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34 DAY2序章

地獄の始まり。


 ナインステイツ、ホクトベイ。


 そのイベントマップの中央南部にある海岸線。

 現実世界では巨大な電波塔が存在するそのエリアには、電波塔の変わりに巨大な樹が天に向かってそびえ立っている。


 遠くからでも存在感を放つ大樹の周りに漂うのは煙。

 上陸を強行するランナー達と上陸を阻止するモンスター達が作り出す地獄から立ち上る黒い煙だ。


《第一、第二、第三上陸部隊全滅! 第五、第六部隊も被害甚大! 戦闘継続困難!》

《だめだ、これ以上は……ぎゃああぁぁぁぁ!》

《敵の増援を確認!》

《くそ、あいつら際限なく湧いてきやがる!》

《メディック、メディックは生き残っていないのか!?》

《小隊長がやられた!》

《後退支援を! 戦線を維持できない!》


 周囲の敵味方を映し出すマップに描かれるのは、モンスターを示す大量の赤い反応。

 表示されるエリア一帯を埋め尽くすほどの赤い反応に対し、ランナー達を示す青い反応はごくわずか。


 すでに指揮系統、情報伝達網はズタズタに寸断されており、もともと希薄だった各小隊間の連携体制は完全に崩壊。

 ただの群衆に成り下がり、スタンドプレーを余儀なくされる。


《くそ、撤退だ、撤退しろ!》

《無理だ、揚陸艦は全て破壊されてる。湾から逃げられない!》

《ちょくしょおおぉぉぉぉぉ!》

《私は良いから早く逃げ……きゃああぁぁぁぁ!》

《上から狙われてる!? がああぁぁぁ!》


 混乱する通信から聞こえてくるのは孤立した小隊たちの絶望と断末魔の声。

 彼らがこの場から逃げるための船は一隻もなく、ただただ死を待つのみ。


 そんな彼らを何とか助けようと、必死に上空から支援を行うランナー、アスカの姿があった。


『友軍残存戦力二〇%以下。戦闘継続は困難です』

「それでも助けないと……みんなやられちゃうよ!」


 アスカは味方が全てやられ、たった一人残ったスカウトアーマーに飛び掛かろうとするモンスターへ向け銃撃を行う。


 この攻撃により、モンスターは攻撃を中止。

 回避行動を取り、スカウトアーマーから距離を取る。

 だが、次の瞬間には別のモンスターがスカウトアーマーへ再度襲い掛かり、アスカの支援虚しく光の粒子になって消滅してしまった。


「また……」

『現状での陸上部隊の生存は絶望的です』

「なんで……」


 ――どうして、こうなったの?


 アスカは撤退も出来ず全滅が決定的となった味方地上部隊が、それでも必死になって抵抗するその上空を、ただ一人飛んでいた。



―――――――――――――――――――――――


 遡ること、数時間前……。



「おはよう、アイビス!」

『おはようございます、アスカ』


 朝の用事を片付けたアスカは用事で遅くなった昨日とは違い、朝一番からログインしていた。


 その理由はイベント二日目準備のため。

 イベント初日の昨日はエコー、デルタ、ホテルの三ヵ所で航空支援を行った後、当初の目的であったイベントマップの踏破を完遂した。

 だが、派手に戦闘を行った事に加え、想像以上にイベントマップが広かった事でMPポーションを大量に消費している。


 在庫にはまだ余裕はあるが、このペースで使い続けたら七日間は持たないだろう。

 そう考えたアスカはイベントマップに入る前にMPポーションを補充しておこうと考えたのだ。


 日課である窓際で咲くリコリスに水を差した後、ホームのドアからガイルド山岳にある薬草畑へと移動する。


「あ、マスター! おはようございます、なの!」

「うん、おはよう、ハル。魔力草はどう?」

「問題ないの。マスターの指示通り、収穫の半分はBOXに収納して、残り半分は種にして植えてあるの」


 声をかけてきたのはコロポックルのハル。

 アイヌの民族衣装に身を包んだNPCであり、畑を維持管理してくれるゲーム内のサポートキャラだ。


 イベント期間中の畑はほぼハル任せになっている。

 アスカはポイントを稼ぐため出来る限りイベントマップで行動しなければならず、畑まで手が回らない。

 いつもであれば魔力草は収穫してからリーネとケルヴィンのフラワーショップに採種を頼みに行くが、イベント期間中はそれもハルに任せ、彼が一人で一㏊の広さを持つ畑を支えてくれていた。


「わぁ、ありがとうハル。じゃあ私は調合やってるから、何かあったら教えて」

「はいなの」


 アイテムBOXの魔力草を確認したアスカはすぐさま調合を開始する。

 最初こそ調合の難しさゆえ失敗することも多かったが、さすがに何度もやれば慣れるという物。


 アイテムBOXから魔力草と一緒に調合キットを取り出し、手際よくMPポーションを作って行く。


「よし、まずは一〇個分が完成。これを薄めて……品質B二〇個のできあがり!」


 アスカが行うのはMPポーションのマニュアル複数同時調合。

 一個のアイテムを作ると、残りの九個が同じ手法で作られたと判断され、完成品が同時に出現するのが複数同時調合だ。

 当然、調合でミスをすれば残りの九個ももれなく失敗作となる上、素材は一個目の製作を開始した時点で一〇個分がまとめて消費されるため、失敗は許されない。


 こうして完成した品質AのMPポーションを、調合する時にも使う『世界樹の朝露』で薄めると、品質Bのポーションが二個精製される。

 その品質Bをさらに薄めれば品質C二個となる。


 『世界樹の朝露』はマギ婆ちゃんの薬屋でお友達価格で購入したもの。正しくは世界樹の朝露を蒸留水で薄めたものになるそうだ。

 だが、世界樹の朝露は今のところランナーで入手できたものがおらず、マギ婆ちゃんがどこから入手したのかは謎。


 また、MPポーションは【調合】レベルⅠからリスト登録されるため、オートやセミオートでの調合も可能となっている。

 セミオートは薬草のすり潰し、蒸留する際の温度管理が不要になる代わりに、完成時の品質が素材の品質の平均で固定。

 品質AとBで作ったものなら品質Bに、品質AとEで作ったものなら品質Cに、品質A、B、Cで作ったものなら品質Bにと言った具合だ。


 オートは【製造】と同じく素材と調合キットを用意するだけで出来るが、完成品の品質が素材平均のワンランク下になる。

 アスカがオートでMPポーションを作った場合、品質Aの魔力草、品質Cの世界樹の朝露により品質B、オートの修正で完成品は品質Cとなる。


『アルバからメールが届きました』


 アイビスがアルバからのメール着信を告げたのは、MPポーションの調合がようやく一息ついた時だった。


「アルバから? なんだろう」


 切りの良いところで作業の手を止め、メニューを表示。フレンド欄からメールを確認する。


 アルバからのメールには昨日の航空支援のお礼と、今日開かれるイベントの攻略会議に参加してほしいという二つの事柄が記載されていた。


 なんで私がイベントの攻略会議に?

 と首を傾げるアスカ。たった今メールが来たばかりなら質問の返答もすぐに帰ってくるだろうと、『何故私が参加するのか?』と問うメールを送信。

 案の定、返事はすぐに帰ってきた。


「『各拠点を見た時の感想が聞きたい』、『出来ることならイベントマップに入る時間を合わせて協力体勢を取りたい』か。う~ん……どう思う、アイビス」

『私としては会議に参加した方が良いと判断します』

「それは何故?」

『オペレーション・スキップショットは『レイド』イベントです。大人数で攻略することを前提に作られているため、連携できる人数が多ければ多いほどポイント獲得には有利です。また、飛雲は戦闘偵察仕様です。これは地上に味方がいて初めてその力を発揮するエグゾアーマーですので、アスカ単独では勝てません』


 アスカはアイビスのもっともらしい言葉に納得し、参加する旨をアルバに送信。

 すぐに帰ってきた返事には、会議の時間と場所が記載されていた。


「ミッドガルランナー協会三階D会議室……ランナー協会にそんなものあったっけ?」

『はい。ランナー協会のレンタルオフィスになります。大小さまざまな大きさの部屋があり、大人数での会議、集会に適しています』

「なるほど」


 ただの話し合いなら街のカフェでもよさそうなものだ。

 そうしない理由は会議の開始時間にあった。


 メールに記載されていた開始時間はAM一〇時。

 リアル世界なら学校は三時間目の授業。会社であれば午前中の仕事が本格的に忙しくなってくる時間帯。


 だが『Blue Planet Online』、ゲームの中の世界では日が沈み、一〇時から一四時までの四時間ほどが夜の時間帯となる。

 ゲームの世界の住人、NPC達は当然ゲーム内の日が沈めば仕事を終え、店を閉めて就寝中。


 そんなゲームの中のお店にあって、唯一の例外がランナー協会だ。

 ランナー協会は二四時間営業であり、クエスト、買取カウンターを常時開けている。

 当然、協会内部のカフェやレンタルオフィスも同様に二四時間営業。

 夜の時間に会議を行うなら持ってこいの場所なのだ。


「ハル、私ちょっと出かけてくるけど、あとは大丈夫かな?」

「大丈夫ー! いってらっしゃいなのー!」


 調合作業をしていた小屋から顔を出し、農作業に精を出すハルに声をかけるとハルは手を振ってアスカに答えてくれた。


「お土産買ってくるからねー!」

「おぉー! マスターのお土産、楽しみにしてるのー!」


 お土産という言葉にハルは反応し、目を輝かせていた。

 その様子にクスリと笑ってしまったアスカは小屋の中へ戻り、手早く調合を終わらせると調合キットと完成したMPポーションをアイテムBOXに収納。

 小屋にある簡易ポータルからミッドガルへ向け転移していった。



昨日はたくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございました!

40以上の感想をいただけ、作者が喜びに打ちひしがれておりました。

なお中部国際空港から飛んでいきましたが、そのまま国内へと帰って来たようです。

暗雲漂うDAY2スタートとなりますが、今後ともそうぞよろしくお願いいたします。


PV漫画の作者、茜はる狼様から息抜きに1コマ漫画をいただきました。

https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1348274636992040960

ロビン、それはあかん。

そりゃアスカも嫌がるしアイビスから警告も貰うよ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] ん~難易度調整ってレベルじゃないような気が もともと投入予定だったトンボはともかく没にしてたネームドまではちょっと 想定外の展開だから難度をハードから徐々にベリーハードに……くらいならとも…
[良い点] アスカがゲームを楽しんでるのが良く伝わる! 大空自由に飛べるって羨ましい! [気になる点] 前話での運営のやけくそ的な調整。 そもそも、フライトアーマーを実装している時点で、航空支援等…
[一言] 全滅をただ見てるしか無いのがアスカにはキツイな・・・ 航空支援行ってもアスカ一人のみな上、現時点だと有るのが基本設計が制空機か偵察機仕様のアーマーしかないから防衛網に少しずつ穴開けて地上の…
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