28 DAY1ホクトベイ
ポータルが確保されたのを確認したアスカは、補給のために近くの平原に着陸。
ポータルに直接降りなかったのはポータルのある丘の周辺は木々が多くて着陸できなかったから。
攻撃により抉れた地面、廃棄された武器、薬莢、剥がれ落ちた装甲などが散乱する中で、障害物と地面の起伏が少ないとこを見つけてアプローチを開始。
巡行形態、低速で進入し、体は地面に対して垂直、背中のフライトユニットは現実の航空機同様角度を付け、それ自体をエアブレーキとして使用する。
そこからさらに減速、翼が浮力を維持できなくなるのに合わせて足を地面に付けて滑走。
フライトユニットを地面と垂直にして空気抵抗をさらに増加、減速。
そのまましばらく走ったところでようやく歩ける速度まで速度を落とした。
『ナイスリーダン、アスカ』
「ふふふ~何度もやってるからね。不整地着陸なんてお手の物だよ」
着陸を終えたアスカはポータルの回復範囲内に入ったことでHP、MPが全快。
穴の開いた痛々しい主翼の穴は塞がり、投棄した増槽も主翼下のハードポイントに戻ってきた。
しっかり回復したエグゾアーマー、HP、MPゲージを確認すると、ポータルへ向け移動を再開する。
フライトアーマーの歩行速度は全アーマーワーストなため、ポータルへ向けて移動する間も後ろから来たランナー達に追い抜かれてゆく。
イベント前までは皆物珍し気にアスカを見るか、そのまま横を通り過ぎていたランナー達。
だが、今は皆アスカを見ると何かしらの声をかけてくるようになっていた。
「リコリス1、支援ありがとう!」
「どうやったらそんなに飛べるんだ?」
「次はどこに行くの? また支援お願いね」
などなど。中にはアスカに握手を求めてくるものまでいる。
そんなランナー達の反応にアスカもまんざらではない様で、ついつい笑みがこぼれてしまっていた。
そうこうしながら歩いているうちに丘の中にある拠点ポータルに到着。
周りには簡易拠点を構築する者や補給を行う者などで賑わっており、アスカも近くにいたトランスポートアーマーから弾薬類の補充を受け、支給以外の消耗品はホームのアイテムBOXから取り出すためメニューを開く。
先の戦闘で支給品のMPポーションはすべて使用済み。
品質AのMPポーションもそのほとんどを使い切っていた。
これはエコーから補給しないままデルタの戦闘に参加した事と、ランバートの狙撃で滑空によるMP節約が行えなかった為だ。
ポーションの使用に際し、【自動水薬】のスキルは予想以上に役立った。
アスカは絶えずシザーズやバレルロールなどの回避機動を取っていた為インベントリからMPポーションを取り出し、栓を開けて飲み込む動作など取る暇などなかったのだ。
陸上なら物陰に隠れる伏せるなどして身を隠すが、空中では隠れる場所などなく、ランバートから距離を取ることも他のランナーへターゲットが移りそうで躊躇われた。
このスキルがなかったらポーション使用時の隙を狙われ、撃墜されていただろう。
「あ、いたいた。アスカさーん!」
各種弾薬、ポーション類を補充し一息ついたところで背後から声をかけられた。
「メラーナ! さっきはありがとう」
「お礼を言うのは私たちの方です。アスカさんのおかげでネームド仕留められました」
そこにいたのはランバートを仕留めたメラーナ達。
彼女たちも補充し、アスカに会うためにこの場所に来ていたのだ。
彼女たちから聞くネームドエネミーランバートとの戦闘の様子。
アスカは上空から見てはいたが、木々が邪魔で詳細までは把握出来ていなかった。
「奇襲の一撃を避けたんだ。やっぱりネームドは強敵だね」
「あの状況じゃあ普通躱せねーよ。バランス調整間違えてんじゃねぇの?」
「その分倒したときのポイントはすごかったよ。モンスター達からしたらエースや英雄って感じなんだろうね」
「私たちからしたら悪魔か死神よ。今回はアスカさんがずっと標的になってくれたから良かったけど……」
完全に決まった奇襲の一撃を躱し、そこからダメージを受けながらも逃走にかかったしぶとさ。
それは通常のモンスターにはないものであり、下手に逃すと再び銃を持ちこちらを狙って来ていただろう。
「なぁなぁ、そん人がアスカさんなん?」
メラーナ達とネームドの話をしていると、見慣れない大型のエグゾアーマーに身を包んだ銀髪少女が声をかけてきた。
「貴女は?」
「うちはホロ! あんたが空を飛んどったアスカさんなん? よろしゅうね!」
「ねーちゃん、ホロがさっき話した強力な助っ人だよ」
「そうなんだ。ホロちゃん、すごいエグゾアーマーだね」
「そうやろ? うちのお気に入りのエグゾアーマーばい! あと、ちゃん付けはさすがに恥ずかしかけん、呼び捨てで頼むっちゃん」
そう言ってホロは機械腕に持った大槌を片手で担いでポージング。空いたもう片方の手でアスカと握手を求めてきた。
当然アスカは握手に応じ、エグゾアーマーやその容姿について聞いてみる。
ホロのエグゾアーマーはラゴの推測通り初ログイン時のポイントボーナス。
大槌こそゲーム内の物だが、破壊力を上げるため重量と強度を最大まで引き上げるカスタマイズが施されている。
周りのランナーと比べてかなり小柄なその体躯は使用しているアバターが『ドワーフ』であるため。
もともと種族設定で低めになっている身長を最小まで引き下げ、ファンタジー感あふれる銀髪でまとめたのがホロの使うアバターだ。
お嬢様学校の制服のような服装と、大型の機械腕を持つアサルトアーマーを装備することで体とのアンバランスを最大限に演出し、小柄さと可愛らしさをこれでもか主張させる、ある意味でのトータルコーディネートだという。
なお、当然ドワーフであっても生産系スキルに補正が入ることはない。
生産物はスキルレベルと手腕がすべてなのである。
「ホロ、いろいろ考えてるんだね」
「いやまぁ、うちの好きんようにキャラメイクしたら、たまたまそうなっただけっちゃけどね」
照れくさそうに頬を掻くホロ。
自分で言ってて恥ずかしいのが半分、褒められて嬉しいのが半分と言ったところだろう。
「そういやねーちゃん、リコリス1ってなに?」
その流れをぶった切って入ってきたのはカルブだ。
「あぁ、それは……」
「それはうちのリーダーが彼女に付けたコールサインだ」
その声はまたもアスカの背後からだった。
驚いてすぐさま振り返るが、そこには初対面となるランナーとその仲間たちの姿があった。
「あの、あなたは?」
「直接会うのは初めてだな。俺はイグ。ファルクとアルバの友人で、最初に君と通信させてもらった者だ」
「あぁ、最初の! 初めまして。リコリス1こと、アスカです」
「こちらこそ、よろしく」
イグと名乗った彼こそがファルクが言っていた『デルタ地点の仲間』であり、この地点に最初に来た時に全体通信で『リコリス1』の名を周知させた張本人だ。
そんなイグは褐色の黒髪アバターで、珍しく顎髭を生やしている。
目の片方には眼帯をし、顔には年季を感じさせる皺がいくつも走っているという、どこぞの段ボール大好きな潜入工作員の様な風貌をしていた。
他の三人はと言うとこちらは顔までエグゾアーマーで囲ったフルフェイス仕様。
それぞれアサルト、ストライカー、スナイパーのような武器を持っているが、使用しているエグゾアーマーはソルジャーアーマーで統一されていた。
視線を飛ばせば声こそ発しないが、手を振って挨拶をしてくるあたり、厳つい外見とは違い中身はフレンドリーなようだ。
「おっちゃんたちのリーダーが付けたのか。いいなーコールサイン。なんかかっこいい。俺もつけようかな?」
「私たちと常に一緒にいるカルブには必要ないわよ。空を飛んで、たくさんの人の支援をするアスカさんだからこそコールサインが必要な訳だし。……あ、じゃあ私たちもアスカさんのことはリコリス1って呼んだ方がいいのかな?」
「うーんと……どうなんだろう?」
メラーナの疑問はもっともだが、アスカでは判断できない。そこでふっとイグの方を見る。
「……そうだな、イベント期間中はコールサインが良いだろう。地上でこうやって話す分にはいいが、彼女が上空にいる時はややこしくなる」
「……だって」
「分かりました」
もっともらしい理由を付けたイグだが、半分はゲーム故の雰囲気作りのためだったりもする。
彼もまたコールサインの魅力に取りつかれた一人なのである。
その後、全員が補給と準備を終えた事で各々が次の戦場へ向けて移動を開始。
しかし、他大多数のランナーは皆何かを待っているようこの場所にとどまっているように見える。
不思議に思うアスカだったが、その答えはイグは教えてくれた。
「皆リコリス1が次の拠点ポータルを見つけるのを待ってるのさ」
「どういうことですか?」
曰く、このまま未踏破区域に突き進むより、アスカが上空から観測してくれた情報と拠点ポータルの発見を待ってから動こうとの考えが大多数とのことらしい。
陸上でどれだけ急いだとしても、空を飛ぶアスカの移動速度には敵わない。
索敵範囲も段違いであり、無理に未踏破区域に進出するのは貧乏くじでしかない。
たとえ強行したとしても得られる未踏破探索分のポイントはごくわずか。
すぐに上空を飛行するアスカに抜かされ、置いて行かれてしまうのだ。
「なるほど。じゃあ、すぐに出発しますね!」
「あぁ、よろしく頼む」
「お願いします、アスカさん」
「頼んだぜ、ねーちゃん!」
ランナー達がとどまる理由に納得したアスカは偵察飛行を行うため、離陸のできる少し離れた平地へ移動。
なお、イグ達もメラーナ達も他のランナー同様アスカに先んじて進む気はさらさらなく、見送りのため丘から離れた平地まで一緒になってついてきた。
それどころか周りにいたランナーもフライトアーマーの離陸が見れると集まり始め、結構な数のギャラリーを抱えての離陸となった。
「じゃあ、行ってくるね」
「はい、気を付けて!」
辺りは草の生えた平原であり、不整地。
だが、アスカはそんなこと気にもせずに離陸を開始する。
いつものようにエンジンをスタートさせ、勢いに任せて走り出す。
加速によって主翼が十分に速度を得たところでエレボンを操作し、そのまま空高く飛び立ってゆく。
その綺麗な離陸の様子から周りのギャラリーから「おぉー」と言う声が響き、アスカはそんなランナー達の上空であいさつをするように数回水平旋回。
地上へ挨拶を行った後、意を決したかのように未だ誰も見た事のないホクトベイ南部の未踏破区域へむけ飛び去って行った。
「いや、見事な飛行だな、あれは」
「アスカさんですから。あれくらいはお手の物です」
地上に残されたイグと、メラーナの小隊、そしてその他大勢のギャラリー達。
彼らはすぐに動こうとはせず、皆マップを表示させアスカの偵察によるマップの更新を待つ。
「お、次の拠点が表示されたぜ」
「さすがアスカお姉さんだね。ものすごい速度で未踏破区域が更新されてゆく」
アスカが飛行し、偵察したエリアが周囲のスカウトアーマーや通信ユニットを介して全員に伝達されてゆく。
最初は皆感嘆の声を上げていたが、次第にざわざわと言う落ち着きのない雰囲気に変化していった。
それは他のランナーだけでなく、最初からマップに既視感を持っていたメラーナやホロも同様だ。
「あれ……このマップ……」
やっぱり見覚えがある。
アスカが観測エリアを広げた事でさらにそのことが強まったメラーナは、同じように見覚えがあると言っていたホロの様子を伺う。
すると彼女はメラーナ以上に愕然とした表情でマップを見つめていた。
「……ホロ?」
「そげんこつ……う、嘘やろ……」
「おいホロ、どうしたんだ?」
そのあまりの表情に、たまらずカルブやラゴが声をかける。
すると、ホロは三人を信じられないといった表情で見つめると、周囲に響き渡るような大きな声で叫んだ。
「こ、これ、博多湾や! うちの地元!」
同じような声が、周囲のランナー達からも盛大に上がっていた。
はい、と言うわけでこのイベントマップは1/1博多湾でした。
マップのイメージがつかない方はグーグ○マップで福岡、もしくは博多湾を検索してみてください。
それがイベントマップです。
なお、この物語はフィクションです。
登場する人物、団体名、地名など、実在するものとは一切関係ありません。
一切関係ありません。
DAY1はここまで明日は閑話を5話更新予定です。
朝から順次更新していきますので、どうぞお楽しみに!
いつもたくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまり秋田空港から飛び立ってしまいそうです!
今後もどうぞアスカ達の物語をお楽しみください!
第20話 DAY1出撃 アスカ発艦シーンが漫画になりました!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1346294548423610368
迫力満点のカタパルト発艦、ぜひご覧ください!
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