコンマ数秒というところでアスカは大空へと飛び立った。
だが、次の瞬間には揚陸艦の艦首付近に弾着、破片が周囲の海に飛び散る。
「みんな!」
《大丈夫、艦首部分に弾着したから生きてるよぉ!》
《アスカ、いえ、リコリス1、貴女だけが頼りです》
《任せたぞ!》
フラン達のその言葉にほっと胸をなでおろす。
そして表情をキッと気引き締め、砲撃を今なお続ける海岸線を睨みつける。
「よくも……よくも!」
加速からのインメルマンターン。正面に捉えるのは二〇〇mを超える大樹だ。
「まとめて、相手してやる!」
アスカは二丁の愛銃を両の手に構え、重要拠点ユニフォームへ向け飛行していった。
なお揚陸艦はAIによる自動航行の為ランナー以外の乗員はいません。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまり岡山空港から飛び立ってしまいそうです!




