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14 セクシャルハラスメント

本日二話目更新です。


 ピエリスの試射を終えたアスカは東門のそばで待っていたロビンのそばへ着陸。

 興奮気味にその成果を報告していた。


「ピエリス予想以上の出来ですよ! 片手で撃てるし、火力も申し分ないです!」

「ふふ、頑張って作った甲斐があったわ。出来る限り反動を抑えたから、二丁撃ちもできたでしょう?」

「はい、ばっちりでした!」


 笑顔でサムズアップし、ロビンに答える。

 満足そうな表情に、ロビンもつい頬が緩んでしまう。


「じゃあ、次はセンサーね」

「はい!」


 ロビンがアスカに渡したのは一つの腰装備。

 試作とあって、TierⅠの乙式三型の物だ。


 装備やアイテムの譲渡は直接の手渡しではなく、目の前に表示されるウィンドウ画面で行う。

 つまり、実物の形状はメニュー、エグゾアーマーの画面からでないと確認できない。


 装備を受け取ったアスカは一度アーマーを解除し、アイビスに装備変更を依頼した。

 無論、どのような形状をしているか確認もしないまま。


「じゃあ、装備しますね」

『……アスカ、よろしいのですか?』

「え、どうして? 何か問題が?」

『いえ。アスカが良いのでしたら、問題ありません』

「? ……変なアイビス。いくよ、装着」


 何故かアイビスが装着の確認をしてくるが、アスカはその意味が分からずそのままエグゾアーマーを装着する。

 いつものようにアスカの足元に魔法陣が出現すると同時に、アスカの体がふわりと空中に浮かびエグゾアーマーを形成するシルエットが表示されてゆく。


「……え?」


 アスカがその事に気付いたのはそのアーマーシルエットが表示された瞬間。

 正面を向いているその目の前に、今まではなかったアーマーシルエットが表示されたのだ。


「え、これ、なに?」


 目の前に表示されたのはブレードのようなシルエットであり、視線を落とせば先ほど装備を変更した腰装備、その股間から伸びていた。


「ちょ、ちょっとまって!」


 焦るアスカだが、無情にもアーマーは実体化シークエンスを続行。

 両手、両足が実体化し、続いて頭部、胸部、背面、そして……。


「ぎやあああぁぁぁぁぁ!!!!」


 腰部が実体化すると同時に、アスカは女の子が上げてはいけない声で悲鳴をあげ、顔を真っ赤にしてその場に蹲ってしまった。


 ロビンが渡した腰装備には確かにセンサーユニットが取り付けられていたのだが、それは股部を基幹とし、上方に向かって傾斜した一mほどの長さを持つセンサーブレードだったのだ。


 しかし単純に考えて股間から上方に反り立つツノは、全ての男性が持つ『アレ』を彷彿とさせる。

 そして、その『アレ』が今アスカの股間から生えている状況。


 この羞恥に耐えられるアスカではなく、顔を真っ赤にし涙目になりながら訴える。


「ロビンさん、なんですかこれぇ!」

「なにって、センサーユニットよ? 軽量広範囲、それでいて……」

「そんなことじゃありません! 消して! 今すぐこれ消してください!」


 悲鳴にも似た声で泣き叫ぶアスカ。

 必死に訴えるも、ロビンは首を傾げ、イマイチ要領を得ていない。

 そんな羞恥の極限に居るアスカを助けたのは優秀なAIアイビス。


『エグゾアーマーを解除しますか?』

「そ、そうだ、解除すればいいんだ! 解除! アーマー解除!」


 必死なその声に答えるように、蹲るアスカの下に魔法陣が現れ、エグゾアーマーを解除して行く。

 魔法陣が消え、ようやく股間の異物から解放されたアスカは息絶え絶え。涙目になりながらロビンに食って掛かった。


「何するんですかロビンさん! セクハラですよ!?」

「え、気に入らなかったかしら?」

「気にいる、気に入らないの問題じゃありません! 股にあんなもの装備するくらいならイベントに参加しない方がましです!」

「でも、股は体の中心線になるから、バランスを崩さないし、空力的にも最適な場所よ?」

「それでも股は駄目です!」

『ロビン、女性にあの装備はセクシャルコードに抵触する恐れがあります。センサー位置を変更してください』

「あらあら、アイビスちゃんまで。二人から言われたらしょうがないわねぇ……じゃあアイビスちゃん、センサーユニットの位置を腰から膝のハードポイントに変更してくれるかしら?」


 渋々ながらもセンサーユニットの位置変更を了承するロビン。

 アイビスはアスカの了承を得たうえで、股間に装備されていたセンサーユニットを翡翠の脚部ユニット、左足膝のハードポイントにセット。

 なお、腰装備も翡翠に戻している。


「せっかく股間にハードポイント増設したのになぁ」

「ロビンさん、本当に何してるんですか!?」


 『Blue Planet Online』において股間部にハードポイントをもつエグゾアーマーは存在しない。

 その理由はもちろん、こうなることが分かり切っていたからである。


 それでも、作ろうと思えばロビンのようにランナーメイクで作り出すことは可能なのだが、それはセクハラとネタの紙一重。

 実用的とは言い難い。


「ちゃんと意味があって股間にしたのよ。飛んでみればわかるわ」

「?」


 最初はロビンの悪戯かと思ったアスカだが、ロビンの顔は真剣だった。

 その気配から決して悪気があったわけではないのだろうと納得し、再度エグゾアーマーを実体化させる。


「それにしても、かなり大きなセンサーユニットですね」

「今作れるセンサーの中で範囲が一番大きな物に、現実世界のレーダーの技術をいくらか組み込んで作ったの」

「な、なんかさらっとすごいことを……ロビンさん、レーダーに詳しいんですか?」

「人並程度よ。それよりアスカちゃん、ちょっとそれで飛んでみて」


 航空レーダーに詳しい人はそうそう居ないのでは? と思いながらも、アスカはロビンに言われた通り飛行を開始する。

 フライトユニットを作動させ、背中から押してくる力に任せて助走を開始。したのだが……。


「あ、あれ、なんか左に流れる?」


 いつもならまっすぐ走ってそのまま離陸なのだが、今回は何故か左に足を取られるように流れて行く。

 転ばないように何とか踏ん張り、そのまま離陸。

 しかし、飛行しても左にとられるようで、水平飛行にすると左にロールするように流れて行ってしまう。


《アスカちゃん、どう?》

「ロビンさん、なんだか左に流れます」

《やっぱり左足だけじゃ流れちゃうか》

「どういうことですか?」

《そのセンサーブレード、意外と重いし、大きいから風の抵抗も受けちゃうのよ》

「あ~それで左に流れちゃうんですね」

《体の中心線にあればバランスも良いし、風の抵抗も調整しやすいんだけど?》

「股間は却下です!」

《で、索敵範囲はどうかしら?》

「索敵範囲ですか? えっと……えぇ?」


 左に流れるのを何とか修正しながら、周囲の表記を確認する。

 するとその表記はかなり先の物まで感知しており、レーダーに表示された数もかなりのものだったのだ。

 試作品のセンサーポッドとは比較にもならない。


「す、すごいです! 今頭に付けてるセンサーポッドなんか目じゃない距離ですよ!」

《こっちでも確認したわ。範囲の方は大丈夫ね》


 センサーユニットのテストも終了という事で、ロビンのもとに着陸する。

 股間にツノが生えるというハプニングはあったが、概ね上々の成果だとアスカは上機嫌。

 だが、製作者のロビンは腕を組んで唸っていた。


「ロビンさん?」

「う~ん、左に流れるのは致命的ね。何か対策しないと……股間は駄目なのよね?」

「絶対にダメです!」


 ロビンの意見に対し、アスカは腕で×を作り力強く否定する。

 確かに、バランスと効率を考えれば体の中心線である股間部にセンサーユニットを付けるのは合理的だ。

 だが、それはあまりに卑猥であり、多感な女子高生が許容できるものではない。


「背中のフライトユニットに付けられないんですか?」

「それだと地上を索敵できないわ。ちゃんと地面の方を向けておかないと意味ないの」

「じゃあ、胸の位置にするとか」

「重心が上に行き過ぎて前のめりになっちゃうわね。あと、目の前にブレードが来ちゃうから視界最悪よ?」

「むむぅ……じゃあ、短くして軽くしちゃう!」

「それだと索敵範囲が狭くなっちゃうわね」

「あうぅ……」


 アスカもあれこれ考えてはみるが、どれもロビンに返されてしまう。


「なら……なら、右足に重りを付けて、バランスを取っちゃう!」

「それはありだけど……ただのウェイトを乗せて機動力を下げちゃうって言うのもねぇ」


 そこまで話して、何かハッとしたような表情になるロビン。


「ロビンさん?」

「……そうね、ウェイトじゃなければいいのよね。うん、それなら何とか」


 何か思いついたようで、小言でぶつぶつと何かつぶやきながら、うんうんと頷いていた。

 

 とりあえず今日のテストは終了という事で、センサーブレードは返却。

 一緒に股間にハードポイントが増設された乙式三型の腰装備を突き返す。


「あら、使ってもいいのよ?」

「い り ま せ ん!!!」


 頬を膨らませながら語気を強めるアスカ。

 ロビンはその反応を笑って流す。

 どうやら分かっていてからかったようだ。


「冗談よ。ところでアスカちゃん、改造した翡翠にパーソナルマーク付けてみない?」

「パーソナルマークですか?」

「そう。せっかくアーマーを装備するゲームで空も飛ぶんだし、飛行隊みたいなエンブレムつけても面白いじゃない?」

「飛行隊! かっこいいですね!」


 飛行隊エンブレムと聞いてアスカの目の色が変わる。

 航空自衛隊の航空祭に参加するアスカにとって、エンブレムマークは身近な存在だ。


 憧れの曲技飛行隊エンブレムのキーホルダーも、小さい頃航空祭で買ってもらった物を今も大事に鞄に付けている。


「イベントマップ上空を颯爽と飛行するアスカちゃんの尾翼に描かれたパーソナルマーク。うん、絵になるわね」

「おぉーーー!」


 ロビンの言う風景はアスカも想像できたようで、テンションが上がって行く。

 

 『Blue Planet Online』においてパーソナルマークやエンブレムは自由に設定できる。

 自分で描いたものでも良いし、ゲーム内のエンブレムショップで好みの物を探してもよい。


 特に個人を特定するパーソナルマークは重要で、皆こだわり抜いたデザインを求めるのだ。


「アスカちゃんも乗り気ね。じゃあ、どんなマークが良いかしら?」

「さすがに、急に言われると出てこないですね……」


 パーソナルマークを定めることは前向きだが、肝心なマークの形となるとまた話が変わる。

 アスカと言えども、そこに妥協は許されない。


「私のマーク……うぅん……」


 腕を組み、頭を傾げながら悩むアスカ。

 ロビンはそんなアスカの答えをじっと待つ。


「……リコリス」

「リコリス?」

「はい。リコリスの花ってどうでしょうか?」


 それはアスカが一番好きな花だ。

 航空祭に出かけたときのあぜ道で咲いていたのを見かけて一目惚れし、毎年庭に庭に植えた球根が花を咲かせるのを楽しみにしている、思い出深い花。


「リコリス……彼岸花ね。いいじゃない」

「はい。私の一番好きな花なんです」

「でも、花だけだとちょっと弱いから……朱鷺も一緒に描きましょうか」

「え、朱鷺ですか?」

「そうよ。アイビスちゃんも一緒に描いてあげなきゃ」

「アイビス?」

『はい?』


 そこでアスカはハッとした。

 朱鷺の英名は『Japanese crested ibis』アイビスなのだ。


「あら、大事な相棒なのに知らなかったの?」

「と言うか気づきませんでした」

『私たち支援AIの名前は取得時多数のネームリストから自動選択されてるだけですので、あまり重要ではありませんが……』

「ううん、せっかくいい名前なんだし、エンブレムに描いてもらおうよ」

「決まりね」


 こうしてアスカのパーソナルマークはリコリスの花と朱鷺に決定。

 デザインは二人でいろいろと探して、アスカが一番気に入ったものにすることにした。


 ロビンは製作に戻るとの事なので、アスカもミッドガルの中へ戻り適当なクエストを受注。

 経験値と資金稼ぎに精を出すのであった。

 


活動報告を更新しています。

ぜひそちらもご覧いただきますようよろしくお願いいたします。


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

本日当作品『空を夢見た少女はゲームの世界で空を飛ぶ』の累計PVが30万を突破いたしました。

これもひとえに皆様のご支援のおかげです。本当に、本当にありがとうございます。


既に世間は年の瀬大雪などの予報も出ております。

皆様方に於かれましてはご自愛専一くださいますようお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] いりませんがどうしてもあげませんにしか見えない…ウマ娘の呪いかな?
[一言] 赤いリコリスに朱雀なら 花言葉的にも アカネにマッチしすぎだね❗
[一言] 股間部にセンサーブレードは重量関係と空力と利用目的考えると最適解なんですけどね・・・ 左右どちらかにつけるとバランス整える為にカウンターウェイトとかスタビライザーつけなきゃならなくなって重く…
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