16 フライトアーマーTierⅢ レイバード
二話目更新です。
本日は三話更新となっております。
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すべての元凶。
ロビンに鉱石を渡した翌日。
アスカは再びダイクのお店を訪れていた。
相変わらず人の少ない店内の先のカウンターでは、ダイクが暇そうに欠伸をしながら座っている。
「おう嬢ちゃん。今日はどうした?」
「ダイクさん、レイバードの方はどうですか?」
「おぉ、あれか。出来てるぜ」
眠そうにしていたダイクだが、レイバードと聞いて顔が急に引き締まり、ニヤリと笑う。
フライトアーマーTierⅢレイバードは数日前に製作発注していた。
ハイオーガ戦である程度溜まっていたことに加え、連日の採掘場での戦闘、フライトアーマーでの飛行時間を開発経験値に加算する【フライトアーマー開発経験値増加】のスキル効果により、それほど苦労することなく開発は終了。
あとはレア鉱石集めで大量に確保したボーキサイト、銅鉱石、鉄鉱石などを必要量ダイクに渡すだけだったのだ。
翡翠の改造はロビンが行っているが、レイバードの製作はダイクが請け負っている。
これは単純にロビンが翡翠の改造につきっきりになっているから。
「代金は三〇〇〇〇ジルだ」
「もうちょっと安くは……」
「ならねぇな!」
「ぶぅ……」
前回同様値引き交渉は不可のようだ。
アスカは目の前に出現した購入画面をタップし、確定させる。
<フライトアーマーTierⅢ、レイバードを入手しました>
「嬢ちゃんも知ってると思うが、フライトアーマーは他のエグゾアーマーと違い慣れが要る。作戦決行日まで日にちがねぇが、しっかり訓練しておけよ」
「はい!」
入手した新しいフライトアーマーに興奮気味のアスカ。
さっそくアイビスに空いていたエグゾアーマー三つ目の枠にセットしてもらい、ミッドガルの外に出る。
「よし、装着!」
足元に魔法陣が出現し、初見のアーマーが装着されてゆく。
まずは透明のシルエットが体を覆い、足、両腕、胸部、腰と実体化して行き、最後に今まで以上に特徴的な背面のフライトユニットが実体化する。
「おぉ、ついにこれが来ましたか!」
TierⅢレイバードはこれまでのTierⅠ乙式三型、TierⅡ翡翠とは違い、長細い樽型のエンジンを左右の楕円翼に一つずつ搭載していた。
エンジンにはプロペラは付いておらず、ぽっかりと穴が空き、穴の中心に目玉のような突起が付いている。
そう、このエンジンはレシプロではなくジェットエンジンなのだ。
「ジェットになったのはいいけど、これちょっと重い……それにエグゾアーマーもそんなにかっこよくない……」
TierⅡ翡翠は洗練された流線型のデザインだったが、TierⅢレイバードはどこか試作機のような形状であり、腰や胸など所々角ばった形状をしている。
特に背面のフライトユニット、楕円翼と一体化した形の樽型エンジンはかなりの大きさと重量があり、歩くことも難しくなりそうなほどだった。
そして今までと同様にユニットを動かそうとしたのだが……。
「……ん? あ、あれ?」
フライトユニットは今までで言う『巡行形態』の形で実体化している。
だが、そこからピクリとも動かなかった。
「え、え? もしかしてこれ、動かないの?」
『はい。フライトアーマーTierⅢ、レイバードには乙式三型、翡翠に採用されていたフライトユニットの稼働は採用されていません』
「嘘でしょう!?」
フライトアーマーの強みは何といっても飛行による機動力だ。
それも高速・巡行・攻撃と速度域に合わせて形態を変えることで飛行に幅を持たせている。
乙式三型、翡翠とその仕様に慣れ切っているアスカにとって、バリエーションが無くなることは死活問題だ。
そのステータスは……。
ARMOR フライト
頭部 なし
胸部 レイバード TierⅢ
ハードポイント1 なし
ハードポイント2 なし
腕部 レイバード TierⅢ
ハードポイント1 エルジアエ TierⅢ
ハードポイント2 ピエリス TierⅡ
ハードポイント3 増槽+25
ハードポイント4 増槽+25
腰部 レイバード TierⅢ
ハードポイント1 なし
ハードポイント2 増槽+25
ハードポイント3 増槽+25
脚部 レイバード TierⅢ
ハードポイント1 増槽+25
ハードポイント2 増槽+25
背部 レイバード TierⅢ
動力結晶 動力結晶 TierⅢ 178
アクセサリー1 シルバーリング MP+3%
アクセサリー2 シルバーピアス MP+2%
アクセサリー3 アメジストネックレス MP+5%
スキル MP+100
アクセサリ上昇10%(42)
HP 750/750
MP 470/470
物理攻撃力 145
魔法攻撃力 980
対物理防御 95
対魔法防御 93
機動性 1450
安定性 250
移動速度 26
翡翠にはあった頭部装備が無くなり、背部フライトユニット主翼部分に大型のジェットエンジンが収まったためハードポイントも消滅。
これによりMP一五〇分の増槽が搭載できなくなりMP最大値は大幅に減少。
能力値自体は順当に上昇しているが、移動速度は大幅に低下。
歩くこともままならないことを如実に表していた。
「と、とりあえず飛んでみよう! ジェットエンジンになったんだから、飛行形態変えなくても大丈夫になってるのかも!」
想定外の仕様に困惑する中、まずは飛んでみようと背中のジェットエンジンに始動を促す。
ヒュォォォォオオオオオオン……。
「お、かかったかかった」
ヒュイイイィィィィィィィン……。
「よしよし、それじゃあ行くよ」
シュゴオオオォォォ!
エンジン出力を上げ、放たれる推力に押されるように走り出す。
今まで何度も行ってきた離陸のプロセスだが、そこは初めてのTierⅢフライトアーマー、レイバード。
今までとは勝手が違っていた。
「は、速い速い速い!」
今までとは比べ物にならない速度で平原を疾走して行くアスカ。
レシプロからジェットになった事で推進力は飛躍的に向上しているのは間違いない。
だが、問題はその重さとバランスの悪さ。
離陸するためにはまず主翼を地面に対して平行にしなければならないが、レイバードの主翼は体に対して四五度付近で固定されており、それを水平にするにはアスカ自身が前のめりになるしかない。
しかし、その重さ故姿勢を維持するだけでも重労働である上、人が出せる以上の速度で走り抜けるのは困難を極めた。
バランスを崩し、足がもつれて倒れそうになるのを何とか耐えながら、エンジン出力を上げ離陸の為の速度を稼ぐ。
「ちょっと、これいつ離陸できるの!?」
乙式三型や翡翠では離陸していた距離をとうに超えた距離を疾走しているにもかかわらず、レイバードは飛行するための浮力を得られていない。
ここまで離陸に距離が必要だという事も完全に想定外。
さらに悪いことに目の前には小高い丘が迫ってきている。
「あ、あがれあがれ、あがれぇ!」
ゴオオオォォォォォ!
迫りくる丘を怖がってエンジン出力を下げれば、回避するどころか止まり切れず突っ込むことは必至。
アスカはさらに出力を上げ、丘に到達する前に離陸することを選択。
さらにエンジン出力を上げ、加速する。
フワッ。
「よしあがった!」
丘まであと十数メートルの位置で何とか離陸。
アスカはそのまま上昇して丘を避けようとする。
だが……。
「思ったより上昇しない!」
ドンッ!
「きゃああぁぁぁぁぁ!」
アスカのイメージは乙式三型と翡翠の軽量機敏、かつ俊敏な反応だ。
しかし、レイバードはその重量故その二つほど機敏には動けない。
結果、上昇曲線と目測を誤り丘に足を引っかけ墜落。土埃を上げながら地面を転がって行く。
『墜落ダメージ甚大。残りHP二三五。……大丈夫ですか、アスカ?』
「むぅ……なんなのよ、この子……」
『レイバードはエンジンこそジェットエンジンになりましたが、大型エンジンの重量故、今までの二つのフライトアーマーとは特性が大きく異なります』
「それ……早く言ってよぉ……」
世界が上下逆さまになった視界の中、泥だらけになったアスカはアイビスの問いに力なく答えるのだった。
実はこのフライトアーマーTierⅢレイバードこそ、βテスター達がフライトアーマーを『欠陥品』と下した元凶である。
乙式三型、翡翠とトラウマを抱えそうなほどの訓練をすれば何とか飛行できるようにはなったβテスター達を絶望の底に突き落としたのがこのレイバードだったのだ。
それまでふらふらとしか飛行できなかった者たちは離陸することすらできず、かろうじて飛行できた者もこの鈍い機体反応速度は如何ともしがたく、激突、墜落を繰り返した。
そして一番致命的だったのが……。
「……アイビス、なんかMPがものすごく減ってるんだけど」
『ジェットエンジンの消費MPは毎秒三です』
「嘘だと言ってよ、アイビス……」
『残念ですが』
「あんまりだよ、こんなのってないよ……」
そう、レイバードのジェットエンジンはそれまで毎秒一だったMP消費量が毎秒三に激増しているのだ。
この消費量はMP特化仕様のアスカでさえ二分半程度しか飛行できないほどの燃費の悪さ。
いろいろなアーマーを試し、MP特化となっていなかったβテスター達のMP総量では一分程度の飛行しかできなかった。
さらに、TierⅢ以降のフライトアーマーツリーはジェットエンジンが主流であり、MP消費が同等か悪化して行くことだけは確実。
とてもではないが主戦力として使用するのは無理と言う結論に至ったのだ。
他のランナーであればフライトアーマー以外のツリーを進めるだけで済む話だが、フライトアーマー以外に興味のないアスカにとっては大問題。
イベントにも使う予定の物であり、そうやすやすと断念することなど出来ない。
「とりあえず、まともに飛行できるようにしないとね」
墜落ならゲームを始めたときから繰り返している。多少使い勝手が悪くなった程度で諦めるアスカではない。
体についた泥を叩き落としながら立ち上がり、キッと顔を引き締めなおす。
「よし、もう一度行くよ!」
その日、アスカは時間が許す限りレイバードの飛行訓練を行い、オーバーランと墜落死を繰り返しながらもなんとか飛行することに成功するのだった。
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本日はもう一話更新しますのでお楽しみに!




