17 フライトアーマーTierⅡフルカスタム 飛雲
三話目更新!
本日は三話更新となっております。
閲覧順にご注意ください。
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ついに主人公専用機登場。
レイバードの機種訓練を行った翌日。
フランへの魔力草を届けた後、アスカは人が賑わうミッドガル東門に居た。
目的はロビンから改造された翡翠を受け取るため。
昨日ようやくレイバードの離陸が出来るようになった頃にロビンから連絡が入り、今日この時間での受け渡しを打診されたのだ。
「こんにちは、アスカちゃん」
「ロビンさん!」
大勢が行き交う大通りの人込みの中からロビンが現れ、アスカを見つけ声をかけてくる。
その服装も前回工場であった時のツナギではなく、いつものセクシーな服だ。
「ぎりぎりになっちゃったけど、間に合ったわ」
「そんなことないです、用意してもらえただけでもすごく有難いですよ!」
合流した二人は人を避けながら東門から外に出ると、平原を人気が無くなるところまで移動した。
「じゃあ、さっそく渡すわね。代金が一〇万ジルになるけど、大丈夫?」
「はい、昨日聞いていたので、しっかり用意してきました」
この一〇万ジルと言う金額は、フルカスタムTierⅡの製作料としてはほぼ最安値。
アスカはロビンからの必要とされた素材はすべて納品済みであり、代金の内訳のほとんどはロビンに対する技術料だ。
それ以外も原石をインゴット化するための手数料が多少ある程度。
アスカは目の前に表示された一〇万ジルでの取引了承のアイコンをタップ。
所持金から一〇万ジルが引かれ、ロビンからエグゾアーマー一式が送られてくる。
そのエグゾアーマーに付けられた名は『飛雲』。
「飛雲?」
「せっかくのフルカスタムだから、名前をちょっと弄らせてもらったの。この子は翡翠を偵察、観測に特化させた飛雲よ」
「おぉー!」
飛雲とは『風に吹かれて飛んでいく雲』を表す言葉だ。
イベントで主に空を飛びながら敵を観測するにはうってつけの名前だろう。
アスカは乙式三型、翡翠、レイバードの三つですでに埋まっている。
エグゾアーマーガレージから乙式三型を外し、空いた枠に飛雲一式をセットする。
「それじゃあ、装備しますね」
「うん、どうぞ」
ロビンにそう言うと、少し離れ、緊張を落ち着けるように一回深呼吸をする。
そして……。
「装着!」
アスカがそう言い放つと、足元に魔法陣が出現し、アーマーシルエットが表示される。
翡翠がベースになっているならば、そのシルエットも似ているはずだ。
だが、そこに表示されているのはアスカが見慣れた翡翠の物とは大きく違っている。
「こ、これって……」
驚くアスカを他所に、エグゾアーマー装着は確実に進んでゆく。
シルエット表示されたものが順番に実体化。
全てが質量を持ったところで足元の魔法陣が消滅し、アスカは地に足を付ける。
「ロ、ロビンさん、これは……」
「うん、完璧ね」
アスカが身に付けた飛雲を見て、ロビンは満足そうな表情をしていた。
翡翠改め、飛雲。
その形状は元が翡翠とは思えないほどの物だったのだ。
まず、足や腰、胸などのボディアーマーはすらっとした形状からひと回り大きくなり、膝にあった左右のハードポイントからはそれぞれに反り返る角のようなブレードが装備され、左右の腰からは斜め後ろに向かって筒が伸びていたのだ。
肩のアーマーなどそれまでそこにあったものが消滅。
アスカの生肩をこれでもかと言うほどに見せつけている。
これだけでも結構な変化だが、背面のフライトユニットはそれ以上の変化を遂げていた。
エンテ型のような推進型、単発エンジン、テーパー翼でエンジン下に主翼がある低翼型までは同じだが、主翼も大きくなり、その主翼左右翼端には先端が丸くなった円柱形のポッドが付いている。
エンジン先端のプロペラは四枚羽一枚から二枚に、垂直尾翼も一枚だけだったものが、エンジン脇左右から角度を付けての二枚に増加している。
ARMOR フライト
頭部 飛雲 TIerⅡ
胸部 飛雲 TierⅡ (MP+50)
腕部 飛雲 TierⅡ (MP+80)
ハードポイント1 エルジアエ TierⅢ
ハードポイント2 ピエリス TierⅡ
腰部 飛雲 TierⅡ
ハードポイント1 なし
ハードポイント2 増槽+75
ハードポイント3 増槽+75
脚部 飛雲 TierⅡ (MP+80)
ハードポイント3 センサーブレード
ハードポイント4 増槽+70
背部 飛雲 TierⅡ (MP+100)
ハードポイント1 増槽+50
ハードポイント2 増槽+50
ハードポイント3 センサーポッド
ハードポイント4 センサーポッド
動力結晶 動力結晶 TierⅢ 178
アクセサリー1 シルバーリング MP+3%
アクセサリー2 シルバーピアス MP+2%
アクセサリー3 アメジストネックレス MP+5%
スキル MP+100
アクセサリ上昇10%(MP+90)
HP 750/750
MP 998/998
物理攻撃力 145
魔法攻撃力 980
対物理防御 105
対魔法防御 114
機動性 1150
安定性 154
移動速度 41
能力値も翡翠とは比べ物にならず、むしろTierⅢレイバードをも凌ぐほど。
「どう? 気に入ってもらえたかしら」
「はい、すごいです! 肩のアーマーが無くなってるのにMPとか凄いことになってますし、これ一体どうなってるんですか!?」
「ふふ、じゃあ説明しましょうか」
想像以上のアーマーの出来に、ただただ驚き、喜ぶアスカ。
そんなアスカを見て、ロビンも作った甲斐があったと上機嫌。
「まず肩のアーマーなのだけど、あれ邪魔になってなかったかしら?」
「そうです! 結構邪魔でした!」
可動部である肩を護るショルダーアーマーだが、有視界で飛行しバンク角を付けながら地上を見るアスカには視界の邪魔になる事が多々あったのだ。
それも飛行時間継続のため取り付けた増槽でより肥大化していたためデフォルトのそれよりさらに悪化していた。
「なので、思い切って取っ払っちゃいました」
「そんな軽く……あ、でもこの(MP+80)と言うのは?」
「フライトアーマー各部についていた増槽をエグゾアーマーと一体になる形に変更したの。コンフォーマルフューエルタンクって言うのだけど、知ってるかしら?」
「はい、それなら知ってます。弟が作ってるプラモデルや航空祭で見たことがあります」
コンフォーマルフューエルタンクとは機体に張り付くような形で取り付けられた増槽の事だ。
専用設計であり、飛行中に切り離すことは出来ないが、コンパクトかつ無駄なく収めることで容量が増加。
空気抵抗も従来の物より減り、機動力低下がより抑えられている。
翡翠では足に付けていた増槽がアーマーと一体化、胸部アーマーにも追加されMPを内蔵している。
「増槽自体が空間装甲の扱いになるから、防御力も向上したの。あと主翼ね。これも中身が空っぽだったから、そこに燃料タンクを増設」
「ステータス、TierⅡの横にある(MP+100)って言うのは内部にある燃料タンクなんですね」
「そうよ。腕部のショルダーアーマーはオミットしたけど、二の腕が空いていたから部位の保護と燃料増加の為にサークレット状のタンクにしたわ」
言われてみれば、飛雲の二の腕には翡翠の時にはなかったサークレットのアーマーが取り付けられていた。
形状から外すことは出来なさそうなので、これがロビンの言う腕部のコンフォーマルフューエルタンクなのだろう。
「あとはその膝にあるセンサーブレード。片方は正真正銘センサーだけど、もう片方は増槽なの」
「見た目がそっくりですね」
「空気抵抗や重量バランスがあるからね」
この片足にセンサーを付け、もう片方に増槽を付ける形は、アスカの『片足にウェイトを乗せてバランスを取る』と言う言葉がヒントになっているという。
重量物を乗せるだけではただのデッドウェイトだが、増槽にするのであれば話は別。
形状の自由もある程度きく為、センサーブレードと形状、重量を合わせたものを作り上げたのだ。
「私の思い付きだけでそこまで……すごいです」
「アスカちゃんの発想があってこそよ。試しに作ってみたらこれ以上ない結果になったわ」
「でもロビンさん、主翼の翼端にもセンサーポッドついてますよね。これは?」
「それはアスカちゃんから見て前後を観測するためのセンサーよ。センサーブレードで見るのは地上だけ。同じ上空にいる敵はその翼端のポッドで観測するの」
「まさに観測機ですね。翡翠のエンジンだと翼重量過多になりませんでした?」
「もちろん、初期のエンジンだとこんなに燃料タンクやらセンサーやらは積めないわ」
「え? という事は……」
「エンジンが新規製作に近いものになってるの。希少素材をこれでもかとつぎ込んだ私の自信作よ」
この原型が何だったのかわからないほどの改造と重量増加を可能にさせたのが、ロビンが製造したこの特注エンジンだ。
鋳鉄製だったエンジンをアルミニウム合金製に変更。
アルミとゲームオリジナルの鉱石を混ぜ合わせた特殊合金を使用することで、軽量、強靭、信頼性の高いエンジンが完成した。
さらに冷却を空冷から液冷にし、内部もボアアップする等手を加え、大幅な出力アップを実現。
倍増した強大な出力故に生じる強烈な反トルクを相殺するために採用したのが、この二枚のプロペラだ。
「じゃあ、これは……」
「えぇ、二重反転プロペラよ」
二重反転プロペラは主に高出力プロペラエンジンで採用され、同軸にある二枚のプロペラを相互に逆回転させることで機体がプロペラの回転方向とは逆に流れる動きを相殺、エネルギー効率を上昇させる効果を持つ。
反面、構造が複雑で整備性に難があるという欠点をもつが、『Blue Planet Online』の武器と装備は完成してしまえば後は基本メンテナンスフリー。
製造さえできればあとはエンジン出力の高効率化という利点だけが残るのだ。
「あとはこれね」
「これは……銃のバレルとグレネードランチャー?」
「ピエリスの延長バレルと、そこに追加で取り付けるグレネードランチャー。ちょっと重くなるけど、重量バランスが良くなるからむしろ扱いやすくなるはずよ」
渡されたバレルとグレネードランチャーをさっそくピエリスに取り付け、ステータス画面から確認する。
[武器]ピエリス TierⅡ
種別:PDW
火力:145(+20)
機動:10(+5)
追加兵装:コルト TierⅡ
種別:グレネードランチャー
火力:423
アサルトライフルなどに取り付けられるグレネードランチャー
弾種を変えることで様々な使用法がある
ピエリスのブルパップ形式はトリガーより後ろに機関部と銃床があるため、重量バランスが悪いという欠点を持つ。
銃口の先にバレルを追加するのはアスカの要望であったグレネードランチャーを取り付ける為であるが、同時にバランスを改善させる効果があり、さらに銃身を延長した事で射程距離も伸びている。
「ここまでしてもらっちゃって、本当に良いんですか?」
「いいのよ。私はイベントにはそこまで興味ないし、むしろこんなに面白い製作がさせてもらえて満足してるの」
「でも……」
「お礼がしたいのなら、飛雲でランキングに載るくらい活躍して」
「分かりました。でもロビンさん、なんでここまでしてくれるんですか?」
「ふふ。出来るだけの技術を持っていながら、それを駆使しないなんて勿体ないとは思わない?」
アスカの問いに笑って答えるロビン。その笑顔はとても艶美なものだった。
「最後に、アスカちゃんからは見難いと思うけど、垂直尾翼にちゃんとパーソナルマークも入ってるわ」
「えっ?」
身をひるがえして、垂直尾翼に描かれているパーソナルマークを確認しようとするが、主翼やその他アーマーが邪魔になって確認できない。
それならとステータス画面のモデルからマークを確認。
そこには数輪のリコリスと羽を広げて飛んでいる朱鷺が描かれていた。
「うわぁ、すごくいいマークですね!」
「ゲーム内のイラストショップで描いてもらったわ。私も気に入ってるの」
パーソナルマークについてはアスカもショップで探してはみたが、リコリスが描かれたものは見つからなかった。
その時ロビンから『良いものを描いてもらった』とメールを貰ったのだ。
そのデザインは『フライトアーマーが完成した時のお楽しみ』と言われ秘密にされていたのだが、予想以上の出来の良さに一目で気に入ってしまった。
「じゃあ、さっそく飛んでみて。各部の最終確認をしないとね」
「はい!」
アーマーの細かい仕様を教えてもらったアスカはその後、時間の許す限り試験飛行と訓練を行った。
センサー類の使い方もロビンにレクチャーしてもらい、その日のうちに習熟。
イベント前日となった翌日もレイバードと飛雲の飛行訓練、MPポーション調合を行い、準備万端でイベント当日を迎えたのであった。
フルカスタムフライトアーマー『飛雲』
元ネタは戦時中日本が航空機に付けていた命名基準。
雲は偵察機を表していた。
「我ニ追イツク敵機無シ」のエピソードを持つ『彩雲』が有名。
形状としてはF/A-18の主翼、F-35の垂直尾翼。
これに震電のようなエンジンに二重反転プロペラを持つ。
膝のセンサーブレードと増槽はエス〇バリス空戦フレーム、ないしメガ〇デバイスSOLラプターの膝が近い。
見た目こそ元になった翡翠に似てはいるが、中身はまったくの別物。
F-16とF-2レベルの違いがある。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます。
皆様のおかげて日間ランキング1位と言う素晴らしい結果で一年を締めくくることが出来ました。
来年も『空を夢見た少女はゲームの世界で空を飛ぶ』をどうぞよろしくお願いいたします。
私も今日が仕事納め。ゆっくり休んで明日の仕事初めに備えたいと思います。……あれ?
それでは皆様、よいお年を!
 




