13 カルブの謝罪と新銃器
本日一話目です。
「ねーちゃん、迷惑かけてスミマセンでした!」
「あ~うんうん。カルブも悪気があったわけじゃないし。いいよ」
ようやく畑を購入した数日後、魔力草用の畝の隅でアカウント凍結が解除されたカルブがアスカに一連の騒動の謝罪をしていた。
メラーナ達がすでに一度謝罪しているが、その時は本人がいなかったため、凍結解除後にこうして再度謝罪に来ていたのだ。
アスカからしたらすでに事件は過去の物であり、カルブ自身にも運営により処罰が下されている。
これ以上責める必要はない。
「でもびっくりしたよ。久しぶりにログインしたらねーちゃん畑持ってるんだもん」
「フレンドだから入るのは自由だけど、育ててるもの持っていったり拡散したら駄目だからね?」
「わ、わかってるって」
あの事件はカルブにとって軽くトラウマになってるらしく、拡散と言う言葉に過剰に反応していた。
だが、それもある意味仕方ないのだろう。
先日撒いた二三の魔力草の種は順調に育ち、そこから五一個の種が取れたのだ。
採種はフラワーショップでしてもらったため、この五一個が全て品質Aの魔力草となる。
「アスカさん、本当にすごいですよね。どこまで増やすんですか?」
コロポックルのハルと一緒に遊びながら声をかけてきたのはメラーナだ。
「とりあえず一〇〇株まで増やしてそこから種にする物とポーションにする物に分けるつもり」
「半々でしょうか? それでも五〇個もの品質AのMPポーションと考えたらすごいですね」
「だってカルブ。絶対周りに教えちゃ駄目だよ?」
「しない! 絶対しない!」
ラゴは興味深そうに魔力草の苗を眺め、カルブは周りから揶揄われ挙動不審になっていた。
「ハル、今日の水やりはおしまいかな?」
「はいなの。あとは雑草抜いたり、農具のお手入れするくらいしかないから、僕だけで大丈夫なの」
極めて優秀なサポートNPCに畑を任せ、アスカは三人の前に立つとグイっと胸を張った。
「よし、じゃあ、行くわよ!」
「え?」
「はい!」
「あそこですね? 腕が鳴ります」
訳が分からないカルブに対し、メラーナ、ラゴは気合十分。
「鉱石採取だ! ツルハシは持ったか、野郎ども!」
「「おぉーっ!」」
「え、えぇーっ!?」
状況が理解できないまま呆けているカルブの首根っこを掴み、一行は今日もポータルからライアット雪山の採掘場へ向かうのだった。
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――ライアット雪山、中腹採掘場。
「メラーナ、左! ラゴが危ない!」
《はいっ》
《いっくぞおらぁ!》
《くそっ、足場が……》
四人小隊で挑んだ採掘場だったが、思いのほか苦戦を強いられていた。
ポイントゲッターになるはずのラゴが不整地の地面に足を取られ、思ったように動けないのだ。
カルブは重量のあるアサルトのためまだ何とかなっているが、突出しすぎてゴブリン達に囲まれてしまっている。
もっとも、この状況であってもアスカの上空支援とメラーナの補助魔法により窮地には至らない。
すこしずつ、確実に数を減らし、最後のストーンゴーレムをカルブのパイルバンカーが打ち砕いた。
「あ~~さいっっっこう!」
「馬鹿っ、今の空振りしてたら危なかったよ」
「それを当てるのが良いんだよ」
「はいはい二人とも。痴話喧嘩はそれくらいにして、採掘するよー」
ここ中腹の採掘場でのモンスター達のリポップは一定時間、もしくは日付が変わるタイミングで発生するので、当分は敵の現れない安全地帯となる。
段々になっている採掘場の壁のあちこちに鉱石採取用のポイントがあり、四人は無我夢中でつるはしを振るってゆく。
メラーナ達三人の狙いは鉄鉱石と銅鉱石。
アスカの狙いはボーキサイトと二つのレア鉱石。
お互いに必要、不必要なもので交換し、お目当ての鉱石を集めてゆく。
が……。
「あ~やっぱり出ないね~」
『希少鉱石ですので』
アスカが求めるカラド鉱石とノイドセナ鉱石はこの辺りではレア扱い。
【強運】スキルをもってしても即入手とはいかず、今回も取れ高ゼロで終わってしまった。
「やっぱり露店回ってみるのが良いのかな?」
「あの~アスカさん、トレードで探してみたらどうですか?」
「トレード?」
一般の露店が品物とジルで売買をするのに対し、品物と品物で物々交換を行うのがトレードだ。
これの利点は相手が欲する品物をこちらが持っていれば、相手が持っている希少鉱石を交換する、お互いに利益がある取引になるという点。
それこそ、こちらの方がよりいいものを出せば相手も希少鉱石を出しやすくなる。
『良い案かと。現状では鉱石を持っていますが、使い道がなくアイテムBOXで眠らせている人が多いはずです』
「なるほど。今は使い道はないけど、そのうち使いそうだからとりあえずキープ。だから売ったりしないわけだね」
「はい。でも、鉱石を持ってる人が欲しがるアイテムを取引に持ち出せば……」
「……可能性はありそう。でもそんな貴重なアイテム、私持ってないよ?」
アスカのその一言にキョトンとするメラーナ以下三人。
「……なにいってんだ、ねーちゃん」
「アスカお姉さん、今お金じゃ買えない物、それも大量にもってますよ?」
「持ってるというか……所持予定ですよね?」
「そんなのあったっけ?」
「「「品質AのMPポーション」」」
それは見事なステレオ音声であった。
普段からMPポーションを多用しているアスカからは感じにくい事だが、イベント情報が公開されてからも魔力草バブルは依然継続中。
アルバが畑をしているランナーに渡した魔力草がある程度供給される様になり、ライアット雪山の道中でも魔力草が見つかったが、MPポーションの需要に対しての供給不足の状況は解消されていないのだ。
原因はイベントへの蓄え。
品薄は消費系アイテムすべてで起こっているが、絶対数が少ないMPポーションでは顕著に表れていた。
NPCショップ、ランナーが出す露店などの店先に少しでもMPポーションが並ぶと開店数分で完売してしまう。
そんな状況なのだ。
「そ……そんなことになってたんだ」
「うん。だから俺たちもここに来る途中魔力草せっせと集めてたんだぜ?」
たしかに、カルブ達はこの採掘場までの道中、積極的に道端の採取ポイントでの採取を行っていた。
どうやら、魔力草目当てだったようだ。
「むむ、そうなるとますます魔力草がキモに……」
『取り扱いには十分注意してください』
あらかた採掘を終えた四人は一度ジーナ村へ帰還。
カフェでの休憩を挟んだのち、メラーナ達はクエストを受注して山へ入るという。
五日間ログインできなかったカルブの経験値を稼ぎたいとのことだ。
アスカも同行しようかとも思ったが、行先は坑道の中。
残念ながらここでお別れだ。
ジーナ村から坑道へつながる道で三人を見送ったアスカは、特にすることもなく空中散歩。
時にループを行い、時にロール。
気分が乗ってきてバレルロール。
ただただ飛んでいるだけなのにテンションが上がって行く。
そんな時。
『アスカ、ロビンからメールが届きました』
「ロビンさんから? なんだろう。まだ素材集まってないけど……」
『toアスカ
銃とセンサーが出来たから先にテストしたいの
ミッドガル東門までお願い
fromロビン』
「おぉ、もうセンサー出来たんだ!」
ロビンの仕事の速さに感銘を受けつつ、アスカは『すぐに行きます』と返信し、その進路をミッドガルへ向けた。
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ミッドガル東門近くまで飛行すると、地上にフレンドを示すアイコンが表示された。
見れば、ロビンが両手を振ってアスカを迎えてくれていたのだ。
それを確認したアスカは手を振って返し、旋回しながら高度を下げロビンのそばへ着陸する。
「ロビンさん、お待たせしました!」
「そんなことないわ。さすがの速さね、アスカちゃん」
挨拶もそこそこに、ロビンはインベントリから一丁の銃を取り出し、アスカへ手渡した。
「これは?」
「アスカちゃんの要望に応えた、ブルパップPDW、ピエリスよ」
「PDW?」
首を傾げるアスカ。その銃は異様とも取れる外見をしていたのだ。
まず気になるのはその形状。
見た目はトリガーとハンドガード、弾倉の付いた長方形であり、先端に銃口が付いている。
だが、全長は短くアーマライトで一m近くあった長さが半分近くになり、弾倉はトリガー前方から後方に移動。
銃上面は風の整流用カウルで覆われていた。
[武器]ピエリス TierⅡ
種別:PDW
火力:145(+20)
機動:10(+5)
ロビンが製作したブルパップパーソナルディフェンスウェポン。
カウルが取り付けられていて、空気抵抗が少ない。
「うわ、能力高いですね! しかも軽い!」
見た目こそキワモノ臭がする銃ではあるが実際に持ってみると見た目以上に軽く、取り回しが良い。
「どう? アスカちゃんの言う『アサルトライフルよりは射程が落ちるが、火力は変わらず、連射力もあり、取り回しも良い』その全部をくみ取った銃よ」
「すごいです! でも、パーソナルディフェンスウェポンってどういう事なんですか?」
『日本語では『個人防衛火器』です。端的にいえば、『貫通力のある弾丸を使用したサブマシンガン』であり、アサルトライフルとサブマシンガンの中間にあたる銃です。アサルトライフルの貫通力を持ちながら、サブマシンガンのように小型・軽量で、射撃反動が少なく、片手撃ちが可能です。ブルパップとは弾倉がトリガー、及び機関部より後方に位置された銃の名称で、銃の全長を短くできる長所があります』
「へぇ! 火力の後ろについてる括弧の+二〇って言うのは?」
『ランナーメイクでの補正数値です。ピエリスの正規火力は一二五。そこにランナーメイクでの補正値+二〇が追加され、一四五となります』
これだけ聞くと良い銃に聞こえるが、逆にいえばアサルトライフルよりは射程が短く、サブマシンガンともアサルトライフルとも違う専用の弾丸を使用するなど中途半端でマイナーな銃とも言える。
だが、そんなことを露とも知らないアスカはピエリスを左右で構えてみたりなど新しい銃に興味津々だ。
「グレネードランチャーはこれからだけど、とりあえず試してもらおうと思って」
「分かりました、ちょっと試してきます!」
息も荒げに答えると、アスカはピエリスを左手に装備してから離陸。
手ごろな標的を見つけ、実戦形式で試射を行う。
『標的、ゴブリンライダー三、距離二〇〇』
「有効射程だね、いくよっ」
左手に持ったピエリスを構え、地面を走るゴブリンライダーへ向け射撃を開始。
タタタタと言う軽快な音とともに、弾丸が連射される。
その速度はアーマライトを僅かに上回り、ゴブリンライダーを弾丸の雨が襲う。
連射力が向上していることに加え、火力の方は五割増し。
初期エネミーであるゴブリンライダーでは耐えることが出来ず、そのまま消滅した。
アスカはそのままゴブリンライダーたちの上空を通過し、大きく旋回してふたたびゴブリンライダーたちと対峙する。
「うん、良い火力! じゃあ次は……」
アスカは左手にピエリスを持ったまま、腰に下げていたエルジアエを右手に持つ。
それはアーマライトの時に試して失敗した、二丁持ちの形だ。
「片手でも撃てるピエリスと、反動の少ないエルジアエなら……」
片手撃ちも考慮されたピエリスを左手一本で、エルジアエは右手と肩で保持し、こちらへ向け走ってくるゴブリンライダーへ向け照準を定め両銃のトリガーを同時に引く。
エルジアエとピエリスの軽快な連射音が響き渡り大量の銃弾がゴブリンライダーを襲う。
前回は暴れてまともに射撃できなかったが、今度は反動を制御し、狙いを付けて撃つことが出来た。
さすがに精密射撃とはいかないが、ピエリスとエルジアエの同時射撃で弾幕を形成。
逃げ場を失った二匹目のゴブリンライダーも難なく撃破する。
「よしっ」
二匹目の撃破を確認したアスカは再度大きく旋回。今度は地上スレスレ、格闘戦の構えで突撃。
今まではエルジアエの連射モードで牽制しながら接近、すれ違いざまレイサーベルにして切り抜けていたが、それをピエリスとエルジアエで行う。
こちらへ向け突撃してくるゴブリンライダーへ向けピエリスを水平射撃。
エルジアエはレイサーベルにして展開済み。
「うりゃっ!」
ピエリスの牽制射撃で足が止まっていたところへフライトアーマーの速度が乗ったエルジアエの一閃。
ゴブリンライダーは空中へ大きく吹き飛ばされ、そのまま光の粒子になって消滅した。
「やった、完璧!」
『お見事です』
「MPもほとんど消費してないし、すごくいいよ、この子!」
試射結果に大満足のアスカはさっそく成果を報告すべく、ロビンの元へ戻っていった。
ピエリス
みんな大好きPDW(Personal Defense Weapon)個人防衛火器。
本文でアイビスが説明している通りアサルトライフルとサブマシンガンの中間にあたる銃。
詳細としては『アサルトライフルのような貫通力のある弾をサブマシンガンのような携行性と連射力で放つ』
リアルでは屋内などの閉所で取り回しがよく、ボディアーマー(防弾チョッキ)に対して有効な銃として作られた。
が、実際にはコンパクト化したアサルトライフルや強弾倉を使用したサブマシンガンで十分、専用弾が必要で補給がままならない、ボディアーマーの性能が向上してアサルトライフル弾でも通用しないなど多様な弊害が発生。
さまざまな紆余曲折を経てアスカが言うような『アサルトライフルよりは射程が落ちるが、火力は変わらず、連射力もあり、取り回しも良い』を立ち位置として各種警察や特殊部隊、PMC(民間軍事会社)に採用されている。
もっとも代表的なものは「ピーちゃん」の愛称で有名なP-90。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
イベント準備も残すところあとわずか。
フルカスタムフライトアーマーは? MPポーションは?
アスカの準備は間に合うのか?
どうぞ期待してお待ちください。
活動報告を更新しています。
ぜひそちらもご覧ください。




