27 DAY1.G狙撃手
地上視点にはタイトルに.Gがつきます。
アスカからネームド撃破の使命と進行ルートを示してもらったカルブ達は指示ルート通り北から回り込む形でデルタのポータルへ向け移動していた。
「ほえぇ~、あんたらが言うとったアスカさんっていう人は、すごかね~」
そう話すのはカルブ達と行動を共にしているホロ。
彼女も掲示板に上がった動画である程度はアスカの飛行については知っていたが、実際に支援されてみると予想以上の効果とその技術にただただ感心するのみだった。
「でしょでしょ! 空を飛ぶことに関して、アスカさんの右に出る人はいないよ!」
「うん、ネームドからあれだけしつこう狙われても躱し続けて、うちたちにルートまで指示するなんて、半端じゃなか!」
アスカが言った『敵の少ないルート』と言う言葉に偽りはなく、行軍は今までの激戦が嘘のようにスムーズだった。
ポツポツと点在するモンスター達もアスカの観測範囲の中であり、所在はすべて把握済み。
カルブ達は接敵を避け、モンスター達の合間を縫うようにして丘へ接近。
そのまま木々の中へ消えて行く。
丘の木々は鬱蒼としているわけではなく、ある程度の間隔を開けて生えているため思ったよりも見通しが良く、歩くのにも苦労しない。
木の葉の隙間からも多少ではあるが空が見え、日の光が森の地面を照らし明るさもある程度は確保されていた。
「思ったより明るいな」
「こっちも狙撃銃持ってたらよかったね」
「うん。メラーナ以外全員接近装備だし」
彼らのアーマーはアサルト、アサルト、ストライカー、メディックと脳筋レベルの接近戦仕様。
申し訳程度に火器も装備しているが、射程の長い武器はない。
反面、前衛アーマー三枚による突破力と打撃力は相当なものだ。
相手が空を飛ぶアスカに命中させるほどのネームドである以上、奇襲となる初撃で仕留める事が望ましい。
「……ネームド、近いよ」
マップを見ながら進行方向を指示していたメラーナが全員を呼び止める。
その言葉に呼応し、全員がその場に屈みこんで周囲の様子を伺う。
マップを拡大すればランバートと思われる赤い点が付いたり消えたりを繰り返している。
「これ、ランバートが射撃したらマップに表示されてる」
「あ、本当やね。空を飛ぶアスカさんに弾が飛んでいくのと同時に表示されよる」
「……となると位置は……見つけた!」
カルブが見つめた視線の先。
その場所はこの丘には少ない岩場になっている場所。
『狙撃手ランバート』と言う名前とアイコンが表示されてはいるが、姿は落ち葉と岩に囲まれ確認できなかった。
「あそこ……みえないよね?」
『スキル【隠蔽】及び迷彩ネットにより周囲に同化しているものと思われます』
メラーナの問いに対する支援AIパッセルの答え。
これほど見事に隠れられるのかとむしろ感心してしまうが、いつまでもこの場に待機しているわけにもいかない。
ランバートは今もなおアスカを執拗に狙い続け、光弾を撃ち放っている。
幸いだったのはランバートが岩陰に完全に隠れており、こちらを発見できていない事。
これなら容易く奇襲を仕掛けられるだろう。
奇襲の前準備としてメラーナが全員に支援魔法をかけ、他三人は武器を構え体勢を低く落とす。
「……よし。ねーちゃん、準備できたぜ!」
《早いね! もういいの?》
「ねーちゃんが敵の位置を教えてくれたから、問題なくたどり着けたぜ!」
《了解。じゃあ、スタングレネードをランバートの近くに落とすから、目と耳を塞いでおいて!》
「おう!」
通信を終えると、遠くにあったアスカのエンジン音が次第に大きくなり、こちらへ近づいてきているのが分かった。
出来るなら直接その機動を見たかったが、木々が生い茂る丘の中ではさすがにそこまで空を見ることは叶わない。
《いくよ!》
「みんな、目と耳を塞げ!」
そこからは一瞬の出来事。
エンジン音が一気に近付いたところでランバートがいるであろう岩場から一筋の光線が放たれ、空に光と大きな破裂音が響く。
それは今まで同様ランバートが空中でグレネードを撃ち抜いたことでスタングレネードが爆発した音。
だが、そこから一拍も置かないうちにランバートが潜む岩場周辺で複数の破裂音が響き、同時に周囲が強い光で覆われた。
アスカが行ったのはスタングレネードの水平爆撃。
それも、近距離にいるカルブ達を巻き込まないため、確実に命中させるためにぎりぎりまで接近してのグレネードの複数投下。
如何に精度の高い射撃であったとしても、放たれる光弾は所詮一発のみ。
同時に複数を撃ち落とすことは出来ない。
これが炸裂グレネードであれば一つ目を撃ち落とした爆発で周囲のグレネードも衝撃で誘爆していたが、今回は非殺傷武器スタングレネード。
強い光と破裂音は発生するが、ほかのグレネードは炸裂しない。
結果、撃ち落としきれなかったスタングレネードがランバートの周囲に弾着。
強烈な光と炸裂音でランバートの視覚、聴覚を奪う。
《今だよ!》
「よし、皆、行くぞ!」
アスカの合図で四人が一斉に走り出す。
狙うは岩場に潜むネームドエネミー、狙撃手ランバート。
「みぃーつぅーけぇー、たあああぁぁぁぁぁ!」
最初に仕掛けたのはホロ。
彼女はその体に不釣り合いなほどに巨大なアーマーのスラスターを最大で吹かし、ランバートとの距離を一気に詰め、機械腕にもつ大鎚を振り下ろした。
ランバートは岩場の陰で迷彩ネットで身を包み、岩に銃身を置いて射撃姿勢で座っていた。
頭部には狙撃用単眼スコープ、背中にサブウェポンであるアサルトライフルとスナイパーレイライフル用エネルギーパック。
体は射撃時体を固定し、精度を向上させるスナイパーアーマーを装備していた。
「ギャギャギャ!?」
スタングレネードにより目と耳の感覚を麻痺させられていたランバートは、ホロの大槌が振り下ろされるその瞬間まで接近に気付かなかった。
だが、そこはさすがネームド。
大鎚の一撃を転がって躱すと、手に持っていたスナイパーレイライフルをホロへ投げつけると同時にスラスターを使って一気に後退する。
「逃がすかよぉ!」
逃げようとするランバートに追撃を仕掛けるのはカルブだ。
防御にも使える大剣を肩に担ぎ、ホロと同じくスラスターを最大に吹かして突撃する。
ランバートは残っていた背中のアサルトライフルを構え、カルブへ向け撃ち放つ。
しかし、そこは突撃、強襲型であるアサルトアーマー。
盛大に火花を散らしながらも、勢いはそのまま、さらにランバートとの距離を詰める。
ランバートはアサルトライフルでは止められないと理解したようで、忌々しげな表情でカルブを睨みつける。
そして、すぐさまアサルトライフルの銃身下部に取り付けられていたもう一つの引き金を引いた。
それはアスカがピエリスに装備している物と同じ、サブウェポンとして銃身下部に装備されるグレネードランチャー。
ポンッっという音とともに放たれたグレネードはそのまま吸い込まれるようにカルブの体を捉え、接触と同時に爆発する。
「うわああぁぁぁっ!」
さすがのアサルトアーマーと言えどもグレネードの直撃には耐えられず、大きく吹き飛ばされてしまう。
カルブは死んでこそいないが、HPの八割を喪失。
爆発の衝撃でスタン状態に陥り、身動きが取れない。
通常のモンスターなら虫の息であるカルブにとどめを刺そうとするのだが、ネームドであるランバートは撤退を選ぶ。
周囲はグレネードの爆煙に包まれており、この煙と【隠蔽】スキルを持ってすれば逃げおおせることなど容易。
逃げ切れる。
そう考えニヤリと不気味な笑みをこぼしたランバートの耳に、乾いた声が響いた。
「死ね」
ランバートが逃走の一歩を踏み出すより前に、グレネードの爆煙に紛れて接近したラゴの姿がそこにあった。
腰を低く落とし、相手の死角から放つ切り上げの一閃。
「……っ、浅い!」
「ギャギャ!」
ランバードの笑い声と共に、真っ二つにされたアサルトライフルが宙を舞う。
確実にとらえた一閃だったが、ランバートはアサルトライフルを刀と体の間に割り込ませ、致命傷を回避したのだ。
ダメージエフェクトを散らしながらも、ランパートの体力は未だ七割。
「ギャギャギャギャギャ!」
まるでゴミ蟲でも見るかのような目でラゴ達を睨みつけながら、ランバートは背負っていたエネルギーパックをも捨て去り身一つになって逃走する。
「逃がさないで!」
「くそ、往生際が悪い!」
メラーナが叫ぶが、一撃で仕留めたつもりだったラゴは追撃に移るのが一瞬遅れる。
その間にランバートは完全に逃走に移っており、装備をすべて捨て去り身軽になったのも合わさって、距離を一気に広げられてしまう。
スタンで今だ動けないカルブを除いたラゴ、ホロ、メラーナの三人が追従するが、こうなると動きの遅いアサルト、メディックアーマーでは追いつけず、ストライカーアーマーのラゴも距離を維持するのがやっと。
ランバートが逃げる先は南の未踏破エリア。
このまま追いかけても孤立し、逆に敵に包囲されてしまうだろう。
逃げられる。
三人の頭にその言葉が頭をかすめた矢先。
上空からエンジン音が響き、声が聞こえてきた。
《全員伏せて!》
その通信を聞くや否や、ラゴは地面に飛び込み、後ろを追っていたメラーナとホロは咄嗟に岩や木の陰に隠れる。
上空を飛行するアスカのエンジン音が最も近づいた、その瞬間。
逃げるランバートの目の前で爆発が発生した。
ランバートの逃げるその先へ向け、アスカがグレネードランチャーを撃ち込んだのだ。
「グギャア!」
爆発の衝撃でランバートは吹き飛び、大木に背中から叩きつけられ動きを止める。
「フォースバインド!」
この機を逃さないとばかりに、メラーナがホールドしていた魔法を発動。
魔法陣から出現した鞭がランバートを大木に縛り付け、拘束する。
ランバートは拘束から逃れようと必死でもがくが、ハイオーガですら拘束するバインドはエグゾアーマーを装備するホブゴブリンの力であってもビクともしない。
エグゾアーマーが狙撃用のスナイパーであるならなおの事だ。
「うおおぉぉぉ!」
ランバートが張り付けられ、もがいている間にラゴが一気に距離を詰め、勢いそのままに辻斬りにする。
これで残りHPは四割。
「これでえぇ、終いばい!」
トドメはホロ。
全力スラスターの勢いを全て大鎚に乗せ、ランバートの目の前で地面に足を突き立てた事による振り返りの遠心力も加算した、明らかなオーバーキルの一撃。
ランバートを拘束していた大木もろともを叩き潰し、綺麗なダメージエフェクトの花を咲かせただけでは収まらず、大木がメキメキと言う音を立てて倒木する。
大木が轟音を立て周りの木々を巻き沿いにしながら倒れた頃には、ランバートは光の粒子となって消滅。
ラゴ、アスカにはアシストポイントとアタックポイントが、ランバートを拘束したメラーナにはアシストポイントが、とどめを刺したホロにはアタックポイントとキルポイントがそれぞれ加算される。
なお、攻撃を一発も当てていないカルブにポイントは入らなかった。
「うひゃあ、さすがネームドやん! キルポイントうまかーーー!」
ログを確認し、獲得ポイントにご満悦なホロ。
ネームドから得られるポイントは通常モンスターのそれよりはるかに高い。
浮かれるホロを他所に、メラーナとラゴはふぅ、と胸をなでおろしていた。
「危なかったね~」
「うん。お姉さんの支援がなかったら逃げられてた……」
仕留められたから良かったものの、アスカの支援がなければ確実に逃げられていただろう。
上空から十二分な支援を受け、四人がかりで奇襲を完璧に決めた上で、だ。
ネームドエネミーとはこうも厄介でしぶといものかと思うと同時に、ネームドから標的にされた時の脅威を想像すると気楽に笑ってなどいられない。
より一層気を引き締めなければと確認しあう二人と、勝利の余韻に浸る一人の元へ、スタンからようやく回復したカルブが合流した。
周囲には激しい戦闘の痕跡があるにもかかわらず、その場に立ち尽くす三人から何かを察したような暗い表情をしている。
しかし、それでも聞かなくては、と苦渋の表情でメラーナへ声をかけた。
「おーい、なんとなく分かるんだけど、一応聞くよ。ネームド、どうなった?」
「うん、もう倒したよ?」
「あぁー、またかよおぉぉ」
ハイオーガの時同様、肝心な時に戦線離脱していた自分の不幸を呪うカルブ。
せめて一太刀……いや、一発でも銃弾を当てていたらアシストポイントなりアタックポイントなりが入ったのだが……。
《みんな、ありがとう! 怪我はない?》
「はい、みんな無事です!」
落ち込むカルブを他所に上空のアスカから通信が入る。
エリア一帯を索敵しているのがアスカである以上、ランバートを倒したことは把握しているのだろう。
《これで心置きなく地上を支援できるよ。メラーナ達にはそのまま前線の味方と敵を挟撃してほしいんだけど、いける?》
「はい、まだポーションにも余裕あるし、大丈夫です!」
《じゃあ、お願い! 場所は指定するね》
アスカとの通信が終わるとともに、マップにアイコンが表示された。
それは味方ランナーと敵主力が戦闘を行っている最前線、その背後だ。
「ホロ、次の攻撃目標だよ!」
「次があると!? どこどこ?」
「ほら、カルブも。いつまでもくよくよしてないで、これから稼げばいいじゃない。まだまだ敵はいっぱいいるんだよ」
「ちぇっ、しゃーねぇ、しっかり暴れて取り戻さないとな!」
「その意気だよ、カルブ。僕もキルが取れなかった分、しっかり稼がないと」
上陸地点デルタにおける戦闘も最終段階。
ネームドからの執拗な攻撃から開放されたアスカの対地支援攻撃。
浸透突破し、敵の背後を突いたメラーナ達。
瞬く間にモンスター達は残存戦力を消耗し、布陣をバラバラに寸断されたモンスター達はもはやこれまでとばかりに無謀な突撃と未踏破区域への逃走を始め、場面は追撃戦へ移り変わってゆく。
丘にわずかに残っていたスナイパーも掃討され、残された拠点ポータルも破壊。周囲を青い光が包み込む。
こうして上陸地点デルタにおける激しい戦闘はアスカの支援の下、ランナー側勝利で終結した。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
嬉しさのあまり三沢空港から飛び立ってしまいそうです。
今後とも当小説をよろしくお願い致します。
第20話 DAY1出撃 アスカ発艦シーンが漫画になりました!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1346294548423610368
迫力満点のカタパルト発艦、ぜひご覧ください!
あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまり種子島宇宙センターから打ち上げられます。




