21 DAY1ホテル上陸戦
揚陸艦のカタパルトから発進したアスカは高度三〇〇mまで上昇。そこで各種レーダーを作動させた。
飛雲が装備しているのは膝に装備された地上観測用センサーブレードと左右翼端のセンサーポッド。
これについてはロビンから細かい説明を受けており、センサーブレードは高度三〇〇mで前方三〇〇〇m、120°扇状の範囲で観測が出来、左右のセンサーポッドはアスカを中心に二〇〇〇mの円形の観測範囲を持つ。
通信もセンサーブレードの機能であり、こちらは高度三〇〇mで円形五〇〇〇mまでの通信を可能にしている。
「各種センサー問題ないね」
『はい。正常に稼働中です』
アスカの視界の一部にレーダーの示す範囲がミニマップとして表示され、チャーリー地点のある島をその範囲に収める。
よく見れば島の中に味方を示す青とNPCを示す緑の点も映っていた。
「チャーリーにも結構人がいるね」
『拠点建築と探索のようです。支給品を受け取るのでしたら、一回降りる必要があります』
ふむ、とアスカは考え、視線を残りMPに目を向ける。
離陸したばかりのMPにはまだまだ余裕があり、飛行には何の問題もない。
「いいよ、このまま行こう」
『では、ポータル上空を飛行してください。MPを回復できます』
「上空を通過するだけでいいんだ」
『正確にはポータルから一定の範囲内ですが、上空には制限がありません』
「なるほど」
アイビスのアドバイスに従い、チャーリー地点のポータル上空を通過。
これでMPは全快し、そのまま上陸地点ホテルへと進路を取る。
かなり広いマップとは言え、飛行するアスカの速度は滑空でもかなりの速度であり、チャーリー通過後わずか数分でホテルへと到達した。
到着と同時にミニマップに表示されたのは大量の赤い点。
それはすべて敵の反応であり、上陸に苦戦するのも頷けるほどの多さだった。
《なんだ、急にマップがクリアになったぞ!?》
《敵のガンナーが見えた! 撃ち込め!》
《誰かスカウトが入ったのか!?》
無線から聞こえてきたのは同地域にいるスカウトアーマー、及び通信ユニットを装備したランナーたちの通信だ。
アスカが観測したデータは他のスカウトアーマーを介してエリア一帯のランナーに共有される。
《足の速い味方がいる?》
《海上にはそんな奴は……空か!?》
地上のランナー達のマップには高速で海上を移動する青い点が表示されている。
しかし、海の上には何もない。
となればあと想像がつくのは上。空だ。
《ははは、なんてこった、フライトアーマーだ》
《誰かは知らんが助かる》
《おい、フライトアーマーなんかに後れを取るな! 一気に仕掛けるぞ》
アスカの観測データをもとに地上のランナー達が攻撃を開始。
弾幕でなかなか前に出れなかったアサルトやストライカーも、攻撃がどこから来るのか分かれば対処できる。
後衛が見えなかった位置にいた敵に攻撃を開始。
アサルトアーマーら前衛は銃撃をものともせず塹壕に突っ込むと、隠れて攻撃してきた敵を優先的に倒してゆく。
《アスカちゃん、聞こえる?》
「ロビンさん!? イベント参加してたんですか?」
地上からの通信で聞こえてきたのは、このアーマーの製作者ロビンだった。
《どんな感じかちょっと見に来たの。アスカちゃんのおかげで敵の布陣が丸見えだわ》
「私は飛んでるだけなんですけどねー」
《この場合は飛んでるだけで有利よ。敵には対空攻撃の手段がないから、独壇場ね》
敵が装備しているのはライフル銃や設置式の汎用機関銃で、対空攻撃が出来るほどの物ではない。
スペルキャスターの魔法攻撃も速度があるものは少なく、空を高速で飛行するアスカを捉えることは不可能だ。
《すぐにマップを埋めたいとは思うんだけど、ここの攻略にちょっと力を貸してくれない?》
「いいですよ。どこを攻撃すればいいですか?」
《いくつか敵の守りが固いところにお願い。こっちから支援要請だすわね》
『ロビンからの支援要請を受け取りました』
海岸線に布陣された敵陣地。
そのいくつかにアイコンが表示される。
これがロビンが指定してきた支援要請ポイントであり、どこも味方が苦戦している場所だ。
「結構いっぱいあるね。どこからがいいかな?」
『優先順位を付けますか?』
「お願いできる?」
『了解しました』
複数ある支援要請ポイント。
そのいくつかに赤い文字でTGTの文字が表示される。
これがアイビスが付けた優先的攻撃目標であり、アスカは一番近いポイントへ向け舵を切った。
《敵は見えてるんだぞ、押し込め!》
《機関銃と魔法攻撃が止まらない! 狙撃できないのか!?》
《塹壕に隠れられて狙いが付けられない!》
《盾がもう持たないぞ》
《誰か、あの陣地を黙らせてくれ!》
ロビンが支援要請を出し、アイビスがTGTとしたポイント。
そこはやはり敵が強固に抵抗しており、地上のランナー達が苦戦している場所だった。
「まずは攻撃を止めさせるよ!」
アスカは高度と速度はそのままにエルジアエを構え、連射モードでトリガーを引く。
この射撃で敵を落とすことは出来ないが、上空から不意打ちを食らった敵は前方にいたランナー達への攻撃を中断。
銃を持った複数のホブゴブリンが対空射撃を行うも、単発ライフルによる上空への射撃ではかすりもしない。
アスカは銃をエルジアエからピエリスへ持ち替え、片手で射撃を続けるとともにすれ違いざまハンドクレネードを複数落としてゆく。
グレネードは正確に狙いを付けたわけではないため直撃はしなかったが、注意を引くには十二分。
前方から注意がそれる瞬間を逃すランナー達ではなく、ゴブリン達が混乱に陥った隙になだれ込み陣地を制圧する。
《上空のフライトアーマー、助かった》
《火力支援ありがとう。おかげで制圧できたよ》
「お役に立ててよかったです」
《ここはもう大丈夫よ。他の場所もお願い》
「分かりました」
こちらに手を振ってくるランナー達を眼下に見ながら、アスカは次の地点へ向かう。
他の地点も塹壕や盛土により拠点化されていたが、空を飛ぶアスカには障害にもならない。
最初の地点同様、対地攻撃を行い、その隙をついて味方が突入してゆく。
接近さえできてしまえば防御力と攻撃力はこちらが上。
オーガやエグゾアーマーを装着したホブゴブリンが必死の抵抗をしてくるが、イベントに準備万端で挑むランナー達にはかなわなかった。
「だいぶ制圧出来てきたね」
『ポータルまであとわずかです』
「ポータル制圧してもらって、MP補充したら次だね」
上陸地点ホテルの周辺は極めて長い海岸線だ。
ほぼマップ東上端から上陸したランナー達はそこから少し南の海岸線にあるポータルを目指している。
抵抗が激しくなかなか接近できなかったが、アスカの航空支援を受けようやく目の前まで攻め込めたのだ。
《上空のフライトアーマー、聞こえるか? ポータルを攻略したい。支援を頼む》
都合よく聞こえてきたポータルへの支援要請。
「分かりました。先行しますね」
《よろしく頼む》
通信を終了し、進路をポータルの方へと向けた。
いくら広い海岸線と言えど、アスカの索敵範囲三〇〇〇mならセンサーブレードを向けるだけで周辺の索敵は終了する。
まだあまり攻め込めていないポータル周辺は依然として赤いアイコンで埋め尽くされており、ウォーウルフにゴブリンライダー、オーガやホブゴブリンがランナー達を待っていた。
「まだ結構残ってるね」
『ハイオーガ、ゴブリンジェネラルを確認。注意してください』
アイビスが告げる、上位種の存在。
細かく表示されるアイコンをよく見れば、ハイオーガとゴブリンジェネラルと表示されるアイコンが複数確認できた。
「ハイオーガのエアスラストは要注意だね。じゃあ、仕掛けるよ!」
アスカは一番射程の長いエルジアエを単発モードで構え、前面に構えているウォーウルフへ向け射撃を開始。
相手がアクティブ化しておらず、動かずにいたこともあり初弾は命中。
だが、被弾によりポータル周辺の敵が一斉にアクティブ化し、動き始める。
アスカは進軍を始めた敵に接近。
ピエリスの有効射程圏まで高度を下げ、エルジアエとの二丁もちで最前列のウォーウルフとゴブリンライダーを迎撃する。
海岸線を埋め尽くすほどの数であるため、狙いは付ける必要がない。
到底一人で処理しきれる数ではないが、それでも多少の数は減らすことは出来る。
こうしてわずかに数を減らした敵機動戦力とこちらの前衛が衝突する。
《犬っコロが! 目にもの見せてくれる!》
《ダメージとキルポイントの稼ぎ時だ!》
《マジックは連中の足を狙え! 機動力をそぐんだ!》
乱戦が始まると、アスカは高度を取り旋回。
敵陣に籠るスペルキャスターとガンナーを攻撃。
「味方の邪魔はさせないよ!」
アスカはこの戦場においては撃破よりもハラスメント攻撃を優先する。
ピエリスに取り付けたグレネードランチャーと各種ハンドグレネードを使い、航空爆撃を敢行。
これにより敵の支援攻撃を妨害し、味方の損害を抑えるのが目的だ。
同じことを考えているランナーが複数いるようで、味方が布陣している位置から銃による遠距離射撃や魔法攻撃も飛んできている。
『注意。残りMP二〇%です』
「もう? 戦闘機動だから減りが早いね」
『MPポーションはまだ使用していません。使用しますか?』
「ううん、ポータル落とすのにはまだ時間がかかりそうだし、チャーリーに一旦補給に戻ろう」
いかに豊富なMP総量を持つとは言っても、無限ではない。
アスカは地上に戦線離脱の一報を入れた後、旋回を行いチャーリーへ向かって飛行する。
上陸地点ホテルとチャーリーは海を挟んでいるため直線距離であっても結構な距離だ。
だがそこは空を飛ぶフライトアーマー。
それほど時間をかけることなくチャーリーに帰還すると、上空旋回でMPを満タンまで回復させすぐさま戦線へとんぼ返り。
帰還した最前線ではランナー達有利に進んでいた。
前衛はすでにウォーウルフやゴブリンライダーといった機動戦力を掃討し、ポータル前に陣取ったホブゴブリンやオーガらと戦闘している。
すでにハイオーガやゴブリンジェネラルといった上位種もアクティブ化しており、あちらこちらでランナー達との激戦を繰り広げていた。
「こう乱戦になると援護射撃も難しくなっちゃうね。先にポータル破壊しちゃおっか」
『ポータルを優先的に破壊しても敵に再奪取される可能性が高いです。最低でも敵の上位種を掃討してからが良いでしょう』
「なるほど。じゃあ、上位種と対峙してる味方の少ない所の支援が良いかな」
周辺を見渡し、苦戦している味方のフォローに入る。
ターゲットはゴブリンジェネラルの一団。
ゴブリンジェネラルはゴブリンらしい緑の体だが、体格はオーク並み。
装備も革鎧に金砕棒と、ステータスを攻撃に全振りしたような姿をしている。
ランナー達も善戦してはいるが、ジェネラルの高い攻撃力と随伴しているエグゾアーマー装備のホブゴブリン、後方にいる複数のスペルキャスター等に苦戦し決定打を与えられないでいた。
「まずはスペルキャスターを落とすよ!」
アスカはピエリスを構え射撃を開始。
弾幕を形成し、スペルキャスターの詠唱を妨害。
さらに接近したところでグレネードを打ち込み、無力化させる。
エグゾアーマー装備のホブゴブリンに対しては火力のあるエルジアエを使ってダメージを稼ぎ、スタングレネードを投下。
ゴブリン達がスタンしたのを確認して地上のランナー達が攻勢に出る。
未だ足元がおぼつかないホブゴブリンにはストライカーが致命の一撃を入れ、体格の大きなゴブリンジェネラルはマジックやスナイパーが中、遠距離から狙撃する。
アスカには生き残ったスペルキャスターから対空魔法攻撃が放たれるが、無誘導で弾速の遅い魔法攻撃は余裕で回避できる。
むしろ、こっちを狙った分地上が楽になるだけに、もっと撃ってこいとばかりに主翼を振って挑発してゆく。
挑発に乗ったスペルキャスター達は当たらない魔法攻撃を繰り返し、上を見上げ隙だらけになった本体へ向け他のランナー達が攻撃を入れとどめを刺す。
気が付けばゴブリンジェネラルの他、周囲の上位種も軒並み倒されており、地上のあちらこちらからは勝どきが上がっていた。
《上空のフライトアーマー、助かった》
《支援感謝するわ》
「上位種もあらかた片付きました。ポータルへ向かってください」
《分かったわ》
こうして上陸地点ホテルはアスカの航空支援の甲斐もあり、ポータルの破壊に成功したのだった。
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皆様の応援で活力を貰っております!
膠着した泥沼の戦場に颯爽と現れるフライトアーマー。他のランナー達は度肝を抜かれたでしょうね~。
第20話 DAY1出撃 アスカ発艦シーンが漫画になりました!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1346294548423610368
迫力満点のカタパルト発艦、ぜひご覧ください!
あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまり種子島宇宙センターから打ち上げられます。




