18 DAY1上陸作戦、開始
本日一話目更新。
今日も三話更新予定です。
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『Blue Planet Online』の記念すべき第一回大型レイドイベント『オペレーション・スキップショット』。
深夜二時から開始され、全一二時間を要したアップデートが終了し、イベントに参加するランナー達は皆集合場所であるバゼル港の港に集まっていた。
「凄い人の数だな」
「そりゃあ初のイベントで、お盆休み中だし」
「ねぇ、港に泊まってる軍艦みたいなのは何かしら?」
「ありゃあ揚陸艦だな」
「上陸作戦だから揚陸艦なのか。転移でパッと行くんじゃないんだな」
行列を作りながら歩いて行くランナーたちの頭上にはナビゲーションアイコンが浮かび、『イベント参加者はこちら』という案内が出ていた。
その矢印は港だけでは収まらず、街の外まではみ出して停泊する多数の揚陸艦を指している。
「オペレーション・スキップショット参加者は目的の上陸場所に分かれて、順番に船に乗りこんでください!」
艦の傍ではGMらしき人が即席の監視台に上り、声を上げて誘導を行っていた。
「アルファ地点への参加者はこちら、ブラボー地点はあちらの船です!定員になり次第出港しますが、船は人数分あり、作戦開始時間まで海上待機です。焦らないでください!」
「お前、どの地点に参加するんだ?」
「俺はアルファ。お前は?」
「チャーリーだ。チャーリー行は……町の外かよ」
イベント開始地点はアルファ、ブラボー、チャーリーの三地点。
わずかに公開されたイベントマップに点で記され、それぞれ西、中央、東にある島に設定されている。
「一隻にかなり入ってるわね」
「これならあんまり待たなくて済むか?」
「イベント開始って一五時からだろ?イベントの説明も船の中でするのかな」
定員になった船から乗船口を閉め、錨を上げて順番に出港して行く。
一隻に五〇〇〇人は入ろうかと言う大型揚陸艦の出港はそれだけでも迫力があるものだった。
そんな出港した船の中の一つ、ブラボー地点行き揚陸艦の中にアルバの姿があった。
彼もこの夏休み期間中『Blue Planet Online』をメインにプレイし、イベント準備も万端にして臨んでいる。
「あら、アルバじゃない。君も同じ地点を選んだんだねぇ」
アルバがβテスト時代からの仲間と談笑している中、声をかけてきたのはフランだった。
「ん? あぁ、フランか。アルファ、チャーリーは全体が見えた島だが、ブラボーは全体がまだ見えてない。攻略するならそこだろう」
「だよねぇ。エグゾアーマーはちゃんと三つ用意した?」
「愚問だな。TierⅢを二つに例のエグゾアーマーも用意してある。お前の方はどうだ?」
「ふふん、ばっちりだよぉ。魔法は火力。まぁ期待しててよ」
ふっ、と鼻で笑うアルバ。
すると、何かに気が付いたように辺りを見渡し、続いてメニューを開いてフレンドリストを確認する。
「……アスカはログインしてないんだな」
「あ~、なんか用事が入ってて遅れちゃうってさ」
「そうか。航空支援があるとまたやりやすいんだがな」
「アーマー作ってもらってたみたいだし、期待しちゃうよねぇ」
アスカの航空支援のありがたさは一緒にプレイしているだけによく理解していた。
イベントにも乗り気であったため、開始直後からその恩恵にあずかれると思っていたが、当てが外れてしまった形だ。
「まぁ、それでもすることに変わりはないか」
「そうそう。アスカが来たら協力してもらえばいいさ」
<お集まりの皆様。この度は『Blue Planet Online』をプレイしていただき、誠にありがとうございます。すでに当艦はイベントマップに進入しておりますが、イベント開始時刻までは上陸地点で船内待機となります。現刻を持ってイベントマップ、およびエグゾアーマー装着を解放いたします。作戦開始までは今しばらくお待ちください>
船内のスピーカーから聞こえてきたアナウンスが終わると、メニューに『イベントマップ』の項目が追加。
同時にエグゾアーマー装着のアイコンが点灯する。
さっそくエグゾアーマーを装着する周りを他所に、アルバとフランはイベントマップを確認する。
「マップの上に三角アイコンと味方の青い点が表示されてるねぇ」
「だが、進み方がかなり遅い。想定通りかなり広いマップのようだな」
マップが解放されたといっても、分かるのは事前に公開されていた三つの島と周辺の海のみ。
それ以外のマップの大部分、未踏破区域はグレーで覆われていた。
グレーで表記された地点はランナーが入り、情報共有を行えば全員に表示されるシステム。
マップの更新もアシストポイントが入るため、狙っているランナーも多いだろう。
「マップは他に任せるとして、私はアタックで稼ぐよぉ」
そう言いってエグゾアーマーを装着するフラン。
彼女がイベント用に用意したアーマーはTierⅢのマジックアーマーをカスタマイズしたものだ。
TierⅠの時と同じくエグゾアーマーで保護されている部分は少なく露出度も高い。
腰からはアーマースカートを下げ、特徴的なマジックユニットは腰から背面へ移動している。
形状もC字型から独特な形状をした板四枚が体に触れることなく空中に浮かび、刻まれた回路のような模様にはTierⅠのアーマーの時同様、淡い光が通っていた。
「ほう、さすがMPポーションで荒稼ぎしただけのことはあるな」
「アスカに倣って増槽多めにしたんだ。これで長期戦での大魔法乱発も大丈夫!」
「なら、俺も負けてられないな」
フランからメインアーマを見せつけられ、負けじとばかりにアルバもアーマーを装着する。
アルバのアーマーは一目で重量級アサルトだと分かるほどがっしりとしたものだ。
頭部、胸部、腰と角ばったアーマーで覆われ、両肩の丸い肩当は手まで伸び、腕全体を保護している。
同時に左手には全身を覆うほどの大盾を、右手にはバズーカを装備。
重量を支える脚部はかなり太く、かつ頑丈に作られている。
その姿は以前戦ったオークキングを彷彿とさせる物だった。
「おぉ、そのエグゾアーマーはもしかして……」
「あぁ、オークキングからの設計図で製作したものだ」
アルバの装備したこのエグゾアーマーはオークキングからドロップした設計図で製作したプレミアムアーマーだ。
プレミアムアーマー製作にはレア鉱石やレア素材、多額のジルが必要になる。
しかし、アルバはイベント対策の切り札としてこのエグゾアーマーを使うために素材を集め、何とか間に合わせたのだ。
「アスカにも見せてやりたかったんだがな」
「ふふ。アスカがイベントに参加してから見せてあげたらいいよぉ。時間はいっぱいあるんだしさ」
「うむ、そうだな」
「アルバ、その可愛らしい女性との話はもういいですか? そろそろ時間ですよ」
「む、もうそんな時間か」
声をかけてきたのはアルバの小隊メンバー。
彼の小隊は全員がβテスターであり、名前が知れ渡っているランナーも居る。
マップで確認すれば、いつの間にか揚陸艦は予定地点の海岸に到着しており、イベント開始時間を待つばかりとなっていた。
周囲には同じようにここを最初の上陸地点にしたランナー達が乗る揚陸艦がいくつも接岸し、船尾にある乗降口が開く準備を整えている。
揚陸艦の大きさを考えれば、本来ならそのまま海岸に接岸すれば座礁してしまうが、そこはゲームゆえのご都合主義。
そして……。
<お待たせいたしました。これより第一回レイドイベント『オペレーション・スキップショット』を開始いたします>
「「「うおおぉぉぉぉぉ!」」」
イベント開始時刻と同時にアナウンスが流れ、乗降口がゆっくりと開いて行く。
それを待ちかねたと言わんばかりに多数のランナー達が揚陸艦から駆け出し、上陸地点ブラボーに乗り込んでゆく。
上陸地点は砂浜、そこから三〇〇mほど平地があり、その先は木が生い茂る山岳になっていた。
ブラボー地点を最初の地点に選んだのは約五万人。
一〇隻の揚陸艦からまず飛び出したのは前衛を務めるアサルト、ストライカー、前衛装備のソルジャー、そしてそれらと小隊を組んでいるスカウト達。
彼らはスラスターを使い一気に上陸し、獲物を求めて島の奥へと消えて行く。
次に中衛を務めるマジック、メディック、中衛装備のソルジャーが続き、最後にスナイパー、トランスポートらが上陸する。
<揚陸艦は一定時間経過後離岸します。通常マップへの帰還は艦に残るか、攻略した拠点ポータルから行ってください>
「拠点ポータルってなんだ?」
「アルファ、ブラボー、チャーリーと名前の付いた地点にあるポータルだよ。最初はモンスターが湧き出るらしいが、一定量攻撃を与えて破壊して俺たちが利用できるようにするんだ」
ブラボー地点の拠点ポータルは上陸地点の目の前。
周囲には敵がほとんどいなかったこともあり、先だって上陸した前衛たちが行きがけの駄賃と言わんばかりにすでに破壊していた。
<上陸地点ブラボーの拠点ポータルを確保しました>
全体アナウンスが告げるポータル確保の報告。
このポータルは解放されると全てのランナーで共有され通常マップへの帰還の他、広大なマップの移動手段としても活用できる。
「資材を持ってるトランスポートはいますか? ポータルの周りに拠点を構築しましょう。まずはここを最初の前線基地にするんです!」
「はい、俺資材持ってきてます!」
「ありがとう、早速頼みます! 資材を持っていない者は森の中から使えそうな素材を集めて来てください!」
「「「はい!」」」
声をあげ、周りをまとめ上げたランナーが指示を出し、仮設テントなどを立て簡易拠点を構築して行く。
こういった拠点設営でもしっかりとサプライポイントは加算され、評価されてゆく。
「ファルク、いつもの事だが、世話をかけるな」
「気にしないで下さいアルバ。島の様子はどうですか?」
「ゴブリンやゴブリンライダーが散発的に現れる程度だ。今のところ問題はない」
上陸と同時に一旦森に入ったアルバだったが、周囲にポイントの稼げそうな敵がおらず不毛な取り合いになり始めた為一度戻ってきたのだ。
アルバが声をかけたのがファルク。
ダークブラウンの髪に茶色の目、尖った耳というエルフのアバターに身を移し、緊急事態に柔軟に対応できるようソルジャーアーマーを装備している。
彼は先ほどアルバと揚陸艦内で話をしていた元βテスターで、別のゲームではギルドマスターなども行った事もある統率力のあるランナーだ。
こういった大型レイドでの攻略ポイントは理解している。
「まだスタート直後ですからね。それほど強力な奴は出てこないでしょう。最初の関門は島の中央部から反対側かと」
「島の中央付近は敵も少なかったし、ポータルがある様子もなかった。反対側だろうな」
そうして二人が話し込む中、新しい揚陸艦が到着する。
だが、その艦はアルバ達が乗ってきたものとは形状が違っており、中から出てきたのもランナーではなくNPCだった。
乗員は全員エルフらしいが全員エグゾアーマーを装着し、装備も統一されている。
その中の一人、隊長らしき人がこちらへ駈け寄りるとアルバとファルクに声をかけてくる。
「ここの拠点建築と皆さんの支援の命を受けてきました。無事ブラボー地点は確保されたようですね」
「えぇ。支援ありがとうございます。まだ簡易ですので、協力していただけると助かります」
「こちらは主に陣地防衛と補給を主任務としています。他の二つの地点にも他種族の支援が入りますので、後方支援は我々にお任せください」
「はい、よろしくお願いします」
エルフの支援部隊は運営が用意した拠点構築、防衛、支給品提供用の部隊だ。
同じようにアルファ地点にはドワーフ、チャーリー地点には獣人の部隊が派遣されている。
エルフのNPCたちは揚陸艦の中から資材、物資を下ろし、手際よく拠点を構築して行く。
同時にランナー達へ支給品の供給も開始し、各種ポーション、弾薬を必要数支給する。
「これでこの拠点は機能しますね」
「ふむ、なら俺はそろそろ攻略に戻るとするか」
「僕も行きましょう。エルフの部隊だけでここは大丈夫でしょうし、そろそろ島の反対側が煩くなってきましたからね」
そう言ってファルクは丘の向こう、島の反対側を見る。
先ほどから向こう側から聞こえる銃撃の音と魔法による爆発の音の頻度が増えだしているのだ。
本格的な戦闘が開始されたと思ってよいだろう。
エルフの部隊長にこの場を任せ、拠点構築を担ってくれたランナー達に声をかけた後、アルバとファルク達も参戦するべく島の奥へ向けて歩き出す。
この瞬間が彼らにとってのイベントスタートであるかのように。
新年、あけましておめでとうございます。
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