19 DAY1開かれた戦端
二話目更新。
本日はもう一話更新予定です。
2/3。
『オペレーション・スキップショット』上陸地点、アルファ。
アルファはイベント開始前に島全体の様子が公開されていた場所で、ナインステイツ西方攻略の足掛かりとするための拠点とする島。
上陸地点は砂浜だが、上陸地点が閑散としていたブラボー地点とは違い、イベント開始の上陸と同時にゴブリンの熱烈歓迎を受けることになる。
だが、初期モンスターであるゴブリンではイベントに準備万端で挑むランナー達にとって準備運動程度のもの。
上陸数五万という圧倒的数の暴力ですぐさま掃討されていた。
「よし、ポータルを破壊した! これでポータルを使えるぞ!」
「手の空いてるものはここに拠点作るぞ! 手伝え!」
<アルファ地点のポータルを確保しました。上陸ポイント、デルタが解放されました。攻略には再度揚陸艦に乗船してください>
ブラボーと同様、ポータルを確保した後、後方支援を行うドワーフのNPC部隊が上陸。
トランスポートを装備したランナー達とともに簡易拠点を構築して行く。
ここでランナー達の動きは次のポイントを目指し揚陸艦に乗船する者、島にある山を探索する者、拠点を建築する者の三つに分かれることになる。
大多数は次のポイントを目指し再び揚陸艦に乗船して行く中、上陸した砂浜で次の動きを検討しているランナー達の中にメラーナ、ラゴ、カルブの三人の姿があった。
「あまり手ごたえがなかったね」
「ゴブリン相手じゃラゴの近接攻撃力が勝ちすぎてるからな」
「それより、これからどうするの? この島を調べてみる? それとも船に乗っちゃう?」
彼女たちもイベント開始時刻前にログインし、イベント開始と同時に攻略を開始していた。
メラーナはTierⅡのメディック、カルブもTierⅡのアサルトアーマーを装備、ラゴは変わらずの武者装備だ。
「序盤の島だし、そこまでいいものは落ちてないと思う」
「じゃあ、やっぱり船だな」
「うん。じゃあそれでいきましょう。……ところでさ、このマップの形、どこかで見たことない?」
「マップの形?」
メラーナに言われ、ラゴとカルブはマップを再度確認する。
今判明しているのはアルファとブラボー、チャーリー、三つの島の全体図と、新しくマップの西のはずれに出現した上陸地点デルタの周辺のみ。
依然大部分が未踏破地域、グレーで覆われており、ホクトベイ全体の様子は分からない。
そのマップを見て、顔をしかめる二人。
「……いや、これだけじゃわからないだろ?」
「そうかなぁ……なーんか見覚えがあるんだよねぇ」
「あんたもそう思うと?」
「えっ?」
後ろから急に声を掛けられ、驚くメラーナ。
振り返ると、そこには一人のランナーが立っていた。
「うちもなーんか見覚えがあるっちゃん。この島の形、位置……ん~どこやったやろか?」
「あの、あなたは?」
「え? あぁ、ごめん、自己紹介しとらんやった! うちはホロ。よろしゅうね」
ホロと名乗ったのは灰色の目をし、ボブカットの銀髪を靡かせた小柄な少女だった。
「私は、メラーナ。こっちが友達のカルブとラゴよ。マップも気になるんだけど、そのエグゾアーマーは?」
「エグゾアーマー? 見た通り、アサルトアーマーばい!」
ホロは見た通りと返すが、メラーナ達は首を傾げる。
彼女の装備しているアーマーは一般的なアサルトアーマーとは違い、腕が四本あったのだ。
正確には、自分の腕二本と、パックパックから伸びた二本の機械腕の計四本。
機械腕には通常のアーマーでは持てないであろう大型の両手槌がしっかりと握られ、敵対するものすべてを叩き潰さんとする威圧感を放っている。
逆に体の方は軽装であり、自身の腕と胸部、腰部には重要部位を覆うほどの装甲しかない。
その分、脚部はかなりしっかりしていて大型武器を使いまわせるだけの剛性は持っていることを窺わせている。
最大の問題は小柄なホロがそのアーマーを装備していることだろう。
一四〇cmほどであろう彼女はお嬢様学校の制服のような服に身を包み、その背面から腕が出ている光景はどう見ても小学生のランドセルから腕が伸びているようにしか見えないのだ。
「僕と同じポイントボーナスのプレミアムアーマーだね」
「あれが?」
「意外と人気だよ? 見た目はちょっとあれだけど、ほぼ全ての武器が使用できて、耐久性もある」
「あ~たしかに、ザ・パワードスーツって感じだものな」
「私はチマチマしたことは好かんとよ。こうガーッといってダーッとやっちゃった方が性にあっとーと!」
「それでホロちゃん、このマップ、見覚えある?」
「ちゃん呼びはこそばゆかけん、ホロでよかよ! で、このマップなんやけどな~んか見覚えがあるっちゃんねぇ……でも、これだけやと……」
「そっか」
「メラーナ、とりあえず次に行こうぜ。船出ちゃうよ」
二人の会話を遮ってカルブが乗船を促す。
ここに接岸した揚陸艦の半数はすでに出港し、次のポイントであるデルタ地点へ向け移動を開始してる。
基本は満員になり次第出航だが、それ以外では一〇分毎の出発になるらしく、ここでもたもたしていたら足止めを食らってしまう。
「うん、今行く!」
「あ、一緒に行ってもよか? 私もデルタ地点に行くっちゃん」
「いいよ。一緒にいこう!」
野良であれ、こういった大型レイドイベントで連携が出来る味方が居てくれるのはありがたい。
カルブとラゴも彼女がついてくる事には口出しはせず、同行することになった。
再び揚陸艦に乗りこんだメラーナ達はホクトベイ、デルタ地点に向かう。
デルタ地点はアルファ地点から南西に見えていた岬をぐるりとさらに西側に回り込んだ地点。
マップ的にも西の端であり、主戦場とは考えにくいポイントだ。
この地点に上陸したランナー達はそのような立地故、アルファ地点同様大したことないだろう考え勢いよく乗りこんだ。
だが、その目論見は上陸して間もなく音を立てて崩れ去る。
ドガガガガガ
ダン、ダン、ダン、ダン!
すでに周囲では銃撃と魔法攻撃の音が乱れ飛ぶ、まさに戦場といった様相を呈していた。
主な敵はここでもゴブリンなのだが、相手に上位種のホブゴブリンが混ざり、あろうことかこちら同様エグゾアーマーを装備しているのだ。
これだけでも通常マップとは大きく違う上に、魔法を使うスペルキャスター、ウルフに騎乗するゴブリンライダーも存在し、機動力と広範囲攻撃でこちらをかく乱してきている。
これだけでも苦戦必至な状況だというのに、極めつきは拠点ポータルを示すアイコンがある丘から銃撃されているのだ。
上陸地点から拠点ポータルがある丘まではおよそ三〇〇m。
だが、ゴブリン達の抵抗により水際で進行を阻まれていることに加え、丘には木々が生い茂っていてスナイパーを確認できないのだ。
索敵範囲の広いスカウトがいたら観測できたかもしれないが、イベント開始直後からスカウトアーマーを選択する者が少なく、未だ位置を特定できていない。
「くそっ、こいつらしぶとい!」
「ホブゴブリンめっちゃ固ぇ!」
「ゴブリンごときが連携取ってんじゃねぇよ! うわっ」
「丘からの射線を切れ! 狙撃されるぞ!」
「こんな何にもない砂浜で、いったいどこに隠れろって言うんだい!」
「トランスポーターの土嚢による陣地構築ってこういう事か運営いぃぃ!」
「一人やられた!誰か丘のスナイパーを捕捉しろ!」
戦況が混沌とする中、メラーナ達は奮戦していた。
カルブが前線を張り、ラゴが遊撃として攻撃を入れ、メラーナがそれを支援する。
「うちだってやっちゃるけんねー!」
そしてさっき知り合ったばかりのホロとの連携が想像以上にうまく取れていた。
彼女のプレイスタイルはアサルトアーマーの装甲と火力を生かした『強襲』。
これにより怯んだ敵陣にカルブとラゴが加勢、両手槌故の取り回しの悪さをメラーナがフォローすることでホロの火力を前面に押し出せていたのだ。
だが……。
ドンッ!
「いったぁ!」
「ホロ、下がって! 突出しすぎると狙撃される!」
「俺がカバーしてやっから!」
突出したホロのエグゾアーマーに敵狙撃手からの銃撃が命中。
大きな被弾エフェクトを咲かせる。
すかさずラゴとカルブがフォローに入り、ホロを下げさせる。
「ラゴ、私スカウト装備にする?」
「アーマーの変更は奪取したポータルの周辺じゃないと出来ないんだ。ここだと一旦揚陸艦でアルファまで戻らなきゃ……」
「ねーちゃんは? 空からなら索敵なんて簡単だろ!?」
「そうだ、アスカさん……まだログインしてない!」
「こんな時に!」
「アスカさんって誰なん?」
「私たちの恩人で、フライトアーマーの使い手なんです」
「フライトアーマー……もしかして動画ん人?」
「そうだぜ。飛ぶのがめっちゃ上手いんだ。ねーちゃんさえ来てくれたら、丘の敵たちなんて丸裸だ」
メラーナ達もアスカとの小隊で航空支援のありがたさは身に染みている。
そしてアスカと連携を取るために、メラーナはメディックアーマーに通信用アンテナを装備している。
空からの支援さえあれば打開する糸口を見つけられそうだが、ログインしていないのではどうしようもない。
「なるほど。なら、そん人が来るまで耐えればいいっちゃね」
「アスカお姉さん、今日はログインするんだよね?」
「うん。用事を済ませたらすぐに入るって……」
「よっしゃ、ならそれまで耐えようぜ。死ななきゃいいだけの話だし、ポイントも稼げるし」
「……そう、だね。うん!」
一度下がり、ホロのHPを回復させたのち、彼女たちは再び銃弾飛び交う戦場の中へ飛び込んでゆく。
アスカがログインする、その時を待ちながら。
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ホクトベイ東側、最初の上陸地点チャーリーを確保したランナー達は、西側と同じく新しく発生した上陸地点ホテルを攻略していた。
上陸地点ホテルはデルタとは逆のマップ東端に位置しているが、違いとしてデルタがマップ西部中央なのに対しこちらは東部上端だ。
周囲は終わりが見えない海岸線。
そこに所狭しと並んだモンスター達がよそ者、ランナー達を銃撃と魔法攻撃による熱烈歓迎で出迎えてくれていた。
熱烈な歓迎には熱い銃弾でお返しするといわんばかりに応射するランナー達。
海岸線は揚陸艦到着後数分で銃撃、砲撃、剣戟、弾着、爆発音が入り乱れる、戦争映画さながら泥沼の戦場と化していた。
「くそ、簡単に攻略させるつもりはないってか!」
「突出すると集中砲火されるぞ! アサルトを盾にして押し込め!」
「通常マップじゃスペルキャスターなんていなかったぞ!」
「おいお前、その装備で前に出るんじゃ……いわんこっちゃない、メディック、メディーーーック!」
ホテル地点はなだらかな海岸線が続く地形であり、丘の上から狙撃されるという事はなかった。
その代わり盛土や塹壕といった防御陣地が形成されており、そこからゴブリンガンナーやスペルキャスターが遠距離攻撃を行い、前線はエグゾアーマー装備のホブゴブリンとゴブリンライダーが固め、それに少数のオーガが加わってランナー達の上陸を阻止しようとしている。
「くそ、弾切れだ。そこのトランスポーター、弾はあるか?」
「全種類そろえてますよ。種類は?」
「5.56mmだ」
「数は?」
「あるだけ頼む」
「支給品で良いですよね。どうぞ」
「すまん、助かる」
インベントリから支給品の弾薬を渡されると、慣れた手つきでリロードを行いそのまま前線に復帰して行く。
そんなランナーを見送るのは、トランスポートアーマーを装備したスコップだ。
彼が装備するトランスポートアーマーはその名の示す通り物資輸送を主としたエグゾアーマーで、背中には大きなコンテナを背負い腕や足の空いたスペースにもコンテナを装備することで大量の荷物を運搬することが出来る。
見た目こそ華奢なエグゾアーマーではあるが、重火器も運搬するため積載可能重量はアサルトアーマーに次いで二位。
ハリネズミのように武装することも出来るが、反面スラスターの出力が低く装甲も薄い為戦闘には不向き。
「予想以上にモンスターの抵抗が厳しいね。こっちとしてはありがたいけど、正面戦闘だけじゃ疲弊するだけか……」
戦闘を行わないスコップには戦場の様子がよく見えていた。
まだイベントが開始されてあまり時間が経っておらず、ランナー達はイケイケの状態なのにもかかわらず、戦況は膠着状態と言っていい。
速攻でポータルをつぶすと言う手もあるが、最初の三ヵ所以外のポータルはこちらが獲得した後、敵に破壊されると再奪取されてしまう。
その為ある程度は周囲の敵を掃討しなければならない。
もっとも、現状では構築された敵陣地を突破できず、ポータルのみの破壊ですら困難だ。
ドガガガガガガガガガガガガ!
スコップの後方から聞こえてきたのは機関銃の銃声。
射撃元は揚陸艦の甲板。
どうやらスナイパーアーマーの誰かが上陸せずに揚陸艦に陣取り、支援射撃を行っているようだ。
高さのある揚陸艦からの射撃は極めて有効で、敵陣後方のスペルキャスターやガンナーを光の粒子に変えて行く。
「おっ、後方からの攻撃が止んだね。これならいけるかな?」
後方からの攻撃が薄くなった一角に味方が流れ込み、敵陣を食い破り始める。
揚陸艦からの支援射撃はなおも続き、一つ、また一つと突破口を開いて行く。
「そこのトランスポーター、ポーションはあるか?」
「こっちも銃弾を頼む」
「はいはーい、お任せください!」
味方の攻勢が激しくなると同時に補給を受けるランナーも増え始める。
スコップはここがサプライポイントの稼ぎどころとばかりに、物資を渡していった。
「これで前線も押し上げられるでしょ」
人気の少ない揚陸艦の甲板で、ロビンは一人呟いていた。
手持ちの弾薬を打ち尽くした機関銃の銃身からは排熱の白い蒸気が立ち上り、銃撃が如何に激しかったかを物語る。
ロビンはイベントにそこまで興味があったわけではない。
だが、せっかくなので雰囲気くらいは味わおうと見晴らしの良いこの場所に陣取っていたのだ。
結果的にその場所は最高の射撃ポイントであり、銃撃されるとは思ってもいない敵陣後方のモンスター達を一方的に銃撃することが出来た。
「せっかくだから、私ももう少し稼がせてもらおうかしらね」
手持ちの武器を機関銃からスナイパーライフルに持ち替え、さらに後方のモンスターを狙撃して行く。
「見る限り、こちらが観測できていない奥の方にも相当数のモンスターがいるみたい。……ふふ、早くいらっしゃいアスカちゃん。貴方を楽しませるステージはもう出来上っているわよ」
ライフルのスコープの向こうに見るのはこちらの索敵範囲外にいるゴブリンやオーガの上位種。
それらはまだアクティブ化はしておらず、自分の出番を今や遅しと待っているかのようだ。
そんなモンスター達を見てロビンは妖しく微笑む。
前線を張るランナー達にスカウトアーマーは少なく、空を飛ぶ味方も敵も皆無。
そんなところに広範囲の索敵が出来、航空支援も可能なフライトアーマーが現れたらどうなるのか?
ロビンは唯一それが行える可愛らしいランナーの姿を思い浮かべながら、スナイパーライフルのトリガーを引いた。
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主人公参戦までもうしばしお待ちください。




