24 DAY1敵包囲網突破戦
Update mission
包囲された友軍を撤退させよ
勝利条件:味方の撤退
敗北条件:味方の全滅
ランクS条件:味方全員の生存、敵の殲滅
アスカはアルバ達の直上、全身でエアブレーキをかけた急降下姿勢で包囲しているモンスター達に攻撃を仕掛けていた。
両手にピエリスとエルジアエを構えた二丁撃ちで弾幕を作り、敵を牽制。
同時にインベントリからスモークグレネードを空中に出現させ、投下する。
アスカの持つハンドグレネードは全て着発信管、接触により起爆するタイプだ。
安全ピンはアイビスの手によりインベントリから出した時点ですでに外されており、地上へ到達した瞬間に起爆、周囲を煙で包み込む。
モンスター達はいきなりの頭上からの射撃に加えてこの煙によりアルバ達の位置をロスト。
どう対処していいのか分からず、その場で立ち尽くす。
「皆、今のうちに後退して!」
《アスカ!》
《すまないが皆もうMPが残ってない。スラスターが使えない状況で、この数から逃げ切るのは……》
「アルバ、これ使って!」
アスカは品質AのMPポーションを五つ取り出すと、アルバ達へ向け投下する。
幸い、彼らは一か所に固まっており、狙いをつけやすい。
ゲーム故アイテム投下に対する風の影響はなく、まっすぐ落下。
ポーションのビンが割れることもなく彼らの元へとたどり着いた。
《MPポーション? なに、この品質!?》
《品質A!? 嘘だろ!?》
「そんなことより、早く後退してください!」
《し、しかし辺り一面煙で、どこへ逃げたら……》
「アイコン出します! グレネードを落とすので、それが爆発したらそっちへ!」
アルバ達へ撤退の方向をアイコンで示し、その方向に居座るモンスター達へ向けグレネードを複数投下。
グレネードは弾着と同時に連続的に爆発し、包囲網に穴をあける。
《なるほど、そう言う事か!》
アスカの意図を察したアルバ。
バズーカの最後の一発をアスカのハンドグレネードで包囲が薄くなった地点へ向け撃ち放つ。
その爆風で吹き飛ばされ、モンスターがいなくなった一点をフランたちが一気に駆け抜け、包囲網を突破する。
先頭はファルク、続けてスラスターが付いていないフランを引っ張るホーク、キスカと続き、アルバが殿を務める。
アルバは残弾が尽きたバズーカを廃棄。
近接武器のサーベルを主兵装に切り替え、後方を警戒しながらスラスター全開で山を駆け降りて行く。
この時点でアルバ達が包囲網を突破したことにモンスター達が気付き、追撃を開始する。
「させないよ!」
アスカは落下姿勢から水平飛行、巡行モードで追撃するモンスター達の先頭を行くホブゴブリンへ向け射撃を開始。
山の斜面を勢いよく駆け降りる最中に被弾し、ノックバックで体勢を維持できなくなったホブゴブリンはその場で転倒。
後続に踏みつぶされ、軍団の中へ沈んでゆく。
先頭が入れ替わるたびにこれを繰り返しモンスター達の追撃を抑えつつ、時間を稼ぐ。
《ま、まずいよぉ》
決死の撤退劇の最中声を上げたのはフランだった。
《このままだと味方の陣地に突っ込んじゃう! MPKはまずいってばぁ!》
MPK。monster player killerの略で、大量に引き連れたアクティブモンスターを他のプレイヤーにおしつける違反行為であり、トレインとも呼ばれる。
フランたちにその意思はなくとも現状のこれはMPKそのものであり、味方ランナー達の元へ行くわけにはいかない。
「大丈夫!」
《アスカ?》
『今回はこのまま味方陣地に向かっても問題ありません。対処済みです』
《どういう事ですか?》
《よく分からんが、このまま突っ込んで良いんだな?》
「うん!」
《アイビスが言うなら大丈夫だねぃ!》
「ちょっと、それどういう意味!?」
それは文字通り、ゲームの支援AIであるアイビスならマナー違反行為を許容するはずがなく、彼女が問題ないというのであればその通りなのだろうという推測。
《森を抜けるぞ!》
五人は大丈夫と言うアイビスの言葉を信じ、陣地近くの森を抜け、味方と合流する。
そこから反転攻勢に出ようと考えていた彼らだったが、抜けた先の味方の布陣に驚愕する。
《な、これは!?》
《君たち、こっちだ! 味方の射線から離れろ!》
《ど、どうなってるの!?》
森から抜けたアルバ達が見たものは、森を囲うように陣地を構築し火器を構える大勢のランナー達だった。
その銃口は今出てきた森へと向けられ、あとは引き金を引くだけと言う状況。
アルバ達を誘導する味方ランナーに導かれ、味方の射線から離脱する。
それと同時に森の奥が騒がしくなり、モンスター達がその姿を現した。
「今です!」
《おっしゃあ、この戦場、最後の稼ぎだ!》
《もう後のことは考えなくていい! 撃ちまくれ!》
アスカの号令で、待ち構えていたランナー達の銃口が一斉に火を噴いた。
ライフル、アサルトライフル、機関銃、サブマシンガン、グレネード、実弾、レイ、魔法攻撃。
このゲームにおける中・遠距離攻撃手段がすべてぶち込まれ、モンスター一匹さえも森から出ることを許さない。
<エコーの拠点ポータルを確保しました>
最後のオークが崩れ去るのと同時に全体アナウンスが流れ、ポータルの色が赤から青に変わる。
周囲からは勝利の勝鬨があちこちから上がっていた。
「よし、これでこの地点は確保だね」
『これで一息付けますね』
「うん、とりあえず下に降りようか」
アスカは地上の歓声に答えるようにポータルの上空で旋回すると、エコーへ向け着陸していった。
「アスカぁ! ありがとう、たすかったよぉ!」
「わっ、フラン、抱きつかないでよ!」
エコーに着陸したアスカは、他のランナー達からの歓迎でもって迎えられた。
特にフランは窮地を救ってくれたと感極まっており、アスカの姿を見るなり抱きついてきたのだ。
そんな二人の前に、アルバがスッと現れた。
「アスカ、俺からも礼を言う。助かった」
「えへへ、皆を救出できてよかったよ」
「仲間もみな感謝している。紹介も兼ねて直接お礼を貰ってくれ」
そう言うアルバの背後には、彼の小隊、ファルク、ホーク、キスカ、三人の姿があった。
「やぁ、初めまして。僕はファルク。この小隊のリーダーをしています。救援ありがとう、命拾いしました」
「俺はホークだ。助けてくれてサンキューな」
「私はキスカ。貴方、ちっちゃいのに度胸あるのね。感心しちゃったわ」
ファルクはダークブラウンの髪に茶色の瞳のエルフ。
ホークは前髪の一部が白く、残りは茶と黒が混じった髪で、金色の瞳をした獣人。
狼をベースにしているようで、頭の上にある綺麗な形をした獣耳と腰から生えている剛毛の尻尾が特徴的だ。
キスカは肩までの長さの髪をおさげでまとめた藍髪、瞳もディープブルーと青を基調にし、額からはツノが生えていた。
「アスカです。よろしくお願いします」
アスカは三人からのお礼に対し頭を下げて挨拶を行う。
しかし、目線がどうしてもキスカのツノに行ってしまう。
「ん? 私の顔に何か……ってあぁ、これか」
アスカの視線に気づいたキスカは、額に手を当ててその視線の理由に気付いた。
「私のアバターは鬼人なんだ。だから、こうして額からツノが生えてるの」
「へぇ、そんなアバターもあったんですね」
「まぁ、このゲームだとアバターの種別は能力に一切関係ないから、見た目だけだけどね」
キスカはニカッと笑いながらアスカに答えた。
『鬼人』はゲーム開始時に選べるアバターで、あまり選ばれないマイナーな部類に入る。
マイナーなものでは他に耳の部分がエラになっている『魚人』、二足歩行のトカゲのような姿になる『リザードマン』、黒い肌と牙、金色の瞳がデフォルト設定になる『魔人』等がある。
なお、これらのアバターは全て『見た目のみ』であり、ゲームステータスには一切影響しない。
鬼人で攻撃力が上がることも、魚人が水中で軽快に動けることも、魔人の魔法攻撃力が上がることもない。
このゲームにおいてはエグゾアーマーのステータスがすべてなのである。
なお、悪魔と天使、妖精についてはアバターが存在しない。
悪魔と天使は背中の翼が邪魔、妖精に関してはそもそも小さすぎるというのが公式の発表。
「森から脱出した時に味方が陣地作ってたのには驚いたよぉ。アスカが用意してくれたの?」
「うん。包囲されてる砲撃班を撤退させるから、それを追ってくるモンスター達を迎え撃ってくれってお願いしたの」
アスカはエコーでの戦闘の決着を見計らい、地上のランナー達にフランたちの撤退の援護を依頼したのだ。
前線を担うランナー達からしてみれば迫りくる敵を弱体化、沈黙させる支援砲撃はまさに天の助け。
そんな支援を行ってくれた彼らが窮地に陥っており、助けを行えるのであればと快く承諾してくれたのだ。
もちろん、この場所での戦闘最後のポイント稼ぎと言う事柄も援護を請け負う要因の一になっていたことは間違いない。
「なるほど。アスカの通信範囲のデカさにも助けられたんだな。助けてくれて言うのもなんだが、見捨ててもらってもよかったんだぞ?」
「えっ?」
「ほら、イベントは一日二回まではやられても大丈夫だからさぁ」
「あっ……」
そもそも、フランたちはあそこから生還しようという気はさらさらなく、拠点攻略のための捨て駒としてあの場に赴いたのだ。
このイベントではガレージに登録してあるエグゾアーマー三つによる残機制であり、死んでも二回までなら最後に立ち寄ったポータルから他のエグゾアーマーで復活できる。
しかし、アスカはフラン達が窮地に陥ったことで焦り、その事を完全に失念していた。
さすがのアイビスも、フラン達が決死だと知らされてない以上『残機があるので、見捨てても問題ありません』などと教えることもできなかった。
「……もしかして、私余計なことしちゃった?」
もしフラン達があの場所で殺され、リスポーンした後の事まで考えていたのであれば、救援は余計なお世話だったのではないか?
そう不安になって出てきた言葉だが、それを聞いたフラン達は顔を見合わせ、笑い出す。
「そんなことないよぉ。めちゃくちゃスリルのある撤退劇だったし!」
「そうだよ。助けてもらって感謝こそすれ、それを逆恨みするなんてありえないって」
「エグゾアーマーが三つあると言っても主力であるメインアーマーを失えばその後の稼ぎにも影響が出る。俺の方こそ、変なことを言ってすまん」
返って来た回答は感謝の言葉でありアスカはほっと胸をなでおろした。
「アスカさん」
「はい。呼び捨てで良いですよ。なんでしょうか?」
そんなアスカに声をかけてきたのはこの小隊のリーダー、ファルクだ。
「アスカはこの後はどうするんですか?」
「とりあえずマップの未踏破エリアを埋めようかと。まだ西の方に行ってないので、まずはそこから」
「そうですか。なら、デルタの戦線でも航空支援をお願いできませんか?」
「デルタで、ですか?」
「ええ。そこには僕の仲間が居るのですが、この場所と同じようになかなか攻略できずに膠着してるようなんです。しかしアスカの索敵と支援があれば突破できるはずです」
ふむ、とアスカは考え込む。
チャーリーではロビンに、エコーではフランに支援要請を受けたために攻略の支援を行ったが、そこで得られたアシストポイントの稼ぎはかなりの物だ。
どのみちデルタも通過する以上、MP補給が出来るようポータルを確保しておくことも吝かではない。
「分かりました。いいですよ」
「ありがとうございます。では、貴女のコールサインを決めましょう」
「コールサイン?」
唐突に出てきた『コールサイン』と言う言葉に、アスカは目を白黒させるのであった。
第20話 DAY1出撃 アスカ発艦シーンが漫画になりました!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1346294548423610368
迫力満点のカタパルト発艦、ぜひご覧ください!
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