22 DAY1南進
<上陸地点ホテルのポータルを確保しました>
敵勢力下のポータル破壊により敵のポップが停止。
エリアにとどまっていた敵が後退を始める。
ランナー達は追撃はかけず、一度態勢を立て直すようで、ポータルに集結してゆく。
「この地点はこれで大丈夫だね」
『奪取したポータル上空を通過すればMPを回復できます。このまま通過しますか?』
「それも良いけど、ちょっと弾薬を補充しよっか。かなり使っちゃったからピエリスの弾薬があんまり残ってないよ」
『支給品の弾薬を補充する場合はアルファ、ブラボー、チャーリーの三地点か、近くのトランポートアーマー装備のランナーから受け取ってください。また、ポータル周辺ではホームのアイテムボックスにアクセスできるので、そちらからも補充と装備の変更ができます』
「了解」
アスカは高度を下げ、ポータル近くの砂浜に着陸。
周囲には破壊された盛土や焼けた地面、武器、空薬莢等が散乱し、戦闘が如何に激しかったのかを物語っていた。
ポータルはそんな砂浜の真ん中にある、岩で作られた港のような場所にあった。
周りには休憩を取る者、一度通常マップに戻るため転移してゆく者、逆にここから進出するために転移してくる者など多種多様。
アスカはそんなランナー達を横目に、弾薬補充のためトランポートアーマーを装備しているランナーを探す。
するとその中に見知ったランナーの姿を見つけ、声をかけようと手を挙げたところであちらもアスカに気付いたらしく、小走りで近づいて来た。
「アスカ! いやぁ、八面六臂の活躍だったね」
「スコップ。貴方もこのエリアに居たんだ」
「たまたまだよ。なかなかの混戦だったから、良い感じでポイントが稼げてウハウハさ。アスカも何か補充していくかい?」
「うん。ピエリスの弾薬を貰えるかな?」
「ピエリス? おぉ、PDWじゃないか! 通だねぇー。ちょっと待って」
スコップは慣れた手つきでインベントリを操作し、アスカへ支給品の弾薬を渡す。
最初から所持していた弾薬は通常品のため、そちらは一度ホームのアイテムボックスを開いて収納。
合わせて支給品のMPポーションも貰い、インベントリの空いている枠に入れておく。
「僕は一度支給品の補充に戻るけど、アスカはどうするの?」
「私はこのまま南下してマップを埋めてくるよ」
「うわ、マップ埋めのポイント独り占めじゃん」
「ふふ、悔しかったらスコップもフライトアーマーを使いなさいな」
「アスカ、分かってて言ってるでしょ?」
「え? えへへー」
補充を終えたアスカはスコップと別れロビンの姿を探す。
この場を離れる前に会っておこうと思ったのだが、あいにくとポータル付近にその姿はなかった。
マップで確認すると、最初に連絡をもらった地点からあまり動いておらず、ずっとその位置から狙撃を行っていたようだ。
直接会えないのなら、とアスカはアイビスに頼み、ロビンとの通信を開く。
「ロビンさん、聞こえますか?」
《あら、アスカちゃん。どうしたの?》
「補給が終わったんで、次のポイントに行く前に連絡をと思って」
《あらあら、律儀ねぇ。こっちこそ支援ありがとう。おかげで助かったわ》
「いえ、ロビンさんが作ってくれた飛雲のおかげです」
《それを使いこなすアスカちゃんの腕があってこそよ。頑張ってね》
「はい!」
ロビンとの通信を終えたアスカはポータルのある拠点から離れて海岸線へ。
途中、支援したランナー達から感謝の言葉をもらいながら、再び空へと離陸する。
「とりあえず、海岸線に沿って飛行しよう」
アスカはセンサーブレードの観測が最大範囲になる高度三〇〇mを維持しながら、目の前に広がる海岸線に沿って南下。
地上を進むランナー達はすでにはるか後方であり、マップを埋めるアスカには多量のアシストポイントが入ってくる。
<拠点ポータル、インディアを発見しました>
アナウンスとともにマップに発見した新しいポータルが表示された。
拠点インディアはホテルからそのまま南に行った地点。
海岸線からわずかに内陸に入り込んだ場所で、九分割した全体マップで言えば東上端下部にある。
周辺には守備隊とも言えるモンスター群が構え、防御陣地を構築している。
「……すごい数だね」
『東方面の次の攻略ポイントになります。激戦となることは必至でしょう』
「その時はまた支援してあげないとだね。……あれは?」
アスカが見つけたのは、北に向かって進んでいく大量のモンスター達の姿だった。
初期の敵であるゴブリンやゴブリンライダーの姿はもはやなく、エグゾアーマー装備のホブゴブリンにオーガ、ウォーウルフを主軸とした攻撃部隊だ。
『インディアからポップしたホテル攻略部隊です。今イベントでは敵は拠点を防衛するだけではなく、ポータルの再奪取のため攻撃を仕掛けてきます』
「あ、あの数はやばいんじゃ……」
『……イベントですので』
「あ、そう……」
現状、観測は出来ても攻撃を行うことは出来ない。
アスカはホテルにいるランナー達へモンスター達の動きを伝えた後、敵攻撃部隊と拠点ポイントインディアの上空を通過した。
海岸線はマップ東から中央へ向かって曲がりながら続いており、アスカもそのラインに沿って飛行する。
拠点付近は敵を示す赤い点で埋め尽くされているが、そこから離れると敵の反応はなく、平原が広がるのみ。
<拠点ポータル、ジュリエットを発見しました>
そんな平原のど真ん中にポツンと現れたポイントがジュリエットだ。
海岸線からはかなり内陸に入り込んだ地点にあり、上陸地点と言うよりは敵の防衛拠点と現した方が正しいだろう。
インディア同様、多数のモンスター達により拠点化されているその場所を、左に見ながら通過する。
「拠点ポータルっていくつあるの?」
『正確な数はお答えできません。かなりの数がある、とだけ』
拠点ポータルジュリエットの位置はインディアから南西に進んだマップ東中央の上端。
未だ全体の六割以上がグレーで覆われている。
空からその未踏破エリアを見渡せばそのほとんどが陸地。
どれだけの数のポータルがあるのか想像もできない。
「この海岸線の先は……え、海の中に道?」
ジュリエットの先の海岸線はそれまでの平原が急に先細り、南北を海で挟まれた道のようになっていた。
その道は上陸地点、ブラボーがある島に続いている。
そう、上陸地点ブラボーは陸繋島だったのだ。
<重要拠点ポータル、ゴルフを発見しました>
そんな陸繋島へと繋がる海の中の道、陸繋砂州東側にあるのが重要拠点ポータルゴルフ。
南北を海に挟まれた陸繋砂州の本土側に陣取り、まるで陸繋島から来るランナー達を抑える関所のように陣取っていた。
「ねぇアイビス。ゴルフってなんかモンスターの数多くない?」
『この地点はマップにいくつかある重要拠点の一つです。その為、敵の陣容も厚くなっています』
「それにしても厚すぎじゃない? ホブゴブリンにオークにハイオーガ……げ、オークキングまでいる……」
この地点もゴブリンなどの初期モンスターの姿はなく、そのほとんどが上位種で構成されていた。
拠点ポータルのすぐそば、一段と敵の数が多いその中央に陣取るのはオークキング。
アスカがフラン、アルバと共に死闘を繰り広げた相手だ。
因縁深い敵の上空をそのまま素通り。
重要拠点故か、遠距離攻撃持ちが複数アクティブ化し攻撃を行ってくるがアスカはこれを回避。
反撃はせず陸繋砂州上空を飛行する。
<拠点ポータル、フォックストロットを発見しました>
本土と陸繋島を結ぶ陸繋砂州の中間点にあるのがフォックストロット。
南北で挟まれた海の南側に面し、港湾施設を備えていた。
この地点はゴルフほど要塞化はされておらず、モンスターの層もそこまで厚くはない。
「この地点はまだ攻めやすそうだね」
『ここはあくまで中継地点です。やはり本命は重要拠点ゴルフでしょう』
「むぅ……」
陸繋砂州は南北を海で挟まれているため、非常に狭い。
そんな場所で万単位の兵力同士での戦闘など、どう考えてもただでは済まないのだが、進行ルート上避けては通れない。
「なんてマップ作ったのよ、もう……」
ため息しか出てこない状況だが、嘆いてばかりもいられない。
アスカはフォックストロットのそばを通過し、そのまま中央の戦場、拠点ポイントエコーへと向かった。
エコーはマップ中央やや西にある最初の上陸地点ブラボーのある陸繋島、砂州がつながっている部分に存在するポイントだ。
ブラボ―地点から見ると丁度島の反対側にあり、ここを突破しなければ島から出ることが出来ない重要拠点。
「ん、見えた!」
エコーまではまだ数キロあるが、ポイント周辺からはいくつもの煙が立ち上り戦場は激戦の様相を呈していた。
《なんだ、マップが?》
《マップがいきなり広がったぞ、だれだ?》
通信範囲がエコーまで届き、スカウトアーマー達を通じてマップの情報が付近一帯のランナーと共有される。
突然の出来事に驚愕するランナー達だが、彼らの驚きはそれだけに治まらない。
《敵陣のど真ん中に味方の反応!?》
《なんて速度だ! こっち近付いてくる!?》
地形を無視し、敵が巣くっている方向から一直線にこっちへ向かってくる味方を示す青い点。
異様とも見えるその点が彼らの上空を通過する。
《フ、フライトアーマー、だと!?》
《敵陣の方向から? まさか!》
《ホテルから飛んできたのか?》
《馬鹿な! MPが持つわけない!》
動揺を隠せない彼らを尻目に、アスカは上陸地点ブラボーを目指す。
目的は当然MPの回復。滑空も駆使し、エコ飛行を続けてきたがそれでも残り三割を切っている。
まずはこのMPを回復させないと満足に支援も出来ないのだ。
《やった、アスカが来た! これで勝つる!》
「フラン?」
そんな中聞こえてきたのはマジックアーマーを操るフランの声。
《そうだよ、フランだよー! もう、アスカ遅い! ずっと待ってたんだよぉ~》
「えっと、ごめんなさい?」
《ふふふ、支援してくれたら許してあげよう》
「支援? 最初からそのつもりだけど、航空爆撃でいい?」
《うんにゃー。アスカ、弾着観測をお願い》
アスカとフランによる拠点エコー砲撃作戦が今、始まろうとしていた。
第20話 DAY1出撃 アスカ発艦シーンが漫画になりました!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1346294548423610368
迫力満点のカタパルト発艦、ぜひご覧ください!
あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまり種子島宇宙センターから打ち上げられます。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
昨日は特にたくさんの感想をいただき、喜びに震えておりました。
『ここはどうなってるの?』『こういうことは出来るの?』など少しでも気になったら感想を寄せてください。できる範囲でお答えしますので!
なぁに、ネタバレしそうになったらアイビスが止めてくれるので問題ありませんよ!
戦闘はどんどん激しさを増して行きます。アスカ達は生き延びることが出来るのか?
ぜひ見届けてください。




