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26 DAY1ネームドエネミー


《アスカさん、待ってました!》


 支援要請を受けたポイントへ空から攻撃を行っていると、聞き覚えのある声で通信が入ってきた。 


「メラーナ! 貴女もこの戦域に居たんだ」

《はい、カルブとラゴも一緒です》

《ねーちゃん、遅いよ! 俺もう何個風穴開いたか分かんねぇよ》

《アスカお姉さん、支援感謝します。あの場所に居たスナイパーが煩くて進撃できなかったんです》


 よくよく見ればマップには『メラーナ』『カルブ』『ラゴ』と表示された青い点が三つ。

 数百mの距離はあるが、空を飛行し、センサーブレードを装備するアスカにとっては、あってない様な距離だ。


 そんな彼女たちの位置は今さっき爆撃したポータルのある丘近辺の海岸。

 明らかにスナイパーの射程内であり、地形的不利も相まってその地点からの上陸は極めて困難と思われる場所だ。


「そんな位置から上陸するなんて……迂回しなかったの?」

《アスカさんが来るまで周辺の地形も分からなかったんです!》

「そんなに!?」

《この戦域にいるスカウトアーマーの数が少ないみたいで、上陸地点周辺しか判明してなかったんです。でも、これなら攻め込めます》

《ねーちゃん、空から見て良いルートないか? 地上の俺たちよりもよく見えるだろ?》


 確かに、上空からなら進攻しやすい場所も、敵の布陣が薄い場所も手に取るように分かる。

 このままメラーナ達を楔として撃ちこみ、浸透襲撃させるのは効果的だろう。


 現に、スナイパーは沈黙したが、依然ポータルのある丘の手前ではランナー達とホブゴブリン、スペルキャスター等による激戦が繰り広げられ、敵味方が近すぎて航空支援も行えない。

 そんな場所にメラーナ達が加勢しても大して戦況には影響がないのは明らかだ。


 ならば迂回させ、背後を突かせることで敵陣後方を叩き、前線の味方と挟撃させる方が敵に与えるダメージは大きいだろう。


「うん、わかった! ならルートを指定するよ」

《サンキュー、ねーちゃん!》


 そうと決まればすぐにルートを指定しなければ、と上空を旋回しながら敵の布陣が弱く、進攻しやすいルートを見定めようとした、その時。



 アスカの主翼を、光の弾丸が撃ちぬいた。



 アスカは『Blue Planet Online』を初めてここまで、対空攻撃らしい攻撃をほとんど受けてこなかった。

 唯一被弾したのはハイオーガの『エアスラスト』のみであり、この場にそのモンスターの姿はない。


 地上のホブゴブリン達が持つ単発ライフル銃では精度が、サブマシンガンでは射程が、設置式の重機関銃は仰角が足りず、スペルキャスターの魔法攻撃は弾速が遅く攻撃を見た後からでも回避が間に合うのだ。


 故に対空攻撃に対する意識が低く、地上に対する警戒が疎かになっていた。

 油断していたと言えばそこまでだが、その攻撃はアスカが気付く間もなく主翼を捉えたのだ。


 『チュン』と言う光弾の音と『バチッ』と言う着弾音が耳に伝わるよりも早く、アスカは体に強い衝撃を感じた。


 衝撃の発生先は左の主翼。

 体から一番遠いところに衝撃を受けたことでバランスを失いかけるが、失速を起こす前に態勢を立て直し、水平飛行に戻す。


「何、今の!?」

『敵モンスターによる対空射撃です。ダメージ121、左センサーポッドは問題ありませんが、主翼に穴が開いてるため、機動力が低下しています』

「嘘!?」


 アイビスのダメージ報告に、慌てて主翼を確認する。

 そこにはアイビスの報告通り、被弾による穴かぽっかりと開いていた。

 穴は実弾が貫通したような鉄板が抉れたものではなく、高熱の何かで溶かされたような綺麗な真ん丸。


 フライトアーマー主翼の構成素材はアルミニウム。

 それに希少鉱石を配分、合金にし、柔軟性と剛性を上げてはいるのだが所詮はアルミ。

 弾丸を弾くような硬度はなく、あっさり貫通されていた。


「……レイライフル!」

『スナイパーレイライフルによる狙撃と推定』

「飛んでる私に当てるの!?」


 地上を歩く他のアーマーならいざ知らず、アスカは今高度三〇〇mを一〇〇㎞/h以上の速度で飛行している。

 それを地上から撃ちぬくなど、生半可なことではない。


『敵、ネームドエネミーと思われます』

「ネームドエネミー?」

『ゴブリンやウルフと言った種族名とは別の、個別名を持ったモンスターです。能力は名無しのモンスターとは比較にならず、優秀なスキルを取得しています』

「じゃあ、この攻撃は狙撃に特化したネームドエネミーからってこと?」

『はい』


 狙撃手がいるであろう丘の方を見ると、多数生き残っている敵の中に『狙撃手ランバート』と明記されている敵アイコンがあった。

 これこそがアスカを撃ちぬいたネームドエネミーであり、【射撃精度】や【隠密】等のスキルを所有し、狙撃能力に特化した強敵。

 ネームドエネミーはスキルだけでなくAIも他の一般モンスターと違い、高性能なものが割り当てられ偏差射撃も難なくこなしてくる。


 そしてランバートのアイコンは、被弾に憤るアスカをあざ笑うかのように表示から消滅する。


「表示が消えた?」

『スキル【隠密】によるものと思われます。敵に見つかっている時間を短くし、センサーからも発見されにくくなります』


 消えるなんて卑怯だ! と叫びたいところだが、ゲームとしてそうなっている以上はどうしようもない。

 ランバートのラストスポット位置を睨みつけていると、何かが光ると同時にランバートのアイコンが再表示された。

 再表示は発砲を捉えた物、光は放たれた弾丸だという事にはすぐに気が付いたが、レイライフルの弾速は魔法攻撃とは比べ物にならないほどに速い。


 慌てて回避するが間に合わず、またも左主翼に被弾してしまう。


「つっ!」

『左主翼被弾。ダメージ98。揚力、機動力低下。備蓄魔力、漏洩しています』


 左主翼に大きく開いた二つの穴。

 一発目は体感するほどではなかったが、二発目を被弾したことで左右のバランスが崩れ体が左に流れ始めると同時に、二つ目の穴からキラキラした何かが溢れ出し、飛行消耗以上の速度でMP残量が低下してゆく。


 二発目が被弾した場所は主翼の付け根部分。

 そこは内部にMPタンクを搭載している箇所であり、穴が開いたことで備蓄していた魔力が空中に流出していたのだ。


「わっ、わっ! アイビス、これ誘爆しないよね!?」

『爆発はしませんが、最悪全MPを喪失する恐れがあります』

「供給を止めることは?」

『可能です』

「なら、左主翼タンクからのMP供給をカット!」

『了解しました』


 アイビスの返事と同時にMPの最大値が五〇減少し、代わりにMPの流出が止まる。


『敵ネームドの射撃能力は相当なものと思われます。まっすぐ飛ぶのは危険です』

「常に回避機動をとらないと被弾しちゃうね。よし、両翼の増槽を切り離して【自動水薬】をアクティブ。回復量の少ない支給品ポーションから使用していくよ」


 『カキン』と言う音とともに両翼に取り付けられていた増槽が地上へ向け落下。

 同時に最大MPが一〇〇減少するが、今のMPは五〇〇ほどまで減っており、問題はない。


 増槽の重量と空気抵抗が減った分アスカは機動力を取り戻し、ランバートの照準を散らすためシザーズと呼ばれるジグザグに飛行する回避機動を取る。


 その選択は正しかったようで、アスカへ向け放たれた光弾がたった今通過した空間を駆け抜けて行く。


「よし、これなら避けられる!」

《ねーちゃん、被弾したのか!?》


 地上から聞こえてきたのはカルブの声。


「敵にネームドがいるよ、気を付けて!」

《ネームド!? ねーちゃんは大丈夫なのかよ!》

「回避するから大丈夫……わっ!」


 通信に気を取られ、機動が甘くなったところを狙いすましたかのようにランバートが光弾を放ってくる。

 回避に専念していれば躱すのは造作もないが、これでは地上への支援攻撃が行えない。


「先にあれをなんとかするしかないか……」

《ねーちゃん、俺たちでネームド仕留めるよ!》

「えっ、それは危険だよ!」

《ネームドはずっとねーちゃんを狙ってるし、ルートさえ教えてくれれば俺たちでも近づける!》


 再度襲ってくる光弾を躱しながら、地上を見る。

 確かに、先ほどからランバートの狙いはアスカに集中している。

 ならばこのまま囮となって狙撃を一手に引き受け、その隙にカルブ達によってランバートを襲撃してもらった方が味方の被害が少なくて済むだろう。


 ランバートの狙撃は正確無比であり、飛行するアスカの速度と機動力をもってしても回避がやっと。

 その銃口が地上のランナー達に向けられた時の被害は想像を絶する。


「……わかった。北側から回り込んで。そこが一番包囲が甘いから」

《了解!》

「私は回避に専念しないといけないから、支援できないよ?」

《大丈夫、力強い助っ人がいるんだ》

「助っ人?」

《後で紹介するよ。じゃあ、行ってくる!》


 通信を終えた後、カルブ達の名前が付いている青い点は北へ向かって移動を開始。

 その三人に追従する青い点が一つ。

 これが恐らくカルブの言った『助っ人』なのだと思われるが、今のアスカにそれを確認する術はない。


 そうしている間にもランバートから放たれた光弾がアスカの脇を掠める。


「ほら、狙ってきなさい。貴方の相手は私だよ!」


 アスカはシザースを行いながらピエリスを構え、ランバートがいる丘へ向け射撃を行う。

 有効射程にはわずかに届かない距離、回避機動中ゆえほとんど定まっていない照準での射撃では効力射など望めない。

 この場合は威嚇であり『お前のことは見えている』という意味を込めての射撃。


 この攻撃に対してランバートはその場から動こうとせず、スナイパーレイライフルを返事とばかりに撃ち返す。


 彼はこの戦場で誰が一番脅威になるかを十分に理解しているのだ。

 いきなり東の空から現れて、瞬く間にこちらの位置情報を把握、広めた上、丘に陣取っていた狙撃兵を航空爆撃で壊滅させるほどの脅威。

 最優先で屠るべき敵としてアスカを定め、執拗に狙ってくる。


 ある程度近付き、ピエリスに追加したグレネードランチャーを放つが、その弾も弾着する前にランバートに撃ちぬかれ空中で爆発する。


「グレネードを撃ち落とすの!?」

『ネームドですので』

「いやいやいや、やりすぎだって!」


 空中から撃ったグレネードランチャーの弾を狙撃するなど、どう考えても狙撃能力が高すぎる。

 クレームの一つや二つ言ってやりたいところだが、あの精度で狙われている以上そんな暇はない。


 大事なのは裏どりをしているカルブ達に気付かせない事。

 嫌がらせ程度にランバートが潜む位置へピエリスを放ちながらインメルマンターンを行い、距離を取る。


 通常のスナイパーライフルならすでに射程外の距離。

 だが、ランバートは御構い無しに光弾を撃ち込んでくる。


 常に回避行動をしているアスカには当たらないが、滑空など予測しやすい飛行をしていたら間違いなく当たっていただろう。


「カルブ、メラーナ、ラゴ……たのんだよ」


 そうポツリと呟きながら視線を送ったのは丘の北側。

 そこにはカルブ達の名前が入った四つの青いアイコンが表示されていた。

 


シザーズ

 二機の航空機が急旋回による蛇行(蛇が歩くときのような波線機動)によって双方の飛行機動が交錯している状況。

 本来のニュアンスとは違いますが、本作では単騎のジグザグの蛇行回避飛行もシザーズとしています。

インメルマンターン

 水平状態から上昇、半ループしたところで上下逆になった機体を180°ロールさせ水平状態に戻る航空機動。

 いわゆる縦のUターン。


第20話 DAY1出撃 アスカ発艦シーンが漫画になりました!

https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1346294548423610368

迫力満点のカタパルト発艦、ぜひご覧ください!

あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまり種子島宇宙センターから打ち上げられます。


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

明日は地上視点、カルブ達と狙撃主ランバートの戦闘。

お楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[一言] アスカちゃんアスカちゃん、君の働きは余裕で戦略級なんだからそこは「スナイパーに狙われてやばいんで助けてください><」ってオープンチャンネルで叫んじゃっていいんだよ。助けてもらったお礼とか全然…
[良い点] ここの運営なら悪乗りしてただ一人フライトアーマー使い続けたアスカに (厨二心あふれる)称号とかつけてくれると信じてるよ! 天上の眼とか裂空の霹靂とかいろいろとw
[一言] いつか被弾するとは思っていたけど、まさかこんなに早くくるとは・・・ いいね~、盛り上がりますね!!!! にしても運営、殺意高すぎwww
2021/01/07 16:25 退会済み
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